第5話
第1話を第0話とし、そこから数えるように変更しました
なので、話数間違えているということはないのであしからず
なに、これ……?
「おかえなさい。」
「おかえり、ウタ。」
「おかえり。」
「遅かったな。」
なんなの、これ?
人が働いている間に、こいつらは……。
「人の金で何豪勢な食事してるのよーー!」
テーブルの上に並んでいるのはドラマやバラエティなんかでよく見るような、高級フレンチとかそういう感じの料理の数々。
それが5人分。
私の分があるのは別にいいとして……いや、良くはないけど。
とにかく、そんなのが並んでいる。
宿代は全部私が払ったのに、その上でこれとか、ふざけてるの!?
おまけに、アンは既に食べ始めてるし!
「ち、違うのよ! これは、そういうのじゃなくて……。」
「や、宿の人が勝手に持ってきたの!」
「う、うむ! 断ったのだが、宿代に含まれてるとかなんとか……なぁ?」
「ふが……んぐ。そうそう、なんかそんな事言ってた。」
「へぇ〜……そうなんだ。」
「「「そうそう!」」」
「だとしても、なんで私より先に食べてるのよ、アン!」
「いや、お腹空いてたからつい……。」
「ついで食べないでよ!」
「悪い悪い。」
アンが酷い……。
「ま、まあまあ、ほら、ウタイも疲れたでしょ。席に座って一緒に食べよ? ね?」
「食べ物で機嫌取れると思ったら大間……何これ美味しいっ!? …………コホン。まあ、それは置いといて、アンは罰として後で何か奢ってね。」
「げっ!」
「自業自得だと思うの。」
「犬だって躾ければ待てるというのに待てなかったんだから、それくらいはね。ま、飲み物か何かでいいわよ。」
「私は犬以下かよ……。」
「アンは美容もいいけど、もう少し女子力を磨いた方がいいわね。」
「そうする……。」
◇
お昼を食べ食休みも終え、私はお風呂へと向かう。
そうお風呂だ。
温泉だ!
「私これからお風呂に向かうけどみんなはどうする?」
「今から行くの?」
「当然! 温泉に入るためにここに来たと言っても過言じゃないから!」
「いや過言だよ!」
「私達、依頼でここに来たのよ?」
「あんなデカイだけのトカゲよりも温泉の方が重要よ。私、温泉のためならドラゴンくらい殺してみせるわ。」
「一体何があなたをそこまで駆り立てるのよ……。」
「フッ……そこに温泉があるからさ。」
だって日本人ですもの。
日本人はお風呂好き。
これは世界共通認識よ。
それに、鉄道網が発達していない時期から日本人は温泉に入るために長い距離を歩いて来た。
るろうに◯心でも温泉1つの為に村を占拠したっていう奴もいたし。
鉄道、車、飛行機と移動手段が沢山発達した現代であってもそこに温泉があれば深く険しい山の中に分け入って行く猛者もいる。
それ程までに日本人は温泉が好きなのだ。
ちなみに、温泉は別に温かくなくても温泉の成分が入っていれば温泉と呼ぶことができるって前にテレビで見た。
つまり、プールくらいの温度しかなくても温泉は温泉。
温めて提供する温泉もあるとかなんとか。
「それで、みんなはどうするの?」
「私は後でいいわ。」
「私もー。」
「私も後にするの。こんな早い時間から入って毛が浮いたら他の人の迷惑になるの。」
「私も後でいい。」
「そう? それじゃ行ってくるわ。」
部屋を出て温泉へ。
VIPルームというだけあって部屋にも魔道具を使ってのお風呂があったけど、あくまでも魔道具。
水を出す機構と熱を発する機構を組み合わせた魔道具なのでそこに温泉感は存在しない。
湯船も、陶器製の湯船に足がついている西洋というか、海外物の映画やドラマなんかに出てきそうな奴。
それはそれで入ってみたくはあるけど温泉に勝てるわけもないのでまた別の機会に。
そういえば……勝手に温泉だと思い込んでいたけど、本当に温泉なのかな?
ちょっと聞いてみよ。
「すみませーん。」
「はい、なんでしょう?」
「ここのお風呂って温泉なんですか?」
「はい、その通りです。今から260年ほど前の頃、【温泉の伝道師】と呼ばれる方が温泉の素晴らしさ、心地よさを触れ回り、南大陸中の温泉を巡り、時として自身で掘り当てたりしていたそうで、この町の温泉もまた、その方が掘り当てたものとなっております。効能は魔力の回復、打ち身、擦り傷、疲労回復、腰痛肩こり等に効果があります。詳しい内容は大浴場内の看板に書いてあります。」
「分かりました。ありがとうございます。」
どうやら本当に温泉みたい。
ラッキー。
……それにしても、【温泉の伝道師】って……。
ひょっとしてその人って私と同じ日本から来た人なのかな?
