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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第4章(最終章)
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【4-43】意外な誘い



 チェットは日が沈む前に帰ってしまったため、その日もキリエは物寂しい夕食の時間を過ごし、魔族の姉弟と談話を少し楽しんでから、リアムを伴って自室へと引き上げた。明日はアルスとモンスそれぞれから派遣されている精鋭部隊の訓練を視察する予定があるため、その件について相談しておきたかったのだ。

 温かいショコラミルクを飲みながら大体の段取りを話し終えたところで、ジョセフとエドワードがやって来た。


「し、失礼します」

「失礼いたします。御話し合いは、如何ほど進まれましたでしょうか」


 エドワードはどことなく緊張した面持ちで、所在なさげに視線を彷徨わせている。おそらくジョセフは、若きフットマンの付き添いのために同行してきたのだろう。


「大事な内容は、大方話し終えたところだ。どうした?」


 キリエとリアムが目的を持って話をしていると把握していながら、その途中かもしれないのに部屋を訪れるなど、有能な執事らしからぬ行動である。だからこそ、何か急用かもしれないと考えたリアムは案じる視線を向けたのだが、ジョセフは柔和に微笑んで首を振った。


「御心配をおかけして、申し訳ございません。急ぎの用というわけではないのですが、可能であれば本日中にエドの話を聞いてやっていただきたく、キリエ様が御就寝前にその旨をお伝えしておかねばと、無礼ながら顔を出させていただいた次第です。まだ御話の途中でしたら出直しますので、出来ればエドの話を聞いてやっていただけますか?」


 彼の言葉から察するに、リアムだけではなくキリエもエドワードの話へ耳を傾ける必要があるようだ。キリエと視線を交わしてから、リアムは訝しげにジョセフを見遣る。


「……今宵でなくてはならない理由は何だ?」

「明日の御予定では、キリエ様ならびにリアム様は、リツ様と会われるでしょう? その前に御耳に入れるべきかと考えましたゆえ」


 意外な名前が出てきたなと一瞬だけ驚いたキリエだったが、そういえばエドワードは彼から手紙を貰っていたとすぐに思い出した。リアムも同様に思い当たったのか、ジョセフの隣で狼狽えているエドワードへ声を掛ける。


「エド。リツ様からの御手紙はどうだった?」

「えっ、えぇと……、でも、今ここで話していいんすか……?」

「エド、僕たちの話は大体終わっていますから、よかったら君の話を聞かせてください」


 遠慮して口ごもるエドワードを、キリエは柔らかい口調で促した。本当は椅子を勧めて座ってほしいところなのだが、それは叶わないと分かっているため、せめて近くへ寄ってほしいと揃えた指先で己の横を指す。パァッと破顔したエドワードは、すぐにキリエの傍へ駆け寄った。


「ありがとうございます、キリエ様、リアム様」

「どういたしまして。……それで、エド。一体どうしたのですか? リツが手紙に何か変なことでも書いていましたか?」

「いえ、変というか……、変と言えば変なんすけど、悪い意味ではないんすよ、たぶん」


 キリエが首を傾げると、エドワードは胸元から件の手紙を出し、封筒ごと渡してこようとする。驚いたキリエは、それを押し止めた。


「えっ、だ、駄目ですよ、エド。それはリツから君への手紙でしょう? 僕が直接目を通すわけには……」

「えぇっ、そうっすか!? ど、どうしましょう! ジョセフさんに読んでもらっちゃったんすけど……!」

「あっ、え、えぇと……、リツだって、エドの立場を理解しているわけですし、ジョセフやリアムの目に触れる可能性があると分かっているはずです。彼はとても頭の良い人ですし、もしかしたら、僕が読んでしまうことも想定しているかもしれませんが……、でも、僕はリツと仲間というか友人というか、それなりに親しい間柄ですから。遠慮なく読めるものではないというか、罪悪感があるというか……」


 親しき仲にも礼儀あり、である。手紙の内容について話を聞いてしまうのであれば結果的に同じような気がしなくもないが、やはりリツの筆跡をそのまま目で追って読んでしまうというのは、盗み見の罪悪感と抵抗感が段違いのように思えた。

 キリエの言い分に納得したのか、エドワードは大きく頷いてから手紙を再び燕尾服の中へと仕舞い、堂々と言い放つ。


「リツ様が、オレと一緒に暮らしたいって言ってるんすよ。どうしてっすかね?」

「……えっ?」

「あっ、えっと、もちろん今すぐとかじゃないみたいっすけど、落ち着いたらアルス市国においで、一緒に暮らそう、って誘われてるみたいで。リツ様の家って人手不足なんすかねぇ……、でも、フットマンなら他にもっといい人いると思うんすけど」


 エドワードの言葉は脳内に届いてはいるものの、何を言われたのか理解が出来ない。呆けているキリエの向かいで、リアムが頭を抱えて溜息をついた。


「ジョセフ。こいつが何を言っているのか分かるようにしてくれ」

「承知いたしました」


 執事は楽しそうに微笑み、首肯する。なるほど、エドワードの話を要約するために彼が付き添ってきたのか、とキリエはようやく把握した。


「リツ様の御手紙には、大まかに分けて三つの要点がございました。ひとつめ、エドが書く文章に興味があるため何か読ませてほしいこと。纏まった文章をすぐ見せるのが難しいようであれば、この手紙への返事として日記を書いてみてほしいとも添えられていました。ふたつめは、もしも文章を書く仕事に興味があるのであればアルス市国においてリツ様の庇護下で挑戦してみるのは如何だろうかという御誘いです。先程エドが申していた通り、早急にということではなく、双国の交流が落ち着き移住が現実的になってからでよいと補足されておりました。みっつめは、それらの話題を含め、一度じっくり会話をしてみたいのだが時間を取ってもらえるかという御質問です」


 的確に内容をまとめられた言葉を聞き、キリエとリアムは顔を見合わせた。

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