第3話
1回目の潜入を終えた私は定宿に帰って爆睡した。
起きたのは11時になっていた。
ちょっと寝過ぎだと思うけど、帰って来たのは4時過ぎてたししょうがない。
怪盗行為は後何回か見に行って孤児虐待の現場を見る……いや、あまり見たくないし、せめてそういう事があるという事は把握してからにしたい。
もちろん、既に盗賊団と繋がっていたという証拠は見つけたからそれで十分捕まえられるけど、その場合孤児達がどうなるのかという心配がある。
でも、虐待があったとすれば孤児達を気遣って良い孤児院なんかに預けられるだろう。
普通に保護された場合はそこまで配慮せず、悪い評判のないだけの普通の孤児院になるかもしれない。
出来るなら幸せな方がいい。
とりあえずの今後の方針を決めたところでブランチと行きますか。
まあ、ただ寝坊しただけなんだけど。
「よー、ウタ。待ってたぜ。」
「宿まで来てどうしたのアン?」
「そりゃ決まってるだろ。仕事の誘いだ。」
「ふーん。でもちょっと待っててくれる? 昨日夜更かししちゃってまだ何も食べてないのよ。」
「おいおい、そんなんじゃ美容に悪いぜ?」
「重戦士で鎧に大盾を持って魔物の攻撃を一身に受ける癖に、どうしてそう美容にうるさいのかしら?」
「うっせーよ! 別にいいじゃねーか……私が綺麗になるくれーよ……。」
「分かってるわよ。アンも女の子だものね。ただ、ちょっと仕事ぶりと合ってないからどうしてもね。」
このアンは本名アンゼリカで身長180近い大柄な女性なんだけど、こんな感じで美容にはうるさい。
重戦士という役割上ガタイもいいのがまたアンバランスである。
お昼と夕食時は食事処として営業もしている宿で朝食を注文。
昼食も兼ねているので重くなく、それでいてそれなりに量の多いものを選んだ。
「それで仕事って何に行くつもり? 護衛? 討伐?」
「討伐だ。護衛はメンバーが集まらなくて無理だった。」
「ふーん。他に誰がいるの?」
「ああ、私にリーシャ、メイヤ、それにロップルだな。」
リーシャは魔法使いでメイヤは大剣使い。
一緒に仕事をする時とかはアタッカーを担当してる。
そしてロップルは軽戦士。
ロップイヤーみたいな垂れ耳のうさぎの獣人で耳をモフらせて貰うのが目標だったりする。
「獲物は?」
「ああ、ブラッドダイナソーだ。」
ブラッドダイナソーは血のような体色をしているトリケラトプスのような魔物でBランク。
私自身既にAランクで目の前のアンを含むみんなはBランクで、妥当な相手と言える。
ただ問題はヨーデルハイム商会の事。
近いうちにもう何回か潜入して様子を見ようかと思っているのだけど、どうしたものか……。
って、ちょっと待って。
私はあそこの噂とか情報を集めていた。
それは向こうにもある程度伝わっているはず。
何せ商人なのだ。
商人である以上は情報を集めるのは得意なはずだし、情報収集の下手な商人が生き残れるような世界じゃない。
だから、ある女冒険者が仕事もせず自分の店について調べていて、その上で怪盗が盗みに入ればどう思う?