いや、それは流石にないか。
私は死ぬ間際まで人助けをしていてそれを気に入った神様が救ってくれたんだもの。
ただの温泉好きが異世界に送ってもらえるわけないよね。
脱衣所……いや、広さ的に脱衣室かな?
そこで服を脱ぎタオル片手にいざ大浴場へ。
「うわぁ〜!」
入ったそこは複数の浴槽があるまさしく温泉という様相があり、他に人がいないということもあってつい喜びの声をあげてしまった。
見た目としては日本の温泉と言われても納得のもので本当に日本人なのかもしれないけど、それは別にどうでもいい。
重要なのは温泉だ。
浴槽ごとに温度や泉質が違うのか幾つか色が異なるところがある。
端の方を見てみれば洗い場がある。
温泉に入るマナーとしてまずは体を洗う。
かけ湯だけして入るって話もあったりするらしいが、汚れたまま入るのは他の客の迷惑になる。
お湯が汚れるし。
石鹸が高価でなかなか手に入らないというのであればまあ、それも仕方ないが。
でもこの宿では石鹸は無料、シャンプーみたいなのやリンスみたいな魔法薬も割と高価なものまで無料なのだ。
もちろん私も購入してる。
ただ、もう少し香りがいいと言う事なしなのよね〜。
体を洗い終わったらいざ湯船へ。
でも入る前にはかけ湯を忘れずに。
かけ湯はお湯の中にいきなり入ると体に悪いから少しずつ慣らすという目的と、かけ湯をする事で泡とか石鹸とかの汚れを流すという意味があるとかなんとか。
そうしてかけ湯をしてから湯船に入るのだけど、重要なのはタオルを湯船につけないという事。
タオルで体を洗ったりして汚れてたりすることがあるからだ。
全員がタオルで体を洗ってるわけじゃないけど、そういうマナーだから気を使うべき。
「んっ……はぁ〜。」
湯船に浸かると自然と息が漏れる……。
ちょっと恥ずかしいけど、これが気持ちいいのよねぇ。
温度は少しぬるめ……多分38℃あたり。
ぬるめでじんわりとあったまる感じも好き。
少ししたら別のお湯を楽しむ。
乳白色で少しとろみがある。
保湿効果とかありそう。
そんな感じで室内風呂を楽しんだら、次は露天だ!
外に向かう扉があるのだから間違いなく露天風呂だ。
あ、でも、もしかしてがあるかもだからタオルで体を隠して扉から覗いてみよう。
……うん、少なくとも人はいなさそう。
扉をくぐり露天が混浴かどうか確認して……良かった。
他に扉はないし竹っぽい色に塗った木の柵があるし混浴ではない。
しかし、見れば見るほど日本の温泉よね。
【温泉の伝道師】とやら、本当に日本人なのかも。
「ふぁ〜生き返る〜。」
あ〜。
露天風呂の温度は少し高めなのね〜。
41くらい?
分かんないけど多分それくらい。
でも、気持ちいい〜。
この露天は一階に出来てるから景色とかは楽しめそうにないわね〜。
その代わりに夜は満天の星空でも楽しみましょう。
そういえば、なんかで見たけど、高過ぎるお風呂はあまり良くないらしいのよね。
後、お風呂で寝るのは気絶するのに近いとかなんとか。
血管が開いて血液がどうのこうのってテレビで見た気がする。
お風呂で気絶とかやばいよねぇ〜。
溺れたりしそうだし眠くなったら出るように気をつけよう。
それにしても随分と遠いところに来たわね……まあ、異世界だしね。
その異世界で日本風の温泉に入るとは思ってなかったけど。
異世界に来て、お風呂もないお湯と手ぬぐいで体を拭くような宿に泊まって、そこから頑張ってランク上げて収入も増やして、お風呂ありの宿に泊まって……お母さん達に言ったら驚くかな……会いたいなぁ……。
あれ、涙が……割り切ったつもりなのに……なんでわたし死んじゃったかな……。
…………………あー、もう!
やめやめ!
さっさと出よう!
沈んでしまった気分を振り払うようにお湯で顔を洗い露天風呂を出る。
……あ、そういえばお湯で顔を洗うのはマナー違反だった。
この後入る見知らぬお客さん、ごめんなさい。