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旅人は星屑に輝きを求めない  作者: 深 集
明けの明星
1/1

prologue 来客

 冷えた空気に頬を撫でられ目が覚めた。部屋の窓を覆っているカーテンは揺れておらず、風は廊下から入ってきているようだった。部屋を温めるため暖炉に薪を()べようとして、いつもなら暖炉のそばで寝ている黒犬のカーネディがいないことに気づいた。

「カーネディ?」

部屋を見渡すと廊下に()()の姿勢で左側をじっと見ているカーネディの姿がわかった。今いる居間(リビング)を廊下に出てすぐ左側には玄関しかない。持っていた薪をその場に置き、彼の元へ駆け寄る。


 その視線の先には開いた玄関の扉、その先に背の高い男が立っていた。風はそこから吹いていた。ベージュのポンチョの様なものを身に(まと)い、肩に黒い塊が乗っている。顔は逆光でよく見えない。目が合うと彼はすぐににっこりと少年のような笑みを浮かべ、こう言った

「初めまして。私は旅人(ヘルメス)です 。こちらは相棒(アマルガム)のルーン。ヴェーネさん、貴方に会いにきました。」

「色々と話すこともあるんですが、まず」

——フッと玄関から入ってきていた光が消える。暖炉で小さく燃える炎と廊下にある申し訳程度の蝋燭(カンテラ)が彼の少年のような笑みを照らす。その奥には地面から大量の砂を巻き上げて近づいてくる巨大な塊。外からの光はその砂嵐(シロッコ)によって遮断されていた。

「——戸締りをした方が良さそうですね」

ヒュッという音と共に全身を包み込むように風が吹き、全員の髪をなびかせる。大理石の玄関を砂色に染める。

「とりあえず、入ってください」


 彼を招き入れ、玄関を閉める。扉からはパラパラと砂の当たる音がする。服についた砂を払い終えた彼を居間(リビング)に通し廊下にまで入り込んだ砂を(ほうき)でカーネディが咥えるちりとりにまとめる。彼はその間、ソファ(さっきまで私が寝ていた)でくつろいで部屋を見渡している。歳は三十くらいだろうか、カーネディと同じ綺麗な黒い毛先の髪。目鼻立ちははっきりとしていて口元にはヒゲを少し蓄えている。私は彼の顔に覚えがない。それにもかかわらず、彼は私の名前を知っていた。親族であれば写真くらいあるはずだが、今まで見たアルバムに彼のような人はいなかったと思う。

()()()()......()()()()()......」

彼はそんなことを言っていたのを思い出す。ヘルメスはギリシャ神話に登場する神の名前だ。

「まさか、ね」


 大体の砂を麻袋に入れ終えた私は横にいるカーネディを満足のいくまで撫で回し、彼のいる居間(リビング)へと向かった。

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