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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第4章(最終章)
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【4-24】三国と一国と一族の均衡

 ◇



 プシュケを見送った後、キリエたちは食堂へ戻った。そちらがまだ話し合い中であれば再び応接室で待機するつもりだったが、三国側も何かしらの結論が出たところだったようで、快く迎え入れられた。


 先程までと同じ席順で主要人物が座り、騎士たちもそれを取り囲む形で各々の立ち位置で背を伸ばす。

 イヴとアベルが着席すると、ジェイデンが視線で促し、その指示を受けたレオンとルーナが魔族の姉弟の拘束を解いた。


「さて。──挨拶が遅れてすまなかった。僕は、ジェイデン=フォン=ウィスタリア。ウィスタリア王国の王だ。キリエ、マデリン、そしてそこの水色の髪の姫君・ジャスミン、あとは、君たちの兄・カインに唆されて動いていたライアンという者と兄弟だ」


 唐突に身の上を明かしたジェイデンの発言を聞き、驚いているのは、キリエだけだった。もともと食堂で話し合っていた皆は勿論、リアムも眉ひとつ動かさず、イヴとアベルも全く驚いていない。

 唖然としているキリエを置き去りにして、挨拶が続いていく。


「私は、リツ=レイ=アルスと申します。魔族の方々が把握していらっしゃるか分かりませんが、現在、この地は三つの国に分かれているのです。私はそのうちのひとつ、アルス市国の王家の末端に名を連ねている者です」

「オレは、チェット。モンス山岳国の頭領だ。オレ個人としてはもっと早くネタばらししたかったんだが、まぁ、立場的にもそうはいかねぇからさ。名乗りが遅れて悪かったな!」

「……別に、構わない」


 イヴは驚愕は見せないものの、やや警戒を高めたようだった。急に自己紹介をした主要人物三名の顔を順に見ながら、訝しげに問い掛ける。


「どうして、急に名乗る気になったの? 貴方たちが正体を明かさずとも、交渉や話し合いは進められたはずなのに」

「進行は可能だが、精度は低くなるはずなのだよ。なぜなら、そこに信頼が積み重ねられないからだ」


 金髪を揺らしながら首をすくめつつ、ジェイデンが答えた。砕けた様子のようでいて、その金眼には隙が無い。


「僕たちは、話し合いの末、君たちが真実を語っていると仮定することにした。となれば、真実を語る相手に腹の内を見せないのは悪手になる。互いに腹を割って本音をぶつけ合ったほうが、同じ敵に立ち向かうにあたり絆を深められ、良い相乗効果に期待できるからな。……そうだろう、リツ殿、チェット?」

「ええ。ジェイデン様の仰る通りです。そして実際、我々の判断は正しかった、とイヴとアベルの反応で分かりました」

「本音を隠してオレたちを利用したいってんなら、こんな好機に戸惑いを見せるはずがねぇからな。信じてくれて嬉しい~って媚びを売ってくるのが定石だろ。裏を掻いて演技できるような器用な奴らにも見えねぇしな」


 ジェイデンたちの言葉はイヴへ向けられていると同時に、キリエへの説明も兼ねていた。なぜ急に名乗ったのかという理由と意図を十分に理解したキリエは、ジェイデンへ感謝の視線を向ける。それに気づいたジェイデンは、目元を和らげて小さく頷いた。


「……つまり貴方たちは、あたしたちの話を信じてくれたというわけか。それで、手を組むかどうか話し合ってくれる、と?」

「その通り。ただ、条件如何によっては交渉決裂となる可能性もあるのだよ」

「ああ、それはあたしも理解している。──あたしとアベルも考えた。魔族保守派としては、カイン討伐後は今までと同じ関係性に戻るべきだと考えている。魔族はこの地には関わらない、貴方たちもこの地の外には関わらない、そして、人間たちも妖精人(エルフ)と関わらない。それぞれがそれぞれに距離を保ち、これまで通りの平和を保っていくべきだ。……そう考えている」


 イヴの発言を受け、三国の代表者が視線を交わし合う。そうして意思疎通した末、リツが穏やかに問い掛けた。


「なるほど。でも、それはイヴの個人的な考えでしょう? ああ、無論、アベルはそれに賛同しているのでしょうが……、魔族保守派に属している他の方々はいかがです?」


 菫色の瞳は優しい笑みを浮かべながらも、鋭い棘が見え隠れしているようだ。この話し合い以前にはそんな眼差しに怯んでいたイヴだが、今は落ち着いて見つめ返している。


「あたし以外の者たちも、賛同してくれるはずだ。もともと我々は妖精人の意思にそぐわないことは好まない。妖精人の長老に愛されている半妖精人(ハーフエルフ)のキリエが、人間たちの三国の要である貴方がたの間で歯車を回している。そして、それを妖精人は黙認している。……それで十分に分かる。妖精人がこの地の人間の滅亡など望んでいない、と」


 その言葉は建前に近く、実際にはプシュケとの対話を経てイヴの考えが定まったのであろうが、妖精人との接触を伏せてほしいというキリエとの約束を守るためにそんな言い方になったのだろう。キリエは心の中で深く感謝した。

 三国の代表者たちは再び視線を交わし合い、小さく頷く。そして、重々しい空気を祓うかのように、チェットが豪快な笑い声を上げた。


「ははっ! よかったなぁ、イヴ。無事に交渉成立になりそうだぜ!」


 チェットに続き、ジェイデンとリツも自然な笑みを見せる。安堵したらしいイヴは肩の力を抜き、彼女の唇もまたささやかな微笑を描いて見せたのだった。

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