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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
131/335

【2-113】甘やかな早朝

 ◇



 ──翌朝。

 リアムとジョセフが早朝稽古へ向かうのと入れ違いに、セシルとエレノアがキリエの部屋の前へやって来た。現在、リアムたちの稽古場所はキリエの部屋を見上げることが出来る中庭へ移っており、廊下側をセシルたちが警戒しておけばキリエの身に危険が及ぶ可能性は低い。


 というわけで、本来はリアムが稽古から戻りキリエを起こしに行くまでの間の警護がセシルとエレノアの役割であるため、普段は部屋の前で静かに立っているのだが──本日は、彼らはこっそりと入室した。リアムには内緒で起こしてほしいと、昨夜キリエから頼まれていたからである。


「キリエ様、おはようございます」


 寝台へ静かに近寄ったセシルが柔らかい声で呼びかけると、銀髪の王子は寝ぼけ眼を何度か瞬きさせたあと、ふわりと笑って起き上がった。


「おはようございます、セシル、ノア」


 セシルとエレノアはきっちりと一礼し、おはようございます、と声を揃えて挨拶した。キリエも軽く頭を下げ、いそいそと布団から這い出る。


「起こしてくださって、ありがとうございました。余計なお手間をかけさせて、すみません」

「いえ、とんでもございません。──もうお召し替えになりますか?」

「はい、もう着替えちゃいます」

「承知いたしました。では、自分は洗顔用の水と布巾をお持ちいたします。……セシル」

「了解。……では、キリエ様。ボクがお着替えのお手伝いをいたしますね」

「ありがとうございます」


 着替えなど自分ひとりで出来るし、勿論キリエは今までもそうして生きてきたのだが、身の回りのことは使用人の手を使ってするようにとリアムから言い含められており、徐々に矯正されている日々だ。

 ただでさえ、彼らの無駄な仕事を増やしているようで申し訳ないうえに、今朝はキリエの都合で普段とは異なる時間帯に動いてもらっている。いたたまれなくなったキリエは、箪笥から衣装を選び出しているセシルへ謝罪の言葉を発した。


「僕のワガママで動いていただいて申し訳ありません、セシル」

「えっ? 何を仰っているんですか、キリエ様。キリエ様は全然ワガママなんかじゃないですよ。むしろ、ボクたちとしてはちゃんとしたワガママをお聞かせいただきたいくらいです」

「ちゃんとしたワガママ……?」

「はい。リアム様もキリエ様もボクたち使用人をとても大切にしてくださるので、ボクたちのほうがいたたまれない気持ちになることが多いんですよ。他のお屋敷の使用人から見たら、此処は天国のような場所なんです。──さぁ、キリエ様。本日はこのお召し物でいかがでしょうか?」


 明るい声で話題転換をしたセシルは、キリエが気に入っている一式──マリウスから贈られた、リアムの髪色のような上下セットと瞳の色のリボンタイを掲げる。それに合わせているのは、肌触りの良いシンプルなシャツだ。


「今日はリアム様のお誕生日ですからね。だから、キリエ様も内緒の早起きをされたのでしょう?」

「いえ、それはちょっと違うというか……、いえ、それもそうなのですが、」


 キリエがそう言いかけたところで、部屋の前で話し声が聞こえ、静かなノックと共に、水を張った小さな桶を持ったエドワード、布巾を手にしているエレノア、そして大きな銀盆を両手で持っているキャサリンが入室してきた。


「おはようございます、キリエ様。お約束通り、リアム様のお稽古中に参上いたしました」

「失礼いたします。ちょうどキャシーと遭遇したので、共に参りました。……エドを呼んだ覚えはないのですが、何故か付いてきました」

「おはようございます、キリエ様! ちょうど手が空いていたので、ついてきちゃったっす!」


 室内が一気に騒々しくなり、セシルは呆れたように笑いつつ、ちらりと窓のほうへ視線を投げる。確かに、これだけ賑やかに人が集まっていると、気配に敏感なリアムが何か勘づいてしまうかもしれない。キリエはそそくさとスリッパを引っかけ、キャサリンへ近付いた。


「キャシー、運んでいただいてありがとうございます。どうでしょう?」

「はい、いい具合に固まって、美味しそうに出来上がっておりますわ」


 彼女が持つ盆の上には、歪な形のトリュフショコラがいくつも並んでいる。──そう、これは、昨夜リアムの目を盗んでキャサリンに教わりながらキリエが作ったものだ。といっても、キリエはあらかじめ用意されていた材料を混ぜ合わせ、手のひらで丸めた程度のことしかしていないのだが。


「うーん……、すごく不格好ですね」

「そんなことございませんわ、キリエ様。ひとつひとつに気持ちを込めていらっしゃるのが伝わってきます。確かにまんまるではございませんが、丁寧に作られていると分かる形ですわ」

「気持ちは込めたので、それが伝わると嬉しいのですが……」


 使用人たちは、皆ほほえましそうにキリエを見つめている。彼らはきっと、キリエがリアムのために菓子作りをしたと思っているのだろう。それは間違いではないが、正解というわけでもない。


 キリエはエドワードが持つ桶で手を洗い、エレノアが差し出した布巾で水滴を拭い、キャサリンから受け取った銀盆を寝台へ載せる。そして、近くの小机に積んでいた、紙製の手作り小箱をいくつか寝台へ移し、そのひとつにトリュフを二つ詰めたものを──キャサリンへと差し出した。

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