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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第1章
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【1-16】銀のお人形

 銀のお人形──そう称されているのが己のことだと察し、キリエの背を寒気が駆け上がる。この馬車を取り囲んでいるのは「月夜の人形会」という盗賊団らしい。裏競売をしているという話も聞こえてきたから、もしキリエが捕らわれれば、売り捌かれてしまうのだろう。


「……何のことだか分からないな」

「とぼけないでほしいですねぇ。川の近くで見かけちゃって、ここまで追いかけてきたのでねぇ。女の子か男の子かよく分からないけど、銀色のかわいいお人形が! この中に~!」


 女の声が高まったところで、またまばらな拍手が聞こえてくる。何か合図でも出されたのかもしれない。

 そして、彼女が言うように、前回休憩した場所は川沿いだった。キリエが小柄なこともあり、遠目では性別の判断が出来なかったのだろうが、銀色の頭髪は目立つ。闇競売での売り物に適していると目を付けて、ここまで尾行してきたのだろうか。


「ゲスどもが競り合っていいような御方じゃない」

「勘違いしないでほしいですねぇ。確かに銀髪のお人形を欲しがるお客様は多いと思うけどねぇ、銀のお人形は私たちが愛でるために! 欲しいんですねぇ!」


 また、拍手。しかし、これまでよりもバラバラ感は少なく、どこか統一感がある響きだ。それがまた、なんとも不気味である。


「どういうことだ?」

「どういうこともこういうこともないねぇ。単に、欲しい。それだけですねぇ。妖精人(エルフ)のようなお人形、私たち、ずっと探していたからねぇ! いいことも! いけないことも! どうしようもなく教え込んで可愛がるためのお人形を! しかも銀色~!」

「……狂っているな」


 拍手が高まる中、苦々しげにリアムが呟いた。声と物音だけを聞いているだけでは、状況が分からない。人質になっていると思われるトーマスのことも気になる。膝を抱え直したキリエは、そのとき妙な気配を察して振り向いた。


「……ッ」


 人は本当に驚いたときには咄嗟に声が出ないらしいと聞いたことがあるが、実際にそうらしい。キリエが身を寄せているのとは反対側の扉が静かに開かれているのを見て、声にならない声を上げる。

 じわじわと開いた扉の隙間から、黒衣を纏った腕が伸びてきた。どうするべきかとキリエが焦り迷っていると──、突然、身体を預けていた扉が開かれた。


「わ……っ」


 馬車から転がり落ちそうになったキリエの腰を、すぐに力強い腕が抱き寄せる。リアムは素早く扉を閉めたように見せかけて再度大きく開き、反対側から侵入してきていた輩が外に出ようとしている動きに合わせて思いきり扉をぶつけ閉めた。額を強く殴打された侵入者は馬車の中で動かなくなったが、おそらく気絶しているだけだろう。


 一連の動作を振り返ることなくやってのけたリアムは、剣を持っている方の脇の下に抱え持っていた鞘をキリエへ手渡してきた。


「持っていていただけますか」

「は、はいっ」


 見た目以上に重たい鞘を両腕で抱え込みながら、キリエは周囲を見渡す。──そこには、異常な光景が広がっていた。真っ黒なローブを身に纏い、目元以外は全てが隠されている、そんな人間たちに取り囲まれている。数は二十、いや三十人ほどはいるだろうか。気を失っている御者を抱え込んでいるのが首謀者の女だったらしく、先程まで聞いていたのと同じ声音が歓喜の言葉を発した。


「ああ……、ああ、なんとも愛らしいですねぇ! 男の子なんだねぇ、それでも可愛いねぇ、そして美しい銀色の髪! 瞳の色まで銀色とは! ますます妖精人ですねぇ! く~ださい!」

「誰が渡すか」


 漆黒の布で隠された両腕を伸ばしてくる女を一蹴し、リアムは申し訳なさそうにキリエを一瞥する。


「申し訳ありません。できれば馬車の中にいていただきたかったのですが、やはり難しかったようで」

「いえ……、助かりました。ありがとうございます」


 第三者が目の前にいるということで、リアムは「キリエの騎士」として話しているようだ。その緊張感のある眼差しにつられて、キリエも表情を引き締める。

 トーマスに外傷は見られないが、黒い集団はそれぞれに

刃物を持っているため、油断はできない。


「騎士様ひとりで私たち全員を相手にするつもりですかねぇ? その銀のお人形をくれれば、このお爺さんは返すんだけどねぇ」

「貴様らなど、俺ひとりで十分に相手できる」

「それは、トーマス爺さんがいなければ、の話だろうけどねぇ」

「……」


 リアムは悔しげに唇を噛み、反論しなかった。

 おそらく、トーマスが捕らわれていない状態であれば、片腕にキリエを抱えながらでもリアムは戦ったのだろう。ここまで悪条件でなければ、夜霧の騎士は寡を以て衆を制す男のはずだ。

 だが、彼は人質になっている御者を見捨てることは出来ない。リアムの置かれている立場を考えれば、平民の御者など切り捨てて対処すべきなのだろうが、彼はそこまで非情になれない男だ。


「その銀のお人形がどれだけ尊い立場なのか知らないし、その割に護衛が手薄すぎるし、そちらさんの状況はよく分かんないけどねぇ、このトーマス爺さんを捨てるべきなんじゃないのかねぇ?」


 ヒヒッと不気味な笑い声を上げた女が、側に居る仲間に目線を送り、その視線を受けた者がトーマスの首筋に短剣を当てた。


「おい、やめろ……!」

「この爺さんを殺されたくないなら、銀のお人形を渡してほしいねぇ。大丈夫、私たちは銀のお人形を殺したりはしないからねぇ」

「ふざけるなッ」


 リアムの纏う殺気が凄まじいものになっていても、黒い集団は余裕の様子だ。


「トーマスさん……っ」

「駄目だ、キリエ! 俺から離れるな!」


 思わずトーマスに向かって手を伸ばしかけたキリエに、リアムが怒号を発する。第三者の前では敬語でという姿勢が崩れるほど、なりふり構わない状態ということは、それだけ彼に余裕が無いのだろう。


「キリエっていうんだねぇ、良い名前。か~わいい!」


 女の称賛に合わせて、また、拍手が響き渡る。黒い集団が乱雑に手を打ち鳴らしている姿は、実際に見ると相当に異常な光景だ。

 まばらな拍手音で盛り上がってきたからか、トーマスに当てられていた短剣がわずかに動かされる。その動きに合わせて細く赤い傷が生じたのが、遠目に見ても分かった。


「やめてください! その人は何も関係ないでしょう!」

「キリエが私たちのお人形になってくれれば、トーマス爺さんはすぐに助かるけどねぇ」


 悲鳴に近い声音で制止の言葉を発したキリエに対し、黒衣の女は楽しげな笑い声を上げ、短剣を持っている仲間を煽るような目配せをする。

 その短剣がトーマスの首へ新たな傷をつけようとした、その瞬間──キリエの瞳が紅色に輝いた。


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