ギャル子さん初照れ
翌日、いつもの交差点で来栖さんは待っていた。
「おっはおはー☆」
来栖さんは元気そうに手を振って、ぴょんぴょん跳ねている。
あれ? やっば。どういう顔して会えば良いのか分からない!?
「お、おはよう。来栖さん」
「ん? んー? 彼氏君、何か良いことあった?」
「え、な、なんで!?」
「ははーん、さては、朝から私に会えて嬉しいとか?」
「~~っ!?」
割とその通りで、どう反応して良いか分からない。
図星だと何も言えなくなるとか、本当に俺はへたれだなぁ!
でも、昨日、泰斗さんに言われたことを気付かれちゃいけないよな。
ここは何とか誤魔化して、来栖さんの秘密に気付いていない振りをしないと。
「あはは。照れてる照れてる」
「そうですよ。会えて嬉しいですよ」
「もう、手繋いであげるから拗ねないでよ?」
来栖さんはそう言うよりも早く、俺と腕を組んで、指を絡ませるように繋いできた。
拗ねているんじゃないけど、そう言われたら何も言えなくなる。
でも、こうして腕を組んだり、手を組んだりするのも練習してくれたと思うと、何か途端にかわいく見えた。
「来栖さんってかわいいよね」
「へ?」
来栖さんが目を点にしてこちらを見ている。
いつものからかい顔はどこに行ったのか?
初めてこんな顔を見た。
「と、当然だし……でも……そう言ってくれてとても……嬉しいし」
そう言いながら来栖さんはすぐそっぽを向いてしまって顔は見えなくなった。けど、ぎゅっと手を強く握りしめてくる。
初めてからかいに勝てたと思って嬉しいと思う反面、あ、やばい。何かこっちまでドキドキしてきた。
……かわいいって言っちゃったんだよな。
「何だよーもう。彼氏君も言えるじゃん」
「え? 何が?」
「うりうりー、もっとかわいいって言ってくれても良いよ? 超うれしかったから」
「っ!? くすぐったいよ来栖さん!?」
だから脇腹をくすぐられるのは弱いんだって!?
でも、俺がくすぐったそうにすればするほど、来栖さんは面白がってくすぐってくる。
「くっ、あはは、くすぐったい――」
「ほらほら、恥ずかしがらずにぃ? ワンモアプリーズ? 言わないとくすぐり続けちゃうぞー?」
うわっ!? 出た! 来栖さんのニマニマしたからかい顔!
でも、かわいいって言えば、来栖さんの恥ずかしがる顔が見られる。
恥ずかしいけど、今度はちゃんと見てみたい。
「か、かわいいよ」
「よく言えました。花まるっ!」
来栖さんが脇腹を指でくるっと一周なぞる。
中学くらいから花丸なんて貰えなくなったけど、まさか来栖さんにつけられるなんて思いもしなかった。
というか、めちゃくちゃくすぐったくて、色々な意味で貰う度に悶えそう!?
「結局くすぐるんじゃん!?」
「あはは。本当に良い反応するよね。大好き」
「はぁー……。朝から笑い疲れたよ……」
「そっかそっかー。それじゃあ、かわいいって言ってくれたご褒美とくすぐったお詫びに、今日の放課後デートしてあげよっか? この前教えたケーキ食べにいこ?」
そのお誘いに俺は迷わず頷いた。
それがあまりにも嬉しくて、この会話が誰かに聞かれているかなんて思ってもいなかった。
○
教室につくと来栖さんがいきなり女子に囲まれた。
って、怖っ!? 何かみんな興奮しているというか、獲物を狩る狩人みたいな目をしているんだけど!?
「ちょっと、来栖! この彼氏さんの友達紹介してよ? イケメン揃いでしょ? エリート揃いなんでしょ?」
そう言ってスマホの写真を見せてきたんだけど、その写真に写る人物を俺は知っていた。
来栖さんの従兄弟の泰斗さんだ。
その泰斗さんと来栖さんが一緒に並んで帰っている様子を撮った写真だ。
「おー、たっ君格好良く撮れてるね。たっ君マジイケメンっしょ? 自慢の第一彼氏だしぃ?」
「しかも、早応の人でしょ? もう、羨ましいなぁ」
「そのたっ君の友達でもいいから紹介してよー」
「えー? どうしよっかなー」
「そんなケチケチしないでよー。減るもんでもないでしょー?」
うわっと、人混みではじき出されてしまった。
俺のことなんて余裕で無視だ。
まぁ、うん、知ってた。結局、みんなからすると、俺は告白避けの盾としか思われてないんだから。
でも、俺は、俺だけは知っている。
来栖さんの彼氏は俺だけだって。
だから、こんな扱いでも別にいいや。
そう思って席に着く。すると――。
「おはよ。高瀬君」
「あ、おはよう。飯野さん」
飯野さんが声をかけてきた。
あ、そういえば、昨日心配してくれたんだっけ。お礼を言った方が良いかな。
「高瀬君、その……大丈夫? 無理、してない?」
「え?」
「だって……昨日あんなもの見ちゃったのに、平気そうな顔してるから」
あぁ、そっか。飯野さんも泰斗さんが来栖さんの彼氏だと思っているんだ。
でも、本当のことは伝えられないし。
「えっと、ほら、大丈夫だよ。相手があんなすごい人だし、人気者の来栖さんだしさ。こんな普通な俺でも気にかけてくれるだけで十分っていうか」
「高瀬君、そんなに自分のことを悪く言っちゃダメだよ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。だって、私も高瀬君のこと――」
言葉の途中で飯野さんの声が詰まる。
そして、頬が赤く染まっていき、目を俺から反らしていく。
「俺のこと?」
「みんながいるところじゃ言えないことだよ。昨日勇気を出して伝えたでしょ?」
そう言われて、俺は飯野さんの告白を思い出した。
確かに、あんなことをクラスメイトがいる中で言える訳がない。
「そ、そうだよね。ありがとう飯野さん」
「高瀬君は全然普通なんかじゃないんだから、自信持って。ね?」
優しく微笑まれて、正直ドキッとした。
来栖さんと違って手も触れていないのに、雰囲気だけで心臓が飛び出そうになるほどドキドキしている。
優しく抱きしめられているような変な感じがする。
「何でも相談してね? 力になってあげるから」
「ありがとう。飯野さんは優しいね」
「ふふ、ありがとう。高瀬君にそう言って貰えると嬉しいよ」
モテ期ってあるんだなぁ。
自信を持ってって言われたばっかりだけど、来栖さんにも飯野さんにも告白されたなんて、あまりにも凄すぎて運を使い切った感じあるもんなぁ。
運悪く事故にあったりしないように気を付けないと。
そう思ったのに――その幸運な事故はその日の放課後唐突に起きた。
「初めて……あげちゃった……」
そんな飯野さんの爆弾発言と一緒に。