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夜霧の騎士と聖なる銀月  作者: 羽鳥くらら
第2章
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【2-90】水色の信頼

「えー……、それでは、このまま討論会を進めてまいりましょう。各候補者様方の論述をお聞きしたいと存じます」


 拍手が鳴りやんだところで、進行役のコンラッドが発言し、王子王女たちの顔を順に見渡した。


「どなたの御話からお聞きしましょうか? 特に御希望が無いようであれば、私めが進行を決めさせていただきますが」

「わたしから話すわ。語ることが少ない人が最初のほうがいいと思うもの」


 意外にも、先陣を切ったのはジャスミンだった。水色の姫君は、ふわふわとした口調ながらもはっきりとした言葉を紡ぐ。


「たぶん、みんな分かっていると思うけれど、わたしは次期国王になるつもりはないわ。それは、支援を申し出てくれている貴族の人たちにも事前に話してあるから、問題ないはずよ。わたしのお母様はアルス市国の姫君だから、政治的な意味合いを考えても、わたしはウィスタリア王国で今以上の地位を持つつもりはないし、持ってはいけないと思っているわ」


 そこまで語った彼女は、そこで一度唇を閉ざし、キリエを見つめてきた。キリエが首を傾げて見つめ返すと、ジャスミンは可愛らしい微笑を浮かべる。


「でもね、わたし、キリエが御披露目の儀でお話ししていた『この国はもっと国民に優しくなれるはず』という言葉が胸に響いたの。わたしは王位なんていらないし、権力もいらないけれど、この立場でキリエに協力できることがあるのならしたいと思っているわ。今後は慈善活動にも力を入れていきたい。だから、わたしを支援してもらっても貴族の皆さんにはあまり利点は無いと思う。──話したいことは、以上よ」


 ジャスミンは、国政に関わる気はないがキリエの手助けはしたいし慈善活動には参加するという趣旨の言葉だけを発して、小さな唇を閉ざす。役目は終えたと言わんばかりの顔をしている彼女へ、ライアンが質問を投げかけた。


「ジャスミン。先日のキリエの挨拶において、彼は『国の優しい在り方』について何ひとつ具体案を出していなかった。それにも関わらず、協力を公言してしまっていいのか?」


 ライアンの語り口は冷静だが、その声音には若干の怒りが滲んでいる。彼はいったい何に憤りを感じているのだろうとキリエは得体のしれない不安を感じたが、ジャスミンにはそういった感覚は無いのか平然と答えを返した。


「構わないと思っているわ。確かに、キリエはまだ何も具体的なことを言っていない。今日の論述で何か発表するのかもしれないし、やっぱりまだ何の案も無いのかもしれない。それでもいいの。わたしは、キリエを信じているから。ジェイデンよりも、ライアンよりも、キリエを信じているから」


 王女がふわりと吐き出した本音に、周囲の貴族たちは静かにざわめく。流石にジェイデンも驚いたのか、目を瞬かせた後に苦笑していた。一方、キリエはひたすらに困惑し、ライアンはますます苛立っているようだ。


「ジェイデンもライアンも、何を考えているのかよく分からないわ。でも、キリエは具体案は持っていなくても何を考えているのかは伝わってくるの。彼には、嘘が無い。ただ、自分の今までの経験に基づいて貧しい国民を助けてあげたいだけ。それだけなのよ。それはとても単純なことかもしれないけれど、まっすぐな真実であるのは確かだわ」


 ジェイデンは気分を害した様子もなく、参ったなと云うように苦笑いするばかり。マクシミリアンも同様だ。

 しかし、ライアンは明らかに機嫌を損ねていた。だが、彼はその不満をジャスミンにぶつけようとはせず、何故かキリエを睨みつけてくる。ブルーノは主君の怒気に戸惑いながら、キリエに対して申し訳なさそうに目礼してきた。


「ジャスミン様の御話は、以上でよろしいのでしょうか? それでは、次はどなたの御話をお聞きしましょうか」


 場の空気が険悪寄りになってきたのを感じ取り、機転を利かせたコンラッドが話題を変えようとする。その発言を受けて、キリエは挙手をした。


「話す内容が少ないほうが先ということでしたら、次は僕はお話ししようと思うのですが……」

「承知いたしました。それでは、次はキリエ様の御話をお聞きいたしましょう」


 ジェイデンとマクシミリアンは、キリエに対して励ましを込めた視線を送り頷きかけてくる。彼らに頷き返したキリエがそっとリアムを見上げると、彼もまた穏やかな眼差しで頷いてくれた。


 この中間討論会においてキリエが果たさなければならない役目など無いに等しいのだが、ジェイデンの足を引っ張らないよう注意しなければならない。リアムに支えられながら独走していればよかった先日までとは違い、今はジェイデンと協力関係にあるのだから。

 キリエは緊張しながらも、静かに語り始める。


「僕は、先日の御披露目の儀でもお話しした通り、次期国王を目指すつもりはありません。──ですが、次期国王になってほしい人はいます。僕は現在、ジェイデンが次期国王に即位できるよう、陰ながら支え応援したいと考えています」


 その言葉を聞いた周囲に衝撃が走り、人々はどよめいた。

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