第1話
「レディーースエーーンドジェントルマーーン!! 今宵は大怪盗ソングのステージに来てくれて感謝するっすよーー! 本日は孤児達に給金を払わずこき使う悪徳商会がターゲットっす! 見事お宝を頂戴したならば、またここで会おうと思うっす! では、ショータイムの始まりっす!」
うぅ……こんな感じでいいのかなぁ……。
初の怪盗、緊張するなぁ……。
〜時は少し遡る〜
この世界に転生してから1年が経った。
運良くなのか狙ってなのかは分からないけど街の中にいたから、そのままこの手の話の定番である冒険者ギルドに登録して身分証をゲットした。
お金を稼ぐのにもちょうど良かったというのもあったし。
そうして冒険者になってから色々あった。
盗賊団と戦ったり、魔物が集団で襲ってくるスタンピードーーこっちの世界ではモンスターパレードって言うらしいーーとかあったりと本当に色々だ。
そうこうしている内に自然と仲間が出来たりもした。
といっても固定のパーティを組んだりはしてないんだけど。
それぞれの都合とかあったりするから時間が合えば一緒に仕事を受けたりしてる。
ただ、そうしてこの世界で活動していると自然と暗い話を聞いたりもする。
悪徳貴族に悪徳医師、それに悪徳商会……そういうのが結構いる。
この街では悪徳貴族や悪徳医師は居ないみたいだけど他の町から来た冒険者が酔って喋っていたのを聞いたことがある。
そして悪徳商会。
これはダメだ。
表向きは善良な店だけど、実際は孤児達を無給でしかも店とは関係ない事までやらせているらしい。
子供を助けて死んだ身としてはこんなのは許せない。
でもどうすれば……とは考えない。
多分、アリシアさんは知っててあの称号を付けたのだろう。
私が、困ってる人を見捨てられないということを。
世の中には正しいからといって……いや、正しくても権力や賄賂等でねじ伏せられる事もある。
今回は多分そういうのが相手だ。
なら、正義ではなく悪で裁こうじゃないか。
悪に勝つには正義ではなく悪である時もあるということを私は知っている。手紙の最後にはこう書いてあったしね。
『本来隠蔽系スキルでは犯罪歴は隠すことができません。しかしあなたに与えたものは特別に正義の為の行動による経歴は隠すことが出来るようになっています。』
って。
いいよ。
やってやるわ。
悪を持って悪を制する正義の大怪盗、ここに誕生よ。
悪事の証拠を確保して行政に届けるなりして動かすのもいいし、怪盗が盗みに入ったのだから多分ちゃんと調べるはずだろうから衛兵に任せるのもいい。
そうすれば孤児達の現状は知られるだろう。
そうして悪党のみを狙っていけば自然と私が盗みに入る=何かあると思わせられる。
そうなればこっちのものよ。
後は勝手に調べてしょっ引いてくれるんだから。
でもまずは、情報収集ね。
私が聞いたのはあくまでも噂だから。
ちゃんと真実か調べて、そして黒なら怪盗として世に知らしめよう。
「ヨーデルハイム商会? なんでそんな事急に聞くんだ?」
「ちょっと変な噂を聞いてね。それが事実ならあの店は使うのやめようかなって思っただけよ。それで、何か知らない?」
「そうだなぁ。タダってわけにはいかねーなぁ?」
「そ。ならいいわ。他を当たるから。」
「ちょっ、待て待て!」
慌ててるけど、そんなの知ったことではない。
何あの視線?
魂胆が見え見えじゃない。
生憎と、私の身体はそんなに安くはないのよ。
「じょ、冗談だよ、冗談!」
「……次は無いからね。」
「お、おう。まあ、俺も噂程度だし酒の一杯でも奢ってくれたら話すよ。」
「それくらいならいいわ。」
「商談成立だな。おーい! エールを一杯、大盛りで!」
「ちょ、大盛りなんて聞いてないわよ!」
「一杯は一杯だ。だろ?」
「……やられた。しょうがない。大盛りでいいから、さっさと話して頂戴。でも、身のない話なら自分で払いなよ?」
「わーってるよ。俺が聞いたのは宿屋の女将からなんだがな、なんでも、帰りが遅くなった冒険者が夜中に子供がすすり泣くような声が聞こえてきたって騒いだとかなんとか。で、その聞こえた場所ってのが、既に子供は成人して別の街で支店を任されている筈のヨーデルハイム商会の前って話だ。」
「ちょっと気味悪いわね。」
「まあな。ま、大方雇われてる孤児がなんかやらかして叱られたんだろ。」
「それもそうよね。」
それならいいんだけどね。
「ありがと。これ代金ね。」
「まいど。」
まだこれだけじゃなんとも言えないわね。
本当に叱られて泣いていただけかもしれないし。
その噂に尾ひれがついて捻れて結果孤児を酷使してるという事になったのかもしれないし。
これはもう少し調べたほうがいいわね。
「ヨーデルハイムねぇ……子供が泣き喚く声が聞こえたって話は聞くな。」
「ああ、あそこか。なんでも孤児に店の仕事だけじゃなくて家事も全部やらせてその上痛めつけて悦に浸ってるって話だ。」
「あそこの店はやめたほうがいい。売ってるもんはどれも手抜きばかりだ。それよりもウチの商品はどうだ? 安くしとくぜ?」
「そういえば、前に行った時に孤児の子が目の下を泣き腫らしてたなぁ……。あ、でもそれで虐待したとは限らないぞ。必要な罰なのかもしれないから。だから俺がこんなこと言ったなんて言うなよ?」
噂を集めてみたけど、実際の現場を見た者はいないっと。
ちょっと関係ないのも混ざってたけど。
まあ当然か。
家の中を覗こうとするなんてのはよからぬ事を考えている奴だけだろうし。
そしてそういう音や声も無し。
うーん。
手詰まりだ。
やっぱり実際に見ない事には判断つかないわね。
となれば、やっぱり忍び込むしかないか。
◇
噂を集めた日から10日。
私はついにヨーデルハイムへの侵入を行う。
10日という時間を空けたのは、噂を集めている奴がいるっていうのを知られたとして、そこでもしも後ろ暗いものが実際にあったらどうするか……普通、警戒するよね?
というわけで時間を空けたのだ。
噂を聞く際に言っていた通り、あの日以降1度も店を利用してないし、多分そろそろ警戒を解いているはず。
ま、駄目ならまた忍び込めばいいんだけど、出来れば1回だけで済ませたいものだ。
では早速、行動開始!