【2-111】誇らしい居場所
ノックの後、室内からの応答を待つことなく、ジェイデンとリアムが入室してくる。彼らは、キリエの真横で跪いているマクシミリアンの姿を見て、驚きと呆れが混ざった表情を浮かべた。
「……何をしているのだよ、マックス」
「これはこれは、ジェイデン様! おかえりなさいませ! キリエ様に私の想いをたっぷりと聞いていただいていたところでございます」
立ち上がり姿勢を正しながらのマクシミリアンの言葉は、あながち嘘ではない。嘘ではないが、真実とも言いがたい。そんな微妙な気持ちを顔に浮かべているキリエを見つめて、リアムは静かに問いかけた。
「キリエ様、マクシミリアンとお過ごしになられていかがでございましたか?」
「えっ、えぇと……、有意義だったと思います。前よりもマックスと仲良くなれたような気がします」
「そうでしたか。途中、少々悲しまれていたり、高揚されていたりと、若干お気持ちが乱れていらっしゃったような気がいたしましたが、大丈夫でございましたか?」
「えっ? その……、確かに少し気持ちがぐちゃぐちゃになったときはありましたけど、大丈夫です。問題ないです」
キリエは嘘をつかない。それをよく分かっているリアムは、マクシミリアンをじっとりと睨みつける。マクシミリアンは飄々とした笑顔のまま視線を逸らした。
「マクシミリアン。なぜ、キリエ様のお気持ちが乱れたんだ? ぐちゃぐちゃになられたそうだが」
「さぁ、分からないなぁ……、私の言葉が情熱的すぎて蕩けてしまわれたのかもしれないね?」
「……お前、斬られたいのか?」
「おーっと、まぁまぁまぁまぁ! キリエに泣いたりしていた様子も無いし、仲良くなれたというのなら、それはそれでいいじゃないか!」
このままでは氷点下の怒りを滾らせそうなリアムを制し、ジェイデンが明るい声を張り上げる。そして彼は、キリエの肩を抱くようにして軽く叩いてきた。
「キリエ、リアムは実に優秀な男だな。物静かだし、穏やかだし、細かく気がつくし、非常に落ち着くのだよ。傍にいてもらうには最適だな。……どうだ、キリエ。君もマックスと仲良くなったというのなら、いっそ本当に側近を交換するか?」
「えっ!? そ、それは困ります……!」
「困る、ですって? 嗚呼、キリエ様! 今しがたまで、あんなにも熱く愛の言葉を交わし合っていたというのに、何故そのように冷たいことを仰られるのですか!」
「えぇ!? 愛の言葉を交わし合っていた覚えはないのですが!?」
ジェイデンとマクシミリアンはからかっているだけなのだが、間に挟まれているキリエは本気で困惑している。リアムが助け舟を出そうとしたとき、銀の王子は混乱気味に言葉を発した。
「僕は、その、マックスのことも好きですけど、でも、隣にいてもらうならリアムがいいです! それに、マックスにはジェイデンの隣にいてほしいのです! マックスはジェイデンの騎士、リアムは僕の騎士、というのが一番しっくりくるような気がします!」
キリエのその発言を聞き、リアムは上機嫌に頬を緩める。先程マクシミリアンに詰め寄っていたときとは大違いの、穏やかで優しい表情だ。
「うわぁ……、リアム、君ってそんなに表情筋が動く男だったんだね。長い付き合いだけど、そんなにデレデレした顔をするなんて知らなかったよ」
「うるさい。そういうお前だって、随分とだらしなく緩んだ顔をしているぞ」
「だって、それは仕方ないだろう? 主君の隣が似合うと言っていただけるだなんて、側近騎士としてこんなに光栄なことは無いからね」
「確かに。珍しくお前と意見が合ったな」
機嫌よく笑う騎士たちを眺めながら、ジェイデンはキリエの耳元にこっそりと囁きを落としてきた。
「リアムは、僕の話に耳を傾けながらも、ずっとキリエの様子を気にしてウズウズしていたのだよ。あんなに想ってくれる側近がいて、君は幸せ者だな」
キリエは嬉しそうに頷いた後、「君だって負けないくらいマックスから想われているのですよ」と囁き返すのだった。




