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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第4章(最終章)
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【4-32】報告と提案と助言と報告

 緊張感がやや解れて柔らかな雰囲気になったところで、傍観していたリアムが口を開く。


「──では、そろそろ本題に入ろうか」


 その一言で、再び空気が引き締まった。とはいえ、先程までのように互いを探っているピリピリとしたものではなく、程よく真面目で頭が冴える類の空気だ。


「キリエ様。先程ルーナが少々口にしておりましたが、まずは彼女から一通りの報告を受け、その内容を順次キリエ様ならびにイヴとアベルを交えて精査してゆくという形で進行してよろしいでしょうか」


 気持ちを切り替えさせる意味を含めているのか、リアムは段取りを再確認するようにキリエへ問いかける。それを受けたキリエは素直に頷いた。


「はい。そのような流れでお願いします。イヴとアベルも、それで大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

「大丈夫。ちゃんと聞くし、ちゃんと話すよ」


 そう言った姉弟は傾聴の姿勢を見せ、ルーナは静かに語り始める。彼女は報告内容として、以下のことを聞かせた。


 カインによる襲撃は予告してきた日時を違えることはないと仮定し、尚且つ短時間で一気に片をつけようとするはずだと予想したうえで、王都内の国民の避難も最低限の期間──往復の移動も含めて一週間から十日ほどを設定する、と王城内会議で結論を出した。

 避難地は地方の小さな町と町の間にある草原地三ヶ所を候補としており、該当地の領主もおそらくは受け入れを快諾してくれるだろうと目論んでいる。もっとも、国王から直々の依頼を断るなど、どこの貴族もしないだろうから当然の前提ではあるのだが。

 避難地に身を寄せるのはほんの数日であり、避難期間の殆どが移動時間に費やされることも考え、避難対象王都民には必要最低限の貴重品以外は家屋に残しておくように命じる予定だ。抵抗をおぼえる民も多いだろうが、どうしても補助の限界があるのだから仕方がない。金品類は王城内の大倉庫のいくつかを整理し、双方の目視下で管理台帳を記入した上で預かる手筈も整える予定であるため、それで納得してもらえるよう国王名義の触書を何度か出そうと準備している。

 また、王都から大勢の人が姿を消すのに合わせて悪事を企む輩も出現すると思われるが、そこは裏稼業の世界に精通しており発言力もある人間から牽制するそうだ。──おそらくは、それを淡々と報告しているルーナが秘密裏に働くのだろう、とキリエとリアムは予想する。「月夜の人形会」は、裏社会において一目置かれる存在だったようで、長らく頭領を務めていたルーナの口から出る情報への信頼度は抜群に高いそうだ。彼女による牽制は強い効果があるだろう。


「……とまぁ、王家が最近決められたのは、ざっとこんなところかねぇ。キリエ殿下、何か気になることはおありですか?ジェイデン陛下からも、キリエ殿下の御意見はよく聞いてくるようにと仰せつかっておりますので」


 ルーナに促されたキリエは暫し考え、ふと思いついたことを口に出した。


「王都の中でも少し外れたところで暮らしている人々の中には、農地を持っている方々もいるはずです。避難時は冬季ですから、畑作していない家も多いでしょうが、事前に注意喚起しておいたほうがいいかもしれませんね」


 的外れなことを言っていないか不安になったキリエが見つめると、その視線を受けたリアムはほんのり微笑む。


「仰る通り、該当期間は更地にしておくか、留守にしても作物に問題が無い状態に整えてもらうよう促しておいたほうが良いでしょう。……ちなみに、キリエ様。農地に言及されたのでしたら、もう一言、ご意見をいただければと」

「もう一言……?」

「王都郊外には、確かに農家が点在しています。地方の町ほどではありませんが。同じように、我々の食卓を支えてくれている産業があるのでは? キリエ様も大好きでしょう?」

「僕の好きなもの……、あっ、ミルク……! そうですね、畜産家の方々も大事なお仕事をしてくださっていますよね。動物をみんな連れて行くのは難しいでしょうし……、ど、どうしたら……」


 皆の視線が集まってきているのを感じながらも、キリエはそれ以上は案が思い浮かばず、小さく唸った。縋るようにリアムを見ると、藍紫の瞳は「もう少し頑張れ」と言うように笑む。


「全ての動物を避難地へ連れて行くのは難しいけれど、見殺しにするわけにはいかない。残された動物たちの世話を試みるならば、キリエ様でしたらどのような環境を望まれますか?」

「え、えぇと……、もしも僕がお世話係になったとするなら、色んな家を回るのは大変ですし手が足りないと思います。せめて、一箇所にまとまってもらえれば……」


 よくできました、と顔に書いてあるリアムは上機嫌に微笑み、満足気に頷いた。


「左様でございますね。どこか代表の牧場を決めて、一時的に移し、王国騎士が交代で世話をするという提案をなさるのもよろしいかと存じますが、いかがでしょう?」

「は、はい! 是非それで提案したいです!」

「御意。──ルーナ、分かったな? キリエ様からの御提案はきちんと陛下へお伝えするように」

「はいはい、きちんと伝えるよ」

「キリエ様からの御提案だ、ときちんと言えよ」

「分かってる、分かってる。キリエ殿下の御成長に感動して機嫌が良くなる陛下の様子が目に浮かぶよ、まったくもう……」

「なんだその顔は。報告係としてしっかり任務を果たせ」


 どちらもキリエに対して甘いのは同じであるのに、息が合っているのかいないのか微妙なところである二人のやり取りを聞きながら、レオンは優しい苦笑を浮かべ、イヴとアベルは物珍しそうな顔で観察しながら同時に茶をすすり飲んだ。

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