【4-56】太陽と月が導く時代
「えぇと……、まず、ジェイデンのほうが金模様が基調で僕が銀というのは、僕たちの髪の色に由来しているのでしょうか。デザイン自体は王国騎士の制服に寄せている印象で、それぞれの飾り紐の色は各々の側近騎士の瞳を意識しているのではないか、と……そう思うのですが、いかがでしょう?」
ジェイデン側の衣装を見ていないため、想像から捻り出した答えではあるが、的外れではないはずだ。そう思いつつ遠慮がちに回答したキリエを、マリウスは迫力のある拍手で讃えた。
「んマァ、嬉しいワ! キリエ様がそこまで感じ取ってくださったナンテ、最高に幸せデス。でもネ、それだけじゃないのヨ。これはネ、祈りを込めた御衣装なンですヨ~」
「祈り……?」
「そ! 確かに陛下と殿下はそれぞれ金銀の印象デスし、紐の色がそれぞれの側近を表しているのも御名答デス。でもネ、陛下と殿下の髪の色だけで、金銀にしたわけじゃないんデスヨ」
マリウスはその場でくるりと回り、強靭な体躯には違和感がある程しなやかな動作で一礼する。どこか芝居がかった仕草のまま、マリウスは片手を己の胸に宛てがい、もう片方の指先で恭しくキリエを指し示した。
「キリエ様。アナタは国民から何て呼ばれているカシラ? そう、聖なる銀月の君! じゃあ、ジェイデン陛下は何て呼ばれているか御存知カシラ? そう、若き太陽の賢王!」
確かに、国民全体が豊かになっていけるよう様々な改革を推し進めようとしているジェイデンを、「太陽」や「賢王」と称する声が増えてきている。
ジェイデンが即位した直後は、貧民救済を主張するキリエを重んじていることもあり、有力貴族の中には新王に反感を持っている者も少なくなかったようだ。しかし、ジェイデンもキリエも「すべての国民が最低限の豊かさと幸福が約束されている王国」を目指しており、決して裕福な者を虐げたいわけではない。新王が目の敵にしているのは不正徴収を行うような悪しき富裕層であり、善良な富裕層に対しては「貧しい民を救うためにもう少し力を貸してもらえると大変ありがたい」と丁重な姿勢を見せ、寄付金等の負担を願い出る際にも決して無理強いはしない誠実さが評価され、徐々に有力貴族からの支持率も上がっているのだ。
「この国の新たな太陽と月の若君に期待している国民は多いのヨ。アタシだって、そう。だから、太陽の金と月の銀、ソシテ、それぞれの御傍にいる朝と夜を想像しながら、御衣装を仕上げたんですワ」
「朝と、夜……」
「暁の騎士、夜霧の騎士、と名付けたお偉いさんを褒め称えたいわネ。まさに、輝かしい朝焼けと穏やかな夜闇を思わせる側近たちじゃナイ?」
リアムは複雑そうな表情で無反応だが、キリエとジョセフは同意を示して頷いた。マクシミリアンの瞳やふわりと波打つ金髪は眩い朝陽のようで、その笑顔も黎明のごとく爽やかで明るい。リアムの霧を纏った夜闇の髪色と、柔らかで深い夜空色の瞳、静かに凪いだ雰囲気は優しい夜そのものである。
「眩しい朝空に守られた太陽と、優しい夜空と寄り添う月、そんな御二方が協力して迎える夜明けと、その先にある世界は、きっと美しいワ! どうか、それを見せてくださいナって気持ちで、精一杯に作らせてもらったのヨ」
「そうだったのですね……、僕はそんな風に言っていただけるような存在ではありませんが、ジェイデンに対してそう思ってもらえるのは、本当に嬉しいです。マックスとリアムに対してのお気持ちも、同様に嬉しいです」
「まァ、何を仰るのカシラ! キリエ様がいなかったら、何も始まらなかったでショウに」
胸を張るマリウスの言葉を受け、今度はリアムとジョセフが大きく頷く。キリエは少々気恥ずかしくなり、はにかみながら話を逸らした。
「素敵な衣装をありがとうございます、マリー。……もしかして、衣装製作のために王都に残っていたのですか? 確か、明日、最後の避難組の出発があったはずですが、そちらには合流できそうですか?」
マリウスの安全を心配するキリエに対し、マリウスは驚いたように目を瞬かせる。
「アラ、やだワ。アタシ、キリエ様におはなししてなかったカシラ? アタシ、今は仕立て屋ですケド、昔々は傭兵だったのヨ」
「えっ……!?」
「元々、服作りは好きだったワ。でもネ、先立つモンがなくちゃ開業できないでショ。だからネ、この素晴らしい肉体を活かして、暴れ回ってた時期もあったのヨ。そちらのジョセフさんは、元同業の元先パイって感じネ」
目を丸くするキリエを微笑ましげに見守るジョセフは、「その通りでございます」と頷いた。リアムは渋い面持ちで、じっとマリウスを見る。
「……参戦するのか」
「そーヨ。久しぶりに腕が鳴るわネェ」
「もう『剛腕のマリウス』に戻りたくないのではなかったのか?」
剛腕のマリウス。それが、傭兵時代の彼の通り名だったのだろうか。
おそらく、リアムは心配しているのだろう。なんだかんだ言いつつも、彼が幼い頃から親しくしている人物なのだ。危険な場所へ残らず、仕立て屋として避難すべきだと言外に勧めているのかもしれない。
しかし、マリウスはニッと笑う。
「アタシ渾身の自信作の御衣装が御披露目される現場なのヨ? 特等席で見たいじゃナイの。……それにネ、こんなに若い陛下と殿下が、新しい夜明けを勝ち取ろうと奮闘されるってときに、ただ逃げることなんて出来ないわヨ。──先々代の国王サマの時代を知ってる人間なら、誰だってそう思うんじゃないカシラ。こんなに希望あふれる時代が訪れてくれたのだもの。是非とも、それを護る一員になりたい、って」
その言葉を聞いたジョセフは感じ入った面持ちで深く頷き、そんな元傭兵たちをリアムは慈しみ深い眼差しで見つめるのだった。




