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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
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【2-98】屋敷に潜む影

 ◆◆◆



「本当に大丈夫か……?」


 ──中間討論会から一週間から過ぎた本日、また名誉称号騎士の集会があるとのことで、リアムはキリエを屋敷に残して王城へ向かおうとしていた。

 なかなか玄関を出ようとしないリアムを見上げ、キリエは苦笑を浮かべる。


「前回だって、ソフィアが訪ねてきただけで、特に問題は無かったでしょう?」

「……だが、お前は意識を失った」

「あれは僕の心の弱さが原因です。大丈夫ですよ、あんなこと滅多に無いのですから」


 安心させようとキリエが諭しても、リアムは納得しようとしない。マデリンに襲われた一件以降、リアムは以前以上にキリエの傍を離れたがらなくなった気がする。


「リアム様、我々も十分に警戒してキリエ様をお守りいたします。念のために私は剣を腰に下げておきますし、ノアにもステッキを持っておくように申し付けておりますので。それでご安心いただけませんか?」


 最終的にジョセフが温和に窘め、実際に帯剣している姿を示す。エレノアも短杖を所持していることを仕草のみで伝え、それを見たリアムは渋々ながらも納得したようだった。


「分かった。お前たちを信じる。くれぐれも、キリエのことをよろしく頼む。……キリエ、絶対に一人にはならないでくれ。分かったな?」

「はい、分かりました。リアム、気をつけて行ってらっしゃい」

「……ああ、行ってくる」


 リアムはキリエの頭を撫でてから、心配そうな面持ちながらも玄関を出てゆく。今回も送迎はトーマスに依頼しているようだ。

 行ってらっしゃいませ、と声を合わせて頭を下げていた使用人たちは、扉が閉まると同時に姿勢を正してキリエを振り向いてくる。


「さて、キリエ様。本日も、私と一緒にお過ごしいただくということでよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします。ジョセフも色々とお忙しいのに、僕が独占してしまってすみません」

「お気遣い頂きまして、ありがとうございます。しかし、どうぞお気になさらず。──そうですね、ここ数日は公務でお出掛けが立て続けでしたからお疲れでしょうし、今日はゆっくりと過ごしましょうか」


 確かに、昨日まで四日連続で公務に赴いていた。一日に二ヶ所の孤児院を廻った日もあったため、キリエの疲労もそれなりに溜まってはいる。しかし、キリエとしては、自分よりもリアムとエドワードの疲労感のほうが気掛かりだった。


「僕よりも、リアムとエドのほうが疲れていると思います。二人が働いているのに、僕だけ休むなんて出来ません」

「ふふ、キリエ様は本当にお優しいですね。では、エドワードも交えてカードゲームでもいかがですか? 確かに彼にも休息は必要ですから、キリエ様さえよろしければご一緒させてやってください」

「わぁ……っ、はい、ぜひ!」


 キリエが瞳を輝かせている横で、エドワードも嬉しそうに頬を紅潮させる。


「えっ、えっ、そんな畏れ多いこと、本当にいいんすか!?」

「キリエ様がお許しくださっているのだから、大丈夫だよ。……キリエ様、よろしいのですよね?」

「勿論です! エド、君さえよければ、僕と一緒に過ごしてくれませんか?」

「よ……っ、よよよ、喜んで! ありがとうございますっ」


 エドワードが幸せそうに笑っているのを眺めて、他の使用人たちも微笑ましそうに笑った。そんな彼らを見て、キリエは「あっ」と小さな声を上げる。


「でも、他のみんなはお仕事があるのですよね……?」


 申し訳なさそうなキリエの言葉に反応したのは、セシルだった。


「キリエ様、お優しい御気遣いをありがとうございます。でも、ボクたちのことはお気になさらないでください。普段からきちんと休暇や休息もいただいていますから、大丈夫ですよ」

「そうですか……?」

「はい。ただ、確かにここ最近のエドはずっと働いていたので、キリエ様がお許しいただけるのでしたら御傍で休ませてあげてください」


 セシルの言葉にエレノアも同調して頷き、キャサリンも両手を合わせて微笑む。


「あとで、お茶とお菓子をお持ちいたしますわね。……リアム様に関しましては、キリエ様が健やかにお過ごしになっている御姿を見守ることが一番の癒しになると思います。ですから、まずはキリエ様がごゆっくりなさって、英気を養ってくださいませ」

「はい、分かりました。ありがとうございます、キャシー」


 ジョセフとエドワード以外の使用人たちはにこやかに一礼し、それぞれの持ち場へと向かって行った。それを見送ってから、ジョセフは穏やかに移動を促してくる。


「それでは、キリエ様。御部屋へ参りましょうか。カードはキリエ様の御部屋にございましたね?」

「はい。ちょうど昨夜、寝る前に少しリアムとカードで遊んだのです。以前よりは、ルールが理解できてきたと思います」

「流石はキリエ様でございます。ただ、エドの理解力に合わせていただくとなると、簡単なゲームだけになってしまいますねぇ……」

「うっ……、も、申し訳ないっす」


 項垂れるエドワードの背を、キリエは慌てて撫でた。


「だ、大丈夫ですよ、エド! 僕だって、まだ難しいゲームは出来ないのです。一緒に、簡単なものからジョセフに教えてもらいましょう?」

「キリエ様ぁ、ほんと、いつもいつも優しくしていただいてありがとうございます……! 大好きっす!」


 賑やかな会話と共に大階段を登り切ったところで、不意にジョセフが足を止め、キリエを背に庇う。瞬時に緊張感を纏わせたジョセフに気づき、エドワードも表情を引き締めた。


「あの……、ジョセフ?」

「キリエ様、お気をつけください。──何者かがおります」

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