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来栖さんの相談事

 来栖さんに呼び出されて、俺は人気のない階段の踊場にいた。


「ねぇ、委員長と一緒にいたみたいだけど、何かあった?」

「プリントを運ぶ手伝いをお願いされたよ」

「ふーん、そっか。なら、いいかな?」


 その間に色々あったけどさ。

 もしかして、妬いてくれたのかな?


「こんなこと相談されるのは嫌かもしれないけど、聞いてくれる?」

「うん、何?」

「私、ストーカーがいるのかな?」

「えっ!? ストーカー!?」


 やきもちとか甘酸っぱい話なんかじゃなかった! かなりすごい相談が来たぞ!?

 いや、でも言われてみれば不思議なことがある。

 どれだけ来栖さんが人気者でも、おかしいと思うことがあったんだ。


「ツイッターとかラインとかで写真が載せられていること?」

「うん、ちょっと怖くない?」

「確かに、よく考えてみれば誰が何のためにあんな写真を広めたんだろう」

「ユウはそもそも撮った写真自体アップしないしね」

「そりゃ、来栖さんの写真を他人に見せたくないから――って何言わせてるのさ!?」

「あはは、嬉しいから花丸つけてあげよっか?」

「くすぐったいから遠慮します!」


 うー、すごく重い相談受けたと思ったらすぐこうやって茶化される。

 でも、これも来栖さんなりの気遣いなのかな?


「それで、何でストーカーがいるかもって話になったの?」

「前々から気にはなってたんだけど、最近撮られる写真が増えてさ。昨日の私達がデートしてる写真もあるんだよねー。ほら、友達のスマホ借りてきたんだけどさ」


 そう言って来栖さんはスマホの画面を見せてきた。これは確かに俺と来栖さんだ。写っている景色からするとケーキ屋に向かう途中か。


「他にもほら、最近の写真ばっかり」


 泰斗さんの映った写真だけじゃなく、他の男の人と映った写真がいっぱい張り付けられている。泰斗さんと同じ大学生っぽい人から、ちょっと白髪のおじさんまで色々な人と一緒にいるなぁ。

 そんなことを思いながら、写真を眺めていると、とある写真が目に止まった。


「あ、この写真の投稿時間、――やっぱり一昨日の写真だ」

「え? どれどれ」

「この泰斗さんと来栖さんが写っているやつ」

「そうだね。たっくん、一昨日こんな服着てた」


 うーん、となるといつの写真だろう?駅前からケーキ屋までにこんな景色はないし、俺が帰った後の写真かな。

 ん? あっ!? やばっ!?


「あれ? 何でユウがたっくんの服装のこと知ってるの?」


 そう思うよね!? だって、俺が隠れて来栖さんと泰斗さんのことを見ていたことを、来栖さんは知らないもんね!?

 って、これじゃあ俺がストーカーみたいじゃないか!?


「ごめん、実はあの日、分かれた後、来栖さんのことが気になって追いかけたんだ」


 俺は正直に白状した。

 せっかく相談してくれたのに、ここで変に言い訳して不信感を持たれたくない。


「それで二人を見たんだよ」

「それで?」

「泰斗さんから、従兄弟のお兄さんって聞いて、今日は帰りなっていわれて帰ったよ」

「あー、泰斗兄さんがやけにニヤニヤしてると思ったらそういうことだったんだ」


 来栖さんは何かに合点が行ったみたいで、呆れたように笑っている。

 あぁ、普段は泰斗兄さんって呼んでるんだ。彼氏に偽装する時はたっくん呼びなのか。なるほど。


「うん、ユウの話信じるよ。別に怒ってないから安心して?」

「ありがとう」


 ほっ、良かった。やっぱり素直に言った方がこういう時は良いんだな。


「で、どうして追いかけて来たのかなあ? 私がそんなに他の男の人と一緒にいるのが嫌だったとか? ヤキモチやいてくれちゃったの?」


 素直に言った方が良い――って、良いのか?

 って言えるか!?


「いつも違う道で別れるから、気になって……」

「うんうん、それでそれで?」


 うわあ、出たよ! ニマニマ顔!

 絶対人の本心分かってやってるよ!


「他の人とデートしてるのかなって……」

「そかそっかー。私が他の人とデートするのがそんなに嫌だったんだぁ。そっかー? 妬いてくれたんだ?」


 ニマニマを超えてニマァって感じの顔してる!? なんかもういっそ声上げて笑ってよ!?

 もういいよ。この際、洗いざらい全部吐くよ!


「でも、泰斗兄さんみても逃げないし、話もしちゃうなんて、ユウって意外と度胸あるね?」

「そんなことないよ。正直お似合いだなって思ったし、逃げられなかったのも単にガッカリして動けなかっただけだから。でも……そうだなぁ。来栖さんにあんなこと言われたからさ」

「へ? あんなこと?」

「来栖さん、最初に自分も処女だよって言ってたから、もしかしてって奇跡を信じてたのもあるかも」


 ポスンと来栖さんの頭から何かが弾けたような音がした。

 顔が真っ赤に――どころじゃない! 耳まで赤いまま来栖さんが固まった!?

 あ、あれ? 俺、何か変なこと言ったっけ? ――って言ったわ!? 俺、何で処女とか言ってるの!?


「……バカ」

「ご、ごめん」

「も、もうこの話はお終い!」

「は、はい!」


 来栖さんが真っ赤な顔で何度も深呼吸して、場を仕切り直そうと必死になっている。

 そうだ。もともとストーカーがいるって話だ。

 ただ、写真を撮られているだけなら実害は少ないけど、これからどんなことになるか分からない。早めに犯人を突き止めて、止めさせた方が良いのは間違い無い。

 となると、大事なのは誰が何のためにこんなことをしたのかを知ることだ。


「来栖さんはストーカーに心当たり無いの?」

「んー、分からないなぁ」

「まぁ、来栖さんが恨みを買うようなことはしそうにないしね」

「ううん、恨みを買いすぎて分からないかなって」

「来栖さん何したの!?」

「いや、ほら、たくさん振っちゃったし? 二度と告白されないように結構きついことも言った気がするしさ?」

「あー……」


 そうだった。来栖さんは何人もの相手を振っている。それだけでならまだしも、結構こっぴどい振り方をしているので、逆恨みされる相手がいすぎるってことか。


「来栖さんモテるもんね」

「ユウだって最近結構モテ始めてるよ?」

「え?」

「今日も結構聞かれたし。高瀬君って実際付き合うともしかして良い人? とか高瀬ってピュアそうだし、すごく愛してくれそうだけど実際どう? みたいな感じにさ」

「それ、モテてるって言うのかな……何か今まで見向きもしなかった奴を珍しがっているだけなんじゃ……?」

「みんながユウのことを気にかけてるってことは、モテてるって言っていいんじゃない? 私はユウがみんなにモテて嬉しいけどね」


 そう言われると、何かモテた気になってしまうかも。

 でも、そうか。これがモテ期って奴かぁ。

 飯野さんだけじゃなくて、他の女子からも俺の人気があがったんだ。ちょっと信じられないけど、来栖さんがこう言ってくれるんだし、本当なのかもな。


「モテるのは良いけど、ちゃんと私のこと好きでいてよ?」

「うん」

「特に委員長には要注意! 流されたらダメだからね? あの委員長はヤバイから!」

「う、うん」


 飯野さんに触れた途端、急に口調が強くなったような?

 ヤキモチ妬いてくれてるのかな?

 そういえば、キスの時もすごい対抗心燃やしていたっけ。


「あ、そろそろ時間だし戻らないと。ねえ、ユウ、ストーカーのヒントを見つけたら教えてね?」

「うん、来栖さんも一人で勝手につっぱしらないで、俺に頼ってよ?」

「もちろん、頼りにしてるよ彼氏君」


 来栖さんは俺の腕に抱きつき、ニパっと笑う。

 それにしても、何かを忘れている気がする。一体何を忘れているんだろう?


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