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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
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【2-99】月夜の人形会 再び

 ジョセフが廊下の奥の一点を正確に凝視すると、クスクスと笑う女の声が聞こえてくる。それは、キリエにとって聞き覚えのあるものだった。


「あーあ、あの騎士様がいなくなってしまえば余裕で任務を達成できると思っていたんだけどねぇ……、まさか他にも超人的な気配察知能力者がいたとはねぇ……、ざーんねん!」


 そんな言葉と共に、黒衣を身に纏った女が棚の陰からぬるりと出てくる。彼女の姿を捉えた瞬間、キリエの背筋を寒気が走った。

 ──そう、彼女は、王都への旅路の途中で襲撃してきた盗賊団の長だ。黒衣と長髪に覆われて顔は確認できないが、そう確信できた。


「月夜の人形会……!」

「彼女が? ──なるほど、他にも様々な気配が潜んでおりますが、全て彼女の手下なのでしょうね」


 キリエが発した小さな叫びにジョセフは反応し、静かに剣を抜く。エドワードは丸腰ながらも、ジョセフと挟み込む形でキリエを背に庇う体勢を取った。


「お久しぶりだねぇ、キリエ。覚えていてくれて嬉しいねぇ。ああ、相変わらず、なんて可愛らしい! まるで妖精人(エルフ)のような姿も、ますますそそられるような透明感が増していて! 素晴らしい! 素晴らしいねぇ、キリエ!」


 黒衣の女はキリエをじっと見つめ、歓喜に満ちた声音で歌うように言う。気持ちが昂った勢いのまま彼女が拍手を繰り出すと、屋敷内の様々な場所から手を打ち鳴らす音がまばらに聞こえてきた。その音から察するに、潜んでいる輩はそれなりに多数のようだ。


「貴様、無礼であるぞ。この御方をどなたと心得ている?」


 ジョセフが低く唸るように威嚇するも、黒衣の女は全く気にする様子もなくケタケタと愉しげに笑う。


「王子様なんだっけ? でも、そんなこと、どうでもいいねぇ! だって、キリエは、私たちが愛でるためのお人形なのだから! こんなところに閉じ込めておくなんて勿体ない! 色々なものを見せて! 色々なものを聞かせて! 色々なモノを触らせて! 皆で触って! 愛でるためのお人形! 必ず手に入れる! そして! 全力で愛し抜く~! はい、拍手~!」


 相変わらず狂気じみた妄言を並べ立て、女は激しく手を叩く。周囲のバラバラな拍手の音も先程より大きくなり、気色悪い。

 女をじっと見据えながら、ジョセフは背後のエドワードへ向かってぼそぼそと呟いた。


「エド、キリエ様をお抱えして全力で逃げなさい。君の足なら、まだリアム様の馬車へ追いつけるはずだ」


 その言葉を聞いたキリエが声を上げそうになったが、それを察したエドワードが素早く口元を手で覆ってくる。


「いいか、エド。今、ノアとセシルが雑魚を散らしながらこちらへ駆けてきている。あの子たちなら、瞬時に状況判断をして、君が屋敷を出るまでの補佐をしてくれるだろう。大丈夫だ、私たちに任せて、全力で駆けなさい。いいね?」


 エドワードは真剣な目で頷いた。彼の力は意外と強く、キリエはエドワードの手を引きはがしたくとも出来ない。

 リアムが不在の今、サリバン邸の使用人たちだけで月夜の人形会と渡り合えるかどうか分からないのだ。確かにジョセフはリアムの剣の師であるし、エレノアも武術を習得しているそうだが、敵側との人数差が大きすぎる。

 トーマスを容赦なく人質にしていた彼らを思い出し、キリエは自分だけがここを離脱することに抵抗したかったのだが、ジョセフとエドワードの決意は固かった。


「おやおや、キリエを羽交い絞めにしたりして、そっちのお兄さんは何を企んでいるのかねぇ? まずは、おじさんじゃなくてお兄さんと遊んでもらおうかねぇ?」


 黒衣の女がねっとりと煽るような言葉を寄越すが、それをジョゼフの冷静な囁きが打ち消す。


「彼女の言葉に耳を貸す必要はない。いいね、エドワード。とにかく、キリエ様をリアム様の元へまっすぐお連れするんだ。……五、四、三、二、一、行きなさい!」


 ジョセフの合図と共に、エドワードはキリエを横抱きにして勢いよく駆け出した。

 黒衣の女と数人の手下が一気にエドワードへ向かっていこうとするが、ジョセフの剣が彼らを阻止して薙ぎ払う。


「ジョセフ……!」

「キリエ様、オレの首にしっかり掴まっててください!」

「駄目です、エド! みんなが、みんなが……っ」

「大丈夫! オレたちを信じてくださいっす!」


 階段を駆け下りるエドワードへ手下たちが群がろうとするが、その間を黒い影が素早く縫ってゆき、黒衣の者たちは次々に倒れて行った。ステッキで敵の急所を的確に突き倒しているのは、エレノアだった。


「加勢する! 行け!」


 燕尾服を華麗に翻すエレノアが短杖を駆使して道を開く先では、セシルがドアを開放している。彼は片手で扉を抑えながら、近くにいる敵を器用に蹴り倒していた。華奢な身体から繰り出されているとは思えない強靭な蹴りは、大男を一撃で沈めている。


「エド! 振り返らずに走れ!」

「あとはボクたちに任せて!」

「はいっす!」


 エレノアとセシルの声に鼓舞され、エドワードは更に加速しながら屋敷の外へと飛び出した。

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