間違いなく私が疑われる。
うん。
受けよう、この話。
ちゃんと仕事をしておかないと疑われるし。
情報を調べただけなら口実である、変な噂を聞いたから使うのをやめようと思い、そしてその噂があったから使うのをやめたと思うはず。
いや、思わせないといけない。
だから極力冒険者として普通に過ごすべき。
「うん。その話受けるわ。」
「本当か!?」
「ええ。それで、いつ出発予定なの?」
「ああ、明後日の予定だ。」
「明後日ね……分かったわ。みんなは今どこに?」
「今買い出しに行ってる。それが終わったらここに集まる手筈だ。」
「私が受ける事前提で動いてたの?」
「流石にそこまでは考えてねーよ。ウタが断ったらまた別の奴探すけど、その前にここで飯食おうって話になっただけさ。」
「ふーん。」
ここの料理美味しいもんね。
宿代は高いけど、その分料理は美味しいしお風呂も付いてて部屋も広めだから、文句なしのいいところ。
それなりに成功してる人じゃないと高くて泊まれないけどね。
その点私はAランク冒険者。
余裕で泊まれる。
「あ、いたいた。アンどうだった? ウタイは受けてくれたかしら?」
「ああ。受けるってよ。依頼の詳しい内容は後で話すとして私達も飯にしよーぜ。」
「それは良かったわ。」
声を掛けてきたのはリーシャ。
その後ろにはメイヤとロップルがいる。
どうやら買い出しが終わったみたいね。
「場所はリテリナ山の麓。付近の村人が薬草採取をしている場所近くで目撃例があったそうでね、それで調査依頼を受けた冒険者が捜索、発見して、領主が依頼を出したみたいなの。報酬は3000万リムよ。相場より割高だから多分早急に対処したいんでしょうね。」
ブランチとお昼を食べ終えて依頼についての話を聞く。
話し手はリーシャ。
他の子はちょっと大雑把というかなんというか……その、ちょっとね。
その点リーシャは男爵家の三女とかで学がある。
ちなみにこのリーシャ、家出娘だったりする。
このまま家にいても政略結婚の道具にされるか、はたまた御用商人のもとに嫁がされるか……年齢的にそういう話が来てもおかしくないからと逃げ出したらしい。
日本だと婚活サービスや婚活サイトなんかがある程になかなか結婚出来ないというのに、家が相手を用意してくれるというのは一部の人には羨ましい話かもしれないわね。
私は自分で見つけるけど。
閑話休題。
リテリナ山の麓とその周辺は薬草の群生地だから、ポーション類の安定供給を断つわけにはいかない領主としては、多少報酬を高くしても早めに解決して貰いたいんだろう。
「馬車の用意はちゃんとしてる?」
「勿論よ。後は依頼を受けるってギルドに報告するだけよ。」
「そう。それじゃ私も一緒に行っていい? ついでに道具とかを補充しておきたいし。」
「ウタイがいるとギルド受けもいいし助かるわ。」
リテリナ山はこの街から馬車で2日行ったところにある村……いや、町かな?
薬草の群生地だからポーションが安く、それを目当てにした商人や冒険者が集まっててそこそこ栄えている。
領都と比べたらそこそこなのだ。
まあ、どこの国、どこの県でも首都や県庁所在地みたいな所が1番栄えているものよ。
そんなことを考えながらみんなでギルドと街中へと向かった。
◇
依頼当日。
アン達が用意した馬車へと乗り込み以来場所であるリテリナ山へ。
食糧なんかの必要な物は全部私のアイテムボックスの中に入れた。
アイテムバッグとかもあるけど、アイテムボックスだとアイテムバッグの分も場所をとらずに済むしね。
馬車の広さは有限だし何より馬車の中に何もない方が馬への負担が減るのが良いよね。
「ウター、ヒマだしゲームやろうぜ!」
「良いわよ。索敵には何も反応ないしね。」
アンが言ってきたゲームとはトランプの事。
西大陸の方が発祥とかいうけど、どう考えても私と同類が広めたものよね?
結構歴史は古いらしいけど、どうせなら私が広めてそれで得られる利益で悠々自適な生活がしたかったと思わなくもない。
「行くぜ、10のスリーカード!」
「甘いわね! Qのスリーカード!」
そんな感じで御者のリーシャ以外は楽しく移動をし、夜はダンジョンで手に入れた範囲内に人や魔物が入ると音を出して知らせてくれる警報の魔道具を使ってぐっすりと眠り、特に問題もなくリテリナ山近くの町へと辿り着いた。