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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第4章(最終章)
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【4-40】リツからエドワードへの手紙

 ◆◆◆



 ──翌日、午後。

 来訪の約束をしていたチェットは、定刻ちょうどにやってきた。相変わらず飾り気のないさっぱりとした服装で、明るい笑顔もいつも通りだ。


「よぉ、キリエ。お邪魔するぜ!」

「ようこそ、チェット。こんにちは。ふふっ、今日もお元気そうですね」

「当たり前だろ! しょぼくれてるオレなんて、オレじゃねーっての。あ、ここに来る前に城に寄ってきたんだけど、これ、プリシラ嬢からキリエへ贈り物だとさ」

「シーラから?」

「おうよ。城内でたまたま会ってさ、キリエに贈りたいけど届けに行く時間が無いから手が空いてそうな騎士に頼みたいが暇な奴が見当たらねぇ的なこと言って困ってたから、預かってきた。今は、そうそう手の空いてる騎士なんていねぇだろうからな」


 チェットはそう言って軽やかに笑いながら、ハンカチが掛けられた手提げ籠を差し出してくる。キリエの隣に控えていたリアムが受け取り、ハンカチを外して見ると、ショコラを使った素朴な焼き菓子がぎっしりと詰められていた。小さなカードが添えられていて、屋敷の皆で食べてくれると嬉しい、大変な時期だけれども元気に乗り切ろう、といった意味合いの優しい言葉が綺麗な書き文字で綴られている。


 プリシラは王妃になるための教育を受けつつ、王城内で慌ただしくしているジェイデンやコンラッドの補佐も務めている。多忙を極める彼女と顔を合わせることは滅多に無いが、それでもプリシラはキリエへの気遣いを忘れず、定期的に手作りの菓子を贈ってくれていた。必ず、「御屋敷の皆さんでご一緒にどうぞ」と添えてくれる。そんな彼女の優しさが届けられる度に、サリバン邸の一同は感謝していた。


「シーラもお忙しいのに……、後で御礼状を書かなくては。チェットも、届けてくださってありがとうございます。シーラのお菓子、とっても美味しいのです。一緒にいただきましょう」

「未来の王妃様の手作り菓子がいただけるとは、幸運だな! ……あ、そうだ。アンタがエドワードか?」

「へっ?」


 玄関扉の脇に立ってニコニコと様子を見守っていたエドワードは、急に会話の矛先を向けられ、間の抜けた声を上げる。チェットは面白そうにニヤニヤ笑い、エドワードの目の前に歩み寄って、彼の碧い瞳を見上げた。


「この屋敷で一番の長身、かつ、一番の美形。黙っていると磁器人形のような美貌だが、口を開きゃ能天気な癒し系。そんなアンタの御名前は?」

「そ、そんな人間かどうか分からないっすけど、オ、オレはエドワード、です」

「ほーら、やっぱりアンタがエドワードじゃねぇか。エド、こいつはお前さんへのお届け物だ」


 喉奥でくつくつと笑った赤髪の男は、どことなく気障な仕草で胸元から封書を取り出し、エドワードへと差し出す。フットマンは狼狽えて視線を泳がせていたが、ふと目が合ったリアムが促すように頷くと、おずおずと手を伸ばして受け取った。


「え、えっと、ありがとうございます。え、えっ、えーと……、だ、誰から、でしたっけ」

「リツ。ジャスミンのいとこだかはとこだか、そんな感じの親戚だよ。ほら、此処にも何回か来てるだろ? 水色の髪で、小綺麗な顔して澄ましてる男」

「あ、えっと、リツ様のことは覚えてるんすけど……、なんでオレ宛に御手紙をくださったのか……」


 エドワードが困惑するのも無理はない。しかし、キリエの脳裏には、王都へ来た一年の節目を祝ってもらえたあのとき、エドワードを気にしていたリツの姿が思い浮かんでいた。当時、傍で密かに聞き耳を立てていたリアムにも思い当たる節があったのか、オロオロと落ち着かないフットマンへ声を掛けた。


「エド。もう下がっていいから、リツ様からの御手紙を読んでみるといい。お前だって読み書きは出来るんだから大丈夫だろう?」

「た、たぶん……」

「心配なようなら、ジョセフに一緒に読んでもらうといい」

「かしこまりました! し、失礼しまっす!」


 綺麗な姿勢で一礼したものの、そのあとはドタバタと駆け去ってゆくエドワードの後姿を見て、リアムは嘆息する。そして、チェットへ向けて頭を下げた。


「チェット様。躾が行き届いておりませんゆえ、失礼いたしました。ご無礼をお許しください」

「何が? 別に無礼なことなんかされてねぇよ。伸び伸びと素直に育ってる感じで、オレは好きだぜ。アンタの教育がいいんだろうな」

「……恐れ入ります」


 複雑そうな面持ちのリアムに代わり、キリエが笑ってチェットの腕を引く。


「チェット、僕の部屋に行きましょう。上の階のお部屋に案内したことはないですよね? 中庭がよく見えるのです」

「おっ、キリエの部屋に入れてくれるのか? それは楽しみだ」


 チェットはあっけらかんと笑い、腕を引かれるままついてくる。彼は既にエドワードのことも、リアムの謝罪も、全く気にしていないようだった。


「今は冬ですから植物は殆ど無いですが、雪が降り積もっている静かなお庭も綺麗なんですよ」

「そっか、そっか。この国の雪は優しいものなんだな」

「モンスは違うのですか?」

「うちは、寒さが厳しいからなー。冬の間は結構しんどい生活を強いられるんだ」


 雑談を交わしながらキリエの部屋へ向かっていく二人の背を追いながら、リアムはこっそりと小さな溜息を零した。

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