第0話
「起きてください、調野唄さん。」
「ん……ふぁ……。」
「おはようございます。」
「ここどこ……?」
「ここは転生の間、といったところでしょうか。ここを使うのは2度目ですけどね。」
「転……生? それってどういう……?」
「それは、あなたがすでに死んでいるという事ですよ。憶えていませんか?」
「死んで……?」
「どうやら記憶の混乱があるようですね。あなたは火災事故に巻き込まれ、一酸化炭素中毒で亡くなりました。ですが、あなたは煙を吸い込まないように小さな女の子にハンカチを渡して助け出し、その子の母親までも救助しました。しかし、その時の無茶が祟りあなたは亡くなってしまいました。」
「あ……。」
「思い出しましたか?」
「そうだ……泣いてる子がいて、だから私は……。」
「私はあなたのその素晴らしい行動を評価し、転生する機会を与えようと思いここに招きました。ただ、あなたが人生に満足しているというのであればこの話は無かった事にし、輪廻の輪に戻っていただきますが……どうしますか?」
「いやいや! 全然満足してないから! 私まだ15年しか生きてないから!」
「そうですか。では、転生するという事で話を進めさせてもらいますね。」
「はい。」
「まず、あなたがこれから転生する先は所謂剣と魔法の世界で、ステータスとスキルというものがあり、それによって様々な事が出来るようになります。スキルの種類は様々で、魔法を扱えるもの、身体能力をあげるもの、技能の向上を図るもの……珍しいものだと爪楊枝作りが上手くなるものもありますね。」
「つ、爪楊枝……? それって、歯に挟まった物を取るあれ?」
「はい。」
「へ、へー。そんなのまで、あるんですね。」
というか、爪楊枝作って何になるのよ……。
私はそんな変なのいらないわよ?
「あなたには私が管理する世界の1つに転生してもらいます。世界名称は決めてませんが……まあ、『ウィンディア』とでも呼んでおきましょうか。」
「はぁ……?」
「そのウィンディアにおいては種族固有スキルのような一部を除いて全てのスキルを取得可能で、全ての人が自身が望んだ人生を過ごす事の出来る可能性を秘めた世界です。あなたはそこで第二の人生を歩んでください。」
「第二の、人生……。」
「当座の生活資金として5万リムを渡します。1リムは大雑把に考えて10円くらいの価値があると思って下さい。それから、2種類の服と護身用の鉄の剣。野営道具一式と非常食を渡しますね。」
「はい。」
「そしてステータスとスキルを付与します。内容は私が決めましたが……スキルに関しては努力次第ではどのようなスキルも手に入れられますので、当面の生活に困らない編成にしてあります。」
「ありがとうございます。」
「最後に、私の加護とお呪いを与えましょう。加護は気が向いた時に適当に与えるような中途半端なものではなくちゃんとしたものを。効果はレベルアップ時の全能力の上昇量の増加と属性所持上限解除、スキル獲得率とスキル経験値取得量の上昇です。そしてお呪いは望まぬ相手からいやらしい事をされそうになると相手に天罰が下るというものです。」
「天罰……? それってどのような……?」
「内緒です。」
いや、内緒にされても困るんですけど。
「これで全ての話は終わりです。では、これより転生を行います。転生先の世界についてはこの手紙に書いてあります。」
突如足元が光り出し、あ、これ転生する奴じゃん。
って思わされる状態。
「待って下さい! まだあなたの名前を聞いてません!」
「君の名は? という奴ですね。」
「そうそう。私も映画見た時は感動しちゃって……って、そうじゃないから!」
「見事なノリツッコミありがとうございます。」
「いえいえ……って、だからそうじゃなくて!」
何これ。
さっきから足元がずっと光ってるんですけど。
なのに何呑気な事言ってるんですか!?
っていうか、これがこの人の素なの!?
「やはりあなたを選んで良かったです。私の名は、アリシアと言います。では、あなたに良き出会いがありますように。」
謎の人はどうやらアリシアさんと言うらしい。
そのアリシアさんはクスクスと楽しそうに笑いながら私を転生させた。
私はそれを光の隙間から眺め……そして意識を失った。
「叶うならば、あの人の助けとなりますように。」
意識を失う直前に聞こえた声はまるで……恋する乙女のような、そんな色を含んでいた。
◇
気がつくと私は公園のような場所のベンチで寝ていた。
ここはどこだろう? と一瞬思うが、すぐに自分が一度死に、そして転生したということを思い出す。
「ああ、そうか。私、一度死んだんだ。」
そして寝ている間もずっと持っていたらしい手紙の中を見てみると、アリシアさんが言っていた通り転生先である、この世界についてが書かれていた。
この手紙によればこの世界は1ヶ月が30日で1週間が6日。それが5週で1月となり、12ヶ月360日で1年。
1日は日本と同じ24時間。
時間は意識を斜め上に持っていくと見える時計で確認出来て、この世界ではこれが普通だとか。
地味に便利。
四季の概念はあるが世界をたゆたう季節を司る精霊がメンドくさがりで大雑把な為に、何ヶ月で季節が変わるという決まりのようなものはないそうだ。
……それで生態系は大丈夫なの?
植物とか。
私が降り立った場所は南大陸のリニスっていう国らしい。
その国のとある侯爵領の領都近くの街だとか。
そこは素直に領都か王都で良くない?
そこでまずはなんらかのギルドーー冒険者ギルドや商業ギルドなんかがあるらしいーーに登録して身分証明書を手に入れる必要があるみたい。
そして転移者転生者には特典としてステータスを確認する能力があると書いてある。
この世界の普通の人は鑑定用のアイテムやスキルが無いと確認出来ないとか。
便利だね。
ステータスを確認したいという意思を持って発言すれば確認出来るらしい。
発言しなくても出来ると書いてあるが、様式美であり、発言はすべきとも書いてある。
ま、ここは郷に入っては郷に従えっていうしね。
「ステータス。」
ーステータスー
名前:調野唄
種族:人族
LV:15
HP:2238/2238
MP:195/195
ATK:45
DEF:39
MAT:67
MDF:62
AGI:121
DEX:106
スキル
異世界言語適応
超隠蔽(特殊)
アイテムボックスLV5
怪盗LV1 (ユニーク)
片手剣LV1
短剣LV1
体術LV1
投擲LV1
料理LV-4
称号
女神の加護 転移者 未来の大怪盗(予定)
犯罪歴
多分無い
なんで最初からLV15!?
というか、未来の大怪盗とかそんな予定ないから!
それに怪盗って勝手に何してくれてんのよあの人!
それよりも私犯罪者じゃ無いよ!
多分って何!?
そして何より、なんで私の料理スキルはマイナスになってるのよーー!!
そりゃ確かに、塩と片栗粉とか、麺つゆと醤油とか、味醂と酢とかよく間違えるよ。
それにタコとイカやエビとシャコとか見分けられないけど、それくらい普通のはず。
いくらなんでもマイナスになる程酷くは無いよ!
…………無いはずよね?