飯野さんの質問
来栖さんとのデートが終わった翌日のとある放課の時間に、飯野さんに手伝いを頼まれて、プリントを職員室まで受け取りに行くことになった。
ううーん、昨日のことがあったから、何か気まずいというか、恥ずかしいというか、話しかけづらい。
と思っていたら飯野さんから話しかけてきた。
「高瀬君、昨日はごめんね?」
「あ、ううん、こちらこそ」
「あの後、私のせいで来栖さんと喧嘩しちゃったよね?」
「え? 何でわかるの?」
喧嘩とまでは言わないけど、確かにちょっと気まずい時間があった。
あそこで機嫌直さなかったらと思うと、ちょっと怖い。
って、その後は、お互いに気恥ずかしくて何も言えなかったっけ。
でも、ケーキ屋の後の沈黙は嫌じゃなかったし、かなりドキドキしたから、初デートの良い思い出になったと思う。
「だって、もし、私が高瀬君の恋人だったら、目の前で他の子にキスされるのは嫌だもん」
少し照れ気味に、でも冗談を言っているかのように、飯野さんは頬を赤くして微笑みながらそう言った。
分かってはいたけど、飯野さんも気づいていたんだ。
というか、さらりと自分が恋人だったら、といわれて正直ドキッとしたよ。
うう、来栖さんとは違う緊張感あるなぁ。
「高瀬君は来栖さんのこと好きなの?」
「えっ!? えーと、その、一緒にいて楽しいよ」
あまりの直球に思わず避けてしまった。
というか、好きって言葉は本人にすら恥ずかしくて言えてないのに、他人に言える訳もない。
「私は?」
「飯野さんも良い人だって思うよ。真面目だし、人のこと気にかけてくれるし」
「もし、私が来栖さんより先に告白していたら、高瀬君は私とつき合ってくれた?」
剛速球のストレートでデッドボール投げてきたぞ!?
そんな真剣な顔で何てこと聞くんだよ!?
でも、そう言われてしまうと、そうなったことをつい想像してしまう訳で。
夕暮れの教室、二人きりで、飯野さんに好きです、と告白されたらーー。
節操なしと思われるかも知れないけど、多分OKを出していると思う。
「あ、あれ? 顔すっごい赤いよ? 熱とかない?」
ピタッと冷たい飯野さんの手が額に当たる。
そのせいで余計に緊張して、顔が熱くなってきた。
「だ、大丈夫」
「本当に? 辛かったら言ってね。保健室連れて行ってあげるから」
いや、連れて行かれたら、それはそれで余計緊張しちゃうから!
「ふふ、私も脈ありだったのかな?」
「そ、そうだね。でも、考えてみれば、飯野さんに告白されて断る人はいないんじゃないかな?」
「そんなことないよ」
謙遜されたけど、飯野さんは何人もの人に告白されている。
それに人当たりも良いし、断られる理由なんて無いと思う。
「だって、相手にもう恋人がいたら告白してもダメでしょ?」
そう言って飯野さんはジィッと俺を見つめてくる。
飯野さんが告白したい相手は、まさか俺? 確かに告白みたいなことはされたし、もし告白されたらみたいなことも聞かれたけど。まさか、そんかまさかな?
でも、そう考えると、飯野さんの視線に目を合わせることが何だか急に恥ずかしくなって目をそらした。
うう、やっぱりへたれだなぁ俺。
「あ、職員室ついちゃったね。もうちょっと二人きりでお話したかったな」
「そ、そうだね」
俺は口でそう言いつつも、内心すごくほっとした。
けれど、すぐにヒヤッとすることになる。
プリントを持って教室に戻ると――。
「彼氏君、ちょっときて?」
来栖さんに呼び出されるのであった。