奇妙懲らしめ事件 竹中を食らわす。
奇妙丸を懲らしめます。
それだけの話
翌日、奇妙様のところへ勉強のお伴として、登城する。まぁ習いの内容は叔父上のお話なので復習だ。
朝の稽古が終わった。兄も私も今日は父上にボコボコにされた。
たるんでおると、一喝を受ける。
まぁ、時たまある恒例行事です。父上は真面目なので、こうやって時たま喝を入れる。特に褒めた翌日などに。
朝飯後に、正装して、お城に。お城にて城門の門番や近習の方々などに挨拶しながら、奇妙様のところへ。途中で木下様にお会いした。本日は午前は奇妙様の稽古の伴をし、その後に叔父上のお話だ。
お部屋に入ると、いきなり木刀で攻撃してきた。大振りだし、しょっちゅうやるので奇襲にならない。
最近では勝てないからとこの奇襲をよくやって来る。やっぱり調子に乗っている。一発かまそう。竹中半兵衛様、貴殿の策を使用させていただきます。お許しください。
「木刀を持っていない時に攻撃とは、殺す気でしょうか?」
「こうでもしないと勝てないのでな。」
「やめていただきたい」
「そっちがその変な言い回しをやめたらな。」
「ふう、前にお伝えしましたが、周りに聞こえない状況でしたら、元に戻します。」
「ふむ、覚えておるが納得がいかぬ。」
そう、話し方は公式では丁寧に、私的では奇妙様には粗雑な話に変えている。そしてこれは説明を何度もしたのだ。
「では賭けをしましょう。」
「賭けとな」
「ええ、奇妙様は三人の護衛をつけ、私はたった1人で戦い。お互いに一発入れられたら、負けです。負けた方は何でも言うことを聞く。」
「ほう、ではわしが勝ったら、一切口答えは許さぬ。」
「わかりました。では、私が勝ちましたら、先程のような行為をやめ、今後は自身の行為を見直していただきます。」
「よかろう」
奇妙様は三人の者を集め、護衛にし、一人が守り、二人が詰め寄って来ます。
もう一歩ほどで護衛が私に一撃入れられる距離に来ます。
「勝三よ、護衛が一発入れても勝ちで良いのだな。」
「護衛が一発入れた場合も勝ちとなります。」
すると、奇妙様はニヤッとした。勝ちを確信したのであろう。
自身に有利な条件。
勝三は調子に乗った。堀がいることを考えもしなかった。
そんなところでしょうか。策に乗っているとも知らずに。
しかし次の瞬間、奇妙丸様は尻をつき、負けていました。
どんな手を使った?
他の護衛がそう思ったのだろう。一瞬止まり、後ろを振り向く。そりゃ私に攻撃しようと周囲を囲んだ瞬間、
後ろで奇妙様が尻をつき、頭を打たれている音がするのだから。
簡単です。堀様を買収しておりました。この作戦を考えた際に堀様が出てくることは容易に思いつきました。ですので、たまたま本日城門でお会いした木下藤吉郎様に堀様にお取り次ぎいただき、今回の作戦を頼んだのです。
これらを伝えると、
「卑怯だ」と喚く喚く。堀様の顔が歪む。
そこに、叔父上と共に、お屋形様がいらっしゃいました。
「奇妙、見ておったぞ」
「父上」
「勝三よ。作戦は見事だ。奇妙、それを卑怯とはそれでも織田家の嫡男か」
奇妙様は泣きそうです。いや泣いている。
「勝三よ、なぜこのようなことをした?」
「はっ、最近の奇妙様は自身の立場を理解なされておらぬと思いまして。慎重な行動をしなくては、いずれは織田家の当主となられる身としていけません。そこを理解していただきたく。どんなに勝ちが揺るがない状況に見えても、油断なされていけないということを身をもって体験していただきました。これが私の諫言でございます。これは、私がいたしましたこと、堀様や私の家族は関係ありません。どうかこの首でお許しください。」
「ふふふ。お主の首はまだ興味がない。今回は不問にいたす。ただし、奇妙よ、お主は勝三とした約束を守れ」
さすがお屋形様。天下人は器が違う。良いことは良いとやっぱり認めてくれた。
信長様を極悪人、無慈悲、天魔王など呼ぶが、それは徳川家康が自分の格を保つために信長様を落としただけだ。これは史実でも有名だよ。死人に口無し。無能はよく喋る。
本当(この世界)の信長様は、正しく良いものは良いと認める度量を持つ天下人だ。
じゃなきゃ、あそこまでいけないよ。そして、冗談もわかる風流者だ。
この時代で、新参者は常に嫌われるし、
既得権益を守ることに皆必死だよ。
特にこの時代はプチ氷河期だから。科学技術も未熟でプチ氷河期とくれば、多くの人が死ぬ。
わかりきった答えだ。そんな中、既得権益を壊すものは、まぁ嫌われます。
だって皆自分の利益を守ることに精一杯だからね。
ただ、お屋形様は全員の利益を食うのではなく、他人の利益を掠めとる者たちから既得権益を奪うことをするのですよ。だから良い人なんです。そしてそれの利益を民にも回るようにした。
言ってしまえば、鼠小僧を超絶な大規模でやろうとしたんだよ。
でもそれが政治だ。それこそ政治だ。
金持ちが不当に金を貯め、それが社会経済に流れなければ、経済は金が回らずに破綻し、民が苦しむ。それをさせないために、既得権益を潰す。いたちごっこかもしれないけど、それはしなくてはいけない。そうしないと、経済は発展しても、高転びする。
いい例がバブルだ。既得権益の者たちが無駄に溜まった財産を、財テクと呼ばれる株や不動産に使い始めて、それが高転びし、民に回ることなく消えた。既得権益が金を貯めすぎた結果だ。
ちなみに、一緒にいらっしゃった叔父上が、泣きじゃくる奇妙様を見て
「こんなことを考えていたのか。程々にしろと言うたじゃろうが」
と怒られた。ほどほどにしたと思うのだが。叔父上の許可ももらっていたのに。
後日談だが、それから数ヶ月は奇妙様は丁寧な言葉で喋り、何事も真面目になれたが面白みがへった。叔父上の言う通り、本当に、もっと、ほどほどににすべきだった。
これ普通打ち首です。
しかし、信長様はお気に入りの勝三君を許す。
器がでかい。
いや…