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 同窓会をぶっ壊した俺と来栖さんはそのまま別のお店に入った訳だけど。


「あー、やーっと来られたよ。3年間ずっと気になってたお店なんだ」


 来栖さんが行きたがっていたお店、それは彼女が好きなスイーツのお店でもなく、オシャレなカフェとかレストランでもなく――。


「私はしょうゆとんこつラーメン薄め! これが美味しいんだって中学のころ聞いたんだ」


 何とラーメン屋だった。

 しかも、特別オシャレで女性の入りやすい店という訳でもなく、昔ながらっていう感じの小さいお店で、店内は15人くらいでいっぱいになりそうな狭さ、水はもちろんセルフで水差しがボンとテーブルの上に置かれている。


「え、えっと、それじゃあ、俺もそれで」

「おっけー。注文お願いしまーす」


 来栖さんのテンションが焼き肉屋に向かう時より高い。

 このお店に入った時は新手のからかいかと疑ったけど、このうきうきっぷりを見る限り本当に来たかったんだ。

 何かもうずっと店内をキョロキョロしている。

 けど、どうしてここにしたんだろう?


「ここがずっと気になってたお店なの?」

「そうそう。さすがに女の子一人じゃ入れなくてさー。後、ほら、クラスのみんなとはあんな感じだったし?」


「あ……ごめん」


 不用意に聞いたせいで思いっきり地雷を踏み抜いた。

 ちょっと考えれば分かりそうなもんなのに、何やってんだ俺。


「別に謝らないで良いし。むしろ、私がありがとう言わないといけないぐらいだよ?」

「え?」


「みんなが美味しいって話をしてるのに、こっちじゃ友達いないからずっとこういうお店は入れなかったし、ユウがいてくれたから来られた。ありがとね」

「そっか。なら良かった」


「うん、だから、今日はお礼に私がおごっちゃうよ」


 デートでラーメンってのも何か格好がつかない気がしたけど、来栖さんはきっと中学でやり残したことを取り戻そうとしているのかな。

 だったら、ラーメンでも何の問題もない。それにおごりって言い出すくらい上機嫌だし、別の所に行く方が無粋ってやつだ。

 とはいえ、本当に大丈夫かな? 無理はしてないよな?

 そうちょっと心配しながら来栖さんを見つめていると、来栖さんは何かに気付いたようにあっ、と声を出した。


「あ、でも、ユウにとってラーメンは良くなかったかもね?」

「え? 俺、ラーメン好きだから全然構わないけど」


「へぇー、後で後悔しないでよ?」


 何故か来栖さんはニマニマしだした。

 いつも俺をからかう時に見せる表情に、色々な意味でドキッとする。

 い、一体何を企んでいるんだ?

 さすがにラーメンで食べさせあうことは無いよな。そもそも同じもの頼んだし。

 どうやって俺をからかうつもりなんだ!?


「お、ラーメン来た! 3年間待ってたぜー。確か、こうやって食べると美味しいって言ってたっけ。ほら、ユウもやってみたら?」


 あ、あれ? 何もしてこない?

 それどころか、普通にテーブルの上にあったおろしにんにくをスプーン一杯入れた? もう俺なんか関係無く普通にラーメンに向き合っているぞ。


「おぉー、マジで美味しい。来れて良かったー」


 うん、普通に美味しそうに食べている。

 レンゲの上にスープと麺をのせて、さらにネギと細かく切れたチャーシューをのせてミニラーメンみたいにして楽しんでいる。

 あ、あれ? からかわれるのかと思ったけど、単純に来られて嬉しかっただけなのかな?

 とりあえず、いつからかわれても良いように心の準備をしつつ、俺も来栖さんの真似をしておろしにんにくを入れてから箸をつける。


「あ、本当だ。美味い」


 そして、気付けば普通に食べていた。

 俺も来栖さんもスープの最後の一滴まで飲みきり、箸を置く。


「あー美味しかった。たまにはこういうのも良いよね」

「まさか来栖さんもスープを飲み干すとは思わなかったよ」


「身体には良くないかもだけど、つい飲んじゃうよね」


 苦笑いする来栖さんに俺も苦笑いで頷く。

 そういえば、結局何もされなかったな。

 お会計も本当に払ってくれたし、そのままデートの続きしよって言われて、公園をぶらぶらすることになっても、特に何もされない。


 腹ごなしに二人で散歩することになった公園は、涼を求めてやってきたのか結構人がいる。何となく若い男女の組み合わせが多いような気がするかな?


「ねぇ京、さっき何でラーメンを食べると後悔するって言ったの?」

「ん? あー、あはは。まだ気付いてなかったんだ」


「え? もう俺、何かされてたの?」

「うん、もうしちゃったかな?」


 だったら、今回はドギマギしてないし、上手くからかいをかわせたんだな。

 よし、俺も成長した。気付かなかっただけなのは目を瞑るけどね!

 でも、それなら何で来栖さんはクスクスと笑いながら手で口元を隠しているんだろう?


「私、これでも今日すごいテンション上がってるんだよ?」

「うん、それは見てれば何となく分かるけど」


「今日は普段のユウになら何されても良いって思ってたくらいでも?」

「な、何されてもって……」


「周り、見れば分からない?」


 そう来栖さんに言われて周りを改めて見回してみると――。

 いくつかの人影の頭が重なっていた。え、キスしてるの?

 つまり、その何されてもっていうのは――。


「ここ、この街の有名なデートスポットなんだ。蛍が池に放流されていて、綺麗なんだよ?」


 あぁ、やっぱりデートスポットなんですね! 道理で周りのカップルがイチャイチャしている訳ですね!


「私たちもちゃんとカップルに見えるかな?」


 それはカップルに見えることをしろということでしょうか!?


「キ、キスする?」

「キスだけでいいの? 何でもしていいんだよ? この後どこに連れ込んでも私はついていくよ? ……家だとお父さん達いるしさ。これ以上は言わせないでね」


 俺が勇気を出して尋ねると、来栖さんは赤くした顔を横に反らした。

 来栖さんがガチで照れてる!? え、つまりどういうことなの!?

 連れ込む先ってもしかして、やっぱりあれですか!? 休憩できる場所ですか!?


「……しないの?」


 そんなことを上目使い気味に聞かれたら、断れる訳がない。


「……する」


 うん、でも、まずはキスからだよね!?

 そう思って上目使いの来栖さんに唇を近づけていく。

 すると、唇が来栖さんの指に触れた。

