文化祭の目玉
始業式が終わり、最初の放課が訪れるとクラスの大勢が俺の後ろに群がった。
もちろん、目当ては俺じゃない。転校生のお嬢様、及川柚葉さん目当てだ。
何処から来たのか、趣味とか好きなタイプとか色々聞かれている。
全部答えるのも大変そうだけど、及川さんは全て丁寧に答えていた。
「恋人はいませんわ。素敵な恋をしてみたいのですけどね」
「及川さんなら作ろうと思えばすぐ恋人できるでしょ? というか、出来たらベストカップルコンテストの優勝候補だよ」
「そのベストカップルコンテストとは何ですか?」
「文化祭のイベントで学校一番のベストカップルを選ぶ祝福イベントだよ」
「へぇ、楽しそうですね」
そう言えば、そんなイベントがあるって聞いたっけ。
って、さりげなく今変な説明だったような気がしたんだけど、きっと気のせいだ。
ちなみに参加は事前に申し込みが基本だが、当日の飛び入り参加でもOKだ。というのも、文化祭で告白してカップルになる組もいるかららしい。
で、何をするかだけど、体育館の壇上で恋人に対して何をするかで審査される。
愛を叫ぶも良し、熱い抱擁を交わすも良し、ただ見つめ合ってどっちが先に照れて目を反らすかという勝負をするも良し、という恋愛自由型競技種目だ。
ちなみに、点数の付け方は、審査員がどれだけ羨ましいと思うかで点数をつけられるんだとか。
さらに、観客には対リア充手投げ爆弾ボールなる物が渡され、そのボールがどれだけ壇上に投げ込まれたかでも点数がつけられ、総合点数で優勝カップルを決めるらしい。
……改めて酷いイベントだな。
ちなみに俺は参加したくない。
ただでさえ京にからかわれているのに、他の人にまで冷やかされたくない。
というのは建前で、京と二人きりで好きなように回りたいというのが本音。
そんな訳の分からないイベントに参加せず、ひっそりと二人で恋人らしいことがしたい。
そして、最後には人気のない教室で、二人で一日の思い出にひたりながら――。
「あ、ちなみにこのクラスからはそこの高瀬君と来栖さんのカップルが参加申し込みしてるよ」
「してねえよ!?」
誰だよ!? いきなり変なこと言い出した奴は!?
慌てて振り返ってみると、そこには――黒髪ストレートの女の子がいた。
「他薦もOKでしょ? なら、このクラスからもベストカップルを送り出さないとやっぱ盛り上がらないと思って」
委員長の飯野さんかよお!?
「何しちゃってくれてるの!?」
「コンテストの参加応募にあなたの名前を書いたの」
「そうじゃねぇよ!?」
何でそんなことしちゃったのさ!? そういや、盛り上げるためって言っていましたね!
というか、何で及川さんはそれを聞いて、そんなに嬉しそうに目を輝かせてこっちを見てくるんだよ!?
「みんなに祝福されるなんて素敵ですね。それだけ愛し合っているなんて、とっても羨ましいですわ。高瀬さん」
しかも、なんて恥ずかしい台詞をさらっと言えるのさ!?
けれど、それが似合っているというか、全く照れくささを感じないというか、とっても自然に思えるあたり、お嬢様恐るべし!?
何か背中がぞくっとしたよ。
「あはは、ベストカップルコンテストかー。いいね。ユウ、参加しよっか」
そして、俺の彼女は何でニマニマと何か企んだ顔で笑っているんだろうね!?
二人きりでのんびり回りたいと思ってたのは俺だけ!?
「何で!?」
「委員長にそう言われたら、そうしないとさ?」
一瞬なんだよそれって言いかけたけど、京がこんな理由で何かするっていうのも珍しい気がする。
そもそも、委員長の飯野さんとは色々あった訳だし、周りに人がいない時はお互いに腹黒委員長とファッションギャルと軽口を言い合える仲の良さだ。
そんなんで仲が良いのか? と問われると若干俺も疑問だけど、二人に聞く限り、仲は悪くないという。むしろ、お互いに素を出せるんだから、仲が良い方なんて言う始末だ。
そんな二人の関係で、委員長にそう言われたから。と答えるのなら、きっと何かあったんだと思う。
もちろん、京のことだからベストカップルコンテストで俺をからかいたいだけ、なんて落ちもあるかも知れないけど、その時はその時だ。
「分かったよ」
一ヶ月後の文化祭はどうなってしまうんだろう。何かもう不安になってきたなぁ……。




