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月下鬼人  作者: 七坂 子雨
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七話 理由

 休日だと思っていたから目が覚めたがまだ眠りの余韻が残っていて、寝返りを打って布団を抱きしめる。まだ寝ていたい。


「雪花おはよう!  朝どころか昼だぞ!」


「んー……ん?」


ーー私今誰に返事した?


  布団から少し顔を出して見渡すと着物と楽しそうに跳ねた白くて長い髪。嘘だろ。


「無防備な格好の雪花も可憐だが、もう目に焼き付いたから新しい反応を見せてくれ」


  開いた口が塞がらないとはこのことか。


「なんでいるの」


「何でって方法は一つしかあるまい?   賢い雪花なら分かるだろう?」


「まさか付いて来たの?」


「正解だぞ!   さすが俺の雪花だなっ!」


  世に言うストーカーじゃないか。変な奴に目をつけられてしまった。やばい。どうやって家に入って来た?こんなストーキングコスプレイヤーを家に入れた覚えないし不法侵入して来たとしか考えられないけれど、一応家のセキュリティは完璧なはずだし、そのおかげで今の今まで空き巣にも入られたことがない。

  なのにこんな明らかに頭が足りてない男に入られる隙間なんかないはずだ。


「難しい顔をしていると美人が台無しだぞ雪花!  笑ってくれよ!」


 考え込んでいると無意識に皺が寄っていた眉間に男は人差し指でコツンと突いて笑っている。なんだこいつ初対面、ではないけれどなんの関係でもない相手にこんな事されるほど親しくなった記憶はない。ほんと頭の片隅まで痛いやつだな。そもそも勝手に触らないでもらいたいし美人でもない。


「出てって、今すぐに」


「それは無理だ」


  即答で拒否するこの男には常識が通じないようだ。なら何か用件があっているに違いない。交渉して何とか私の目の前から消えてもらわないと困る。


「何が目的?   金銭なら額によってはあげることはできる」


「俺が金に困ってるように見えるのか?」


  よく見て見れば目元に化粧?っぽい赤いラインが引かれてるしコスプレするほど余裕があるならそんなに困っていないようにも見える。でも羽織の端が少し破れているけれど、これはきっとこういう服装の人がいるんだろうと考えればきっと違うんだろう。

 それに物が目的ならわざわざこうやって話しかけたりなんかしないからやっぱり違うのか。


「ちなみに金は一銭も持ってない!」


「仕事しろ」


 金に困ってないけど一銭もないってどういう生活してるんだ。……もしかして無理やり家に泊まらせようとして不法侵入をした?

  なるほど、それなら筋が通る。昨日話しかけられたのもこうやって金が無いから泊まらせてくれる人を探していたというわけか。つまりヒモになって人生楽して過ごしたいと。


「私はあなたが思っているより金持ちなんかじゃないし、誰かを養ってられるほどの身分じゃないからどこかの女性に貢いでもらって」


「雪花、勘違いしてるぞ俺はヒモになりたいわけじゃない」


「じゃあ何の目的で私の部屋にいるの?」


 そう言うと、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて立ち上がった。


「俺の目的は再び会った雪花の側にいること!   あの日に交わした約束をやっと果たす事ができると思うと胸の高鳴りだ止まらんのだ!」


 誇らしげに語るこの男は、「雪花」という同名の誰かと勘違いしているようだ。呆れしかない。


「勘違いしてるから、私はあなたの知ってる人じゃないから、ほら帰って」


「そんなわけない!  この俺が雪花を見間違えるものか!」


  このくだりは既視感だ。きっとまた青い目のことを言う気がして、オチが見えてるから、本当に帰ってくれないかな。

  こうやって嫌いなものを興奮気味に語られるのが嫌いだ。何で休日にこんな話聞かされなきゃいけないんだ。


「雪花は俺のことを忘れてしまったのか!?」


「私はあなたのことなんか知らないし、今まで生きてきて約束なんか一度もしたことがない」


  やっと勢いが収まったのか静かになったが、私のことを信じられないとかそういう顔になって見下ろしている。その顔やめてくれないかな、お前は悲劇のヒロインか何かか。


「雪花、俺の名前は……?」


「だから知らないってば、しつこいよ」


  言った瞬間男の顔は今にも泣きそうな表情をしていた。そんな顔されたら何も悪くないのに罪悪感に蝕まれそうになる。

  ついには顔が下を向いて体が震えてしまって、泣く何秒前になった。こんな場所で大声で流れてしまったら誰かにバレてしまうと手を伸ばして励まそうと近寄った。


「だがっ!」伸ばした手を掴んで私に向かって叫んだ。


「俺は雪花が好きだらから今の雪花とも仲良くしたい!」


  私の耳がおかしくなければこの男、今とんでも発言した気がする。雪花って名前で青い目なら誰でもいいのか。


「今度は末長くよろしくな!」


  両手を握って私に満面の笑みで言うこの男は頭がおかしい。

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