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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
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【2-107】裏台帳

「これは……、多すぎるように思えるのですが。私の父が治めていた頃の、およそ倍額の税になっているように見受けられます」

「やはりそうか……」


 ジェイデンは苦々しく呟き、リアムから紙を受け取って、再び懐へしまい込んだ。


「実は、これは僕が飼い慣らしている隠密部隊が入手してきた裏台帳の写しなのだよ」

「裏台帳、……ということは」

「王家へ提出され、王城で保管している台帳記録とは別物ということだ。──調べてみたところ、サリバン伯爵が没落してからこの領地を引き継いだヤーノルド伯爵は、ここ五年で随分と派手で豪勢な遊び方をするようになったようなんだが、それに対し、ここの領民たちの貧困具合は深刻なものになっている。元々は非常に豊かな地域だったらしいが、たった五年で随分と寂れて疲れた土地に成り果てているようだ」

「……念のために確認させていただきますが、この税額は国の予算委員会が算出したものではございませんね?」

「ああ、違う。──つまり、これは不正徴収だ」


 ウィスタリア王国では、毎年、宰相が中心となって各領地に課す税額を決めている。その年の作物の収穫量や経済の流れ等を考慮し、国民の負担が大きくなりすぎないように調整をしているのだ。

 その事情があるため、余計に富裕層が貧困層を見る目が厳しくなっているという現状である。王家や宰相が国民の負担を減らすよう配慮してくださっているのに甘えたことを言うな、という非難だ。


 しかし、領主が不正に税を徴収して私腹を肥やしているとなれば、それは全く的外れな批判となる。ちなみに、王家が出した予算以上の税の取り立ても、その税金を私財とすることも、厳禁となっていた。不正徴収が判明した場合、領主の家長は死刑となり、一族も末席に至るまで路頭に迷う羽目になる。


 王族の生活予算は多めに組まれているものの、極端に多いというわけではなく、だからこそ国民から徴収している税額も抑えられている。適正額の税を納めれば、領主に対しても爵位に合わせて十分な見返りがきちんと与えられるという仕組みもある。領民も税として支払う以外の金品で商売が可能であり、領主と領民が協力して豊かな地域を目指している場所もあるのだ。


 ──没落する前のサリバン家が治めていた地域も、そうであった。領主であるリアムの父は王都で生活していたものの、信頼できる領主代行を現地に置き、自身も頻繁に領地を訪れ、領民の生活水準に気を配っていた。

 国が定めた予算に合わせた税収を行い、上手く統治すれば、理論上では貧民の割合はかなり少なくなるはずなのである。実際に、リアムの父が治めていた頃の領民の貧困率は低かった。


「……この不正徴収の話は、来月の最終討論会で取り上げるつもりだ。だから、別にキリエに伏せる必要は無かったんだが、あの子の前でパトリアのことを君に尋ねたくなかった。……君がそのように苦しい顔をしていたら、優しいあの子はひどく傷ついてしまうだろうからな」

「ご配慮いただきまして、ありがとうございます。──申し訳ございません」

「いや……、父親が立派に治めていた地域を穢されたと知れば、胸が痛むのは当然のことだ」


 苦しげに顔を歪めて両拳を握り締めているリアムを眺めながら、ジェイデンは並べられているマドレーヌに手を伸ばす。リアムの気持ちが落ち着くのを待つつもりなのだろう。

 のんびりと焼き菓子を頬張り、ゆっくりとひとつを食べきったジェイデンは、茶を飲んでカップを空にする。それに気づいて茶を注ぎ足すリアムの顔は、既に平常通りの冷静な表情に戻っていた。


「あー……、実は、ルース地方の領主も不正に手を染めているようでな。後日、キリエにも、彼が暮らしていた辺りの裏台帳の写しを見てもらおうと思うんだが、……どうだろう?」


 リアムはジェイデン以上に、キリエが傷つくことへ敏感だ。だからこそ、ジェイデンも歯切れ悪く確認をしたのだろうが、リアムは穏やかに頷く。


「必要なことかと存じます。──キリエ様も多少は傷つかれるかもしれませんが、貧困の原因が判明し、適切な対処が取られれば、ルース地方の貧民が減る、孤児も減っていくはずだという流れは理解していただけるはずかと。悲しまれた分以上のご安心を抱いていただける日も、そう遠くはないでしょうから」

「そうだな。今すぐには無理でも、不正徴収を暴いていけば各地の貧困層は徐々に薄くなっていくはずなのだよ。それを説明しながら、キリエにも確認の協力をしてもらおう」

「ええ、それがよろしいでしょうね」


 キリエに対し少々どす黒い話を持ち掛ける許可を側近から得られたことに、ジェイデンはほっとしたようだった。しかし、金の王子が表情を緩めたのは一瞬のことで、再び緊張感のある面持ちになる。


「キリエの悲願を叶えるためには僕が即位するのが手っ取り早いわけだが、なんとも大きな障壁を見つけてしまったのだよ。──さて、リアム。ここからが本当の密談だ。ここから先の話は、決してあの子の耳に入れないでほしい」

「承知いたしました」


 リアムが居住まいを正して首肯すると、ジェイデンは苦々しい顔、なおかつ重々しい口調で言った。


「近々、王立教会を『大掃除』することになりそうだ」

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