【4-52】布陣計画
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──翌日。
ウィスタリア王城の一室に、ジェイデンとマクシミリアン、イヴとアベル、キリエとリアム、──そして、今しがた呼び出されたばかりのプシュケが集っていた。
初めて妖精人の長老を目の当たりにしたジェイデンとマクシミリアンは緊張を露わにし、二度目である魔族の姉弟も畏怖の念を抱いているように見える。キリエの横に立つプシュケは、一同を冷静に眺めていた。
「プシュケ殿、お初に御目にかかります。このウィスタリア王国の国王である、ジェイデンと申します。御目通りの機会をいただけたことに、心からの感謝を」
ジェイデンが跪いて頭を垂れると、マクシミリアンも同様にする。妖精人はそんな二人を見下ろし、小さな溜息を零す。
「一国の王が、そのように易々と頭を下げるものではない。頭を上げなさい」
「いいえ、無意味に頭を下げているのではありません。私たちの祖先が、貴方がたの先祖を虐げ命を奪った。本来であれば、六十五代目の私ではなく、もっと早い段階で国王から謝罪すべきでした。誠に申し訳ない限りです。……本当に、申し訳ない。心より、謝罪申し上げる」
「……そなたに謝ってもらう必要は無い。悪事を働いたのは、そなたらにとっては遠い祖先であるユージーンであろう。頭を上げなさい」
プシュケに再度促され、跪いていた二人は立ち上がった。若き王の肩を軽く叩き、妖精人の長老は金色の瞳を覗き込む。
「そなたは、キリエの兄弟だったな。色々と親身になってもらっていると聞いている。我が孫に優しく接してくれていること、感謝している」
「いえ、そんな……、それは当然のこと。むしろ、こちらのほうこそ、キリエには世話になってばかりでして」
「そんなことはないだろう。我が孫は世間知らずで、頑固だ。手を焼くことも多いだろうが、今後ともよろしく頼む。──数日後の戦が終われば、我々が顔を合わせる機会は無い。だからこそ、今まとめて伝えさせてもらった。事が終われば、我々は静かに過ごさせてもらう」
掛けられた言葉に対して恭しく一礼したジェイデンへ頷き返したプシュケは、溜息まじりにキリエを振り向いた。
「……それで、この後は、一時的に手を組んでいると人間たちに宣言すればよいのか? 頑固な孫よ」
「は、はい……」
「一時的に魔族と手を組んでいる」だけでは不安を募らせる者も多いだろうが、「一時的に魔族と妖精人の双方から力を借りている」となれば多少なりとも抵抗感が薄れるのではないか、とキリエは考えたのだ。妖精人の意向に人間たちは抗いづらいという特性を活かし、魔族の協力を受け入れてもらえないかという計画だった。
拙い手段であり、特性を逆手に取った狡さがあると分かっているものの、なりふり構っていられる状況ではなく、綺麗事だけで乗り切れる問題はそう多くはないのだと理解もしている。
昨夜、キリエの考えを聞いたプシュケとリアムは驚いていたものの、反対はしなかった。拮抗して膠着状態の状況を打破するには悪くない意見だと捉えてもらえたのではないかと、キリエは思っている。実際、早速ジェイデンやイヴたちに話を持ちかけてみたところ、彼らは「一時的にでも妖精人と手が取り合えるならこんなにも有難いことはない」と二つ返事で乗ってきたのだ。
「おじいさまは気が進まないかと思いますが、ご協力いただけると助かります」
「確かに積極的に気が乗っているわけではないが、別に構わぬ。当日、そなたの隣にいても問題無い環境が確約されるのだから、それでよい。……若き王よ、その点はきちんと了承してもらえておるのだろうな?」
「無論でございます。キリエから話を受けた通りに、必ずや」
「魔族の娘よ、そなたも己で思考した結果、納得しておるのだな?」
「勿論」
ジェイデンとイヴが即座に首肯すると、プシュケもまた頷きを返した。
約束の決戦当日、王城入口と大広場の境目となる正門前にジェイデンとマクシミリアン、キリエとリアムが待機し、主にその四人の守護役としてプシュケが傍に控える。この主要五人に近いほうから順に名誉称号騎士、王国騎士の各部隊、此度のために雇った傭兵が待機し、それを取り囲むようにモンスの弓部隊とアルスの銃部隊が潜む形の布陣となる。なお、通常は国境での任務を遂行している赤薔薇の騎士・ローザおよび白百合の騎士・リリーも王都へ呼び戻されており、ローザは本来は遠撃を得意としているのだが今回は剣を持つ白兵として参戦することになっていた。
決戦地とする大広場を囲むように魔石を設置し、その他に各部隊の指令役および補佐役にも魔石を持たせ、戦況を見ながらアベルが発動を操作する。イヴは自身の魔術で応戦および防衛に努める、といった手筈だ。
ちなみに、魔石は、魔国で採れる石材にあらかじめ魔力が注ぎ込まれたものを原材料としており、それを砕いて術式を刻み込み研磨することで仕上げていくらしい。アベルはイヴの魔術で軽量化ならびに小型化するという形で多めに石材を持ち込んでいたのだが、それらを全て魔石化したという。大量の魔石製作は重労働だったはずだが、彼は愚痴ひとつ零さず「みんなが助かるならそれでいいよ」と微かに笑っていた。
とにもかくにも、極力、兵たちの命を守るためには、この計画の成功が第一だろう。そのためにも、これから行う宣言が上手く作用されねばならない。キリエが緊張と決意を改めて胸に抱いたところで、「そろそろ大広場へ移動しましょうか」とマクシミリアンが一同を促した。




