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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
119/335

【2-101】絶対に止まらない

 ◇



「エド、もう誰も追ってきてないみたいですよ。大丈夫ですから、僕を下ろしてください」


 サリバン邸の敷地を抜けて暫くの間、郊外の道では追手があったが、縦横無尽に駆けて行くエドワードについていくことは不可能だったのか、もしくは通行人や行き交う馬車を避けながらの追跡が難しかったのか、今はもう黒衣の姿はひとつも見えない。

 だが、エドワードは息を切らせて顔を真っ赤にしながらも、そのまま全力で駆け続けている。キリエが止める声も、すれ違う人たちの驚きの眼差しも、全く気にも留めない。


「ダメっす! 最後まで気を抜いたら、ダメっすよ!」

「でも、このままではエドが死んでしまいそうです!」


 エドワードが限界を超えて走っているのだと分かっているキリエは、半泣きだ。しかしエドワードは強気に笑い、目を輝かせた。


「大丈夫っす! でも、キリエ様! 一個お願いしてもいいっすか?」

「はい! 何でも! なんですか!?」

「首元を! 緩めていただいても! いいっすか!?」


 そんなことで少しでも楽になるのならと、キリエは焦る指先をもどかしく思いながらもエドワードのクロスタイを取り、シャツのボタンを胸元近くまで外す。すると、エドワードは気持ちよさそうに笑った。


「っし! ありがとうございます、キリエ様! 息が楽になったんで、もうひと踏ん張り、頑張るっす!」

「エド、もう頑張らなくて大丈夫です! 下ろしてください!」

「いいえ! リアム様の目の前に到着するまで! 下ろすわけにはいかないっす!」


 リアムが乗っている馬車を探しながら、エドワードはがむしゃらに駆けた。


「オレ、誰にも勝てない馬鹿っすけど! 足の速さだけは誰にも負けねぇっす! 絶対に、絶対にキリエ様をお守りします! 二度と足が動かなくなっても! 心臓が破けても! それでもオレは走るのをやめねぇっす!」


 エドワードがそう吠えた瞬間、彼の肩口を何かが掠ってゆく。──矢だ。

 周囲のまばらな通行人たちから悲鳴が上がり、二発目の矢が飛んできた。しかし、それは外れてどこかへ消えてゆく。

 見れば、馬に乗って追ってくる黒衣の者の姿が近づいてきていた。キリエに当たらないようにしているからか的を定めるのが厳しいようだが、それでも次の矢をつがえている。


「ッ、地味にいってぇな……!」

「エド! 肩、ケガしてます!」

「オレなんかより! キリエ様に御怪我は!?」

「僕は大丈夫です! でも、君が!」

「キリエ様、オレの胸に顔を当てといてください! 危ないから、頭を上げちゃダメっすよ!」


 キリエを守るように背を丸め気味の姿勢になりながら、エドワードはますます不規則な動線で走った。矢が当たりにくくするためだろう。

 エドワードは懸命に駆けるが、徐々に失速し始める。肩の傷のせいで身体に力が入らなくなってきているのかもしれない。キリエはエドワードに懇願した。


「エド、お願いですから、止まってください! あの人たちは、僕を殺したりはしません! でも、このままじゃ君が……!」

「絶対! 止まらねぇっす!」

「でも……っ、ぁ、危な……ッ」


 エドワードの肩越しに、追手が矢を放つ瞬間を目の当たりにして、それはこのフットマンの背に当たってしまうとキリエは直感する。ああ、どうしよう、どうしたら。混乱するばかりで言葉もまともに出てこないキリエの視界の隅で、不意に純白の騎士服がはためいた。

 よく知っている姿だと認識した瞬間、その騎士──リアムは二人と追手の間に駆け込み、飛んできた矢を剣で斬り落とす。


「止まれ、エドワード!」


 柔らかいながらも凛としていてよく通る、慣れ親しんでいるリアムの声音。主人に名を呼ばれたエドワードは即座に足を止め、振り向いた。


「……っ、リアム様ぁ!」

「リアム……!」


 エドワード、そして彼の腕に抱えられているキリエの無事を確認し、リアムは安堵したように微笑んだ。しかし、次の瞬間には表情を引き締め、馬で迫ってきていた追っ手を引きずりおろし、その腹部を思い切り蹴り上げた。そして、起き上がろうともがいている相手の眉間を剣の柄頭で殴りつけ、気絶させる。

 家族を危険に追いやっていた相手に対し殺気を滾らせていたリアムだが、公道で衆目を集めている現状を冷静に顧みて、とりあえずは剣を収めた。


「月夜の人形会か……?」

「そうです! お屋敷を襲ってきて、それで、みんなが逃がしてくれて、エドはずっと走ってくれて……! ケガをしたのに、それでも走ってくれて……!」


 舌足らずに状況説明をしようとするキリエを抱えたまま、エドワードはフラフラとリアムへ近づく。そして、夜霧の騎士の腕へ、銀の王子を託した。リアムは腕の中に預かったキリエが無傷なことを確認してから、そっと地面へ下ろす。

 リアムがねぎらいの視線を向けると、エドワードは嬉しそうに笑った。


「リアム様、オレ、キリエ様をお守りしたっす……!」

「ああ、よくやった。本当に、よく頑張ったな。お前は俺の誇りだ、エドワード」

「へへっ……、やった、ほめられた……っす」


 キリエをリアムの元へ無事に届けた安心感や気が抜けた疲労感からか、エドワードはふにゃりと笑ったまま意識を失って倒れてしまった。


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