Ep.1 女神サマに会う
「ここは...どこだ?...」
気づいたら辺りは真っ白で現実味のない何処か古代ローマ?の神殿のような場所にいた。
どうしてこんな場所にいるのか星川蒼一は記憶を遡る。
蒼一は神奈川県にある隼高校の野球部員の1年生だった。
5年前に甲子園出場を果たした隼高校は今年の夏の県予選ではベスト16で敗退していた。
蒼一が小学生の頃、住んでいる家の近くにあった隼高の甲子園出場を決まり、
駅前の商店街やデパートがお祭りムード一色になった。
半額惣菜が好きでスーパーは庶民の味方と豪語する母ちゃんも
デパ地下の甲子園出場記念サービスセールのグルメ商品をしばらく買い漁り
星川家も大盛り上がりだったのは今でも忘れられない蒼一の想い出になっていた。
隼人高校の甲子園出場の際の地元の盛り上がりを小学生の時に経験した蒼一は
中学生になってから本格的に野球に打ち込み、隼人高校に入学した。
ベスト16で3年生の先輩達の夏が終わり、
今度は春のセンバツ出場を決める神奈川県予選に向けて新チームの編成を決める夏合宿が行われいて
蒼一も新チームのベンチメンバー、出来ればスタメンレギュラーのメンバーを目指して
夏合宿で頑張っているはずだった。
「そうだ。俺は野球部のグラウンドで練習していたはずだ...」
今年の夏は記録的猛暑で台風も何度も日本列島を訪れ
土砂崩れなどの被害が全国各地に広がっている状況だった。
そんな猛暑の中、滅茶苦茶暑いグラウンドで走り込みをしていた所までは覚えている。
「想いだしましたか?」
その言葉が聞こえた方へふと顔を向けると思わず息が止まるほど
長い髪も顔も肌も真っ白で白いドレスが似合うオトナの女性がにっこりと微笑んでいた。
「あの...?アナタは?」
今置かれている状況に戸惑いながらなんとか声を絞り出す蒼一。
「私は女神リリクスと申します。自分で言うのは恥ずかしいですが一応を女神と呼ばれる存在をしています」
柔らかくて優しい微笑みのまま、そう応えるこの女性は女神と言われれば確かに女神だと納得できる姿形をしていた。
全身真っ白だけどよく見ると長い髪の毛先だけ少しエメラルドグリーンに染まっているように見える。
もうちょっと色が欲しいなと女神サマに対して生意気な事を思ってしまった。
なんで俺がその女神サマと話をしているのか?と考えた時、
考えたくない最悪の可能性が頭に浮かぶ。
「まさか俺、死んだんですか?」
女神サマは少し目を伏せどう伝えようか考えているようだ。そして...
「はい。星川蒼一君。貴方は暑さにやられ今は病院へ運ばれベッドで寝かされています。
貴方の魂は生死の境目を彷徨い、私がいるこの空間を漂っています。
このまま浄化されれば貴方の魂はまた何処かの新しい命に宿る事になるでしょう」
「そんな...」
熱中症で倒れたと聞いて俺が今着ているのは野球部のユニフォームではなく病院の入院着だという事に気づく。
星川蒼一としての人生は熱中症で終わったらしい。
甲子園を目指して新チームのメンバーになれるよう夏合宿でも必死に練習してたのに...
家族や友達、クラスメイト、そしてもう野球部の仲間にも会えないのか...
ガックリとした下を向き呆然としてる蒼一に女神サマは言葉を続ける。
「ですがまだ貴方の魂が女神である私の元で管理されている間は元の体に戻る事も出来ます」
「そんな事できるんですか!?」
女神サマの発言に思わず大声をあげてしまった。
「ええ。可能です。その代わり貴方はそれ相応のお仕事をしないといけません」
(この流れはもしかして...)
最後はちょっと含みを持たせた笑顔を女神サマは告げる。
「なので蒼一君。ちょっと異世界で頑張ってきてもらえますか?」
漫画みたいな展開が始まるらしい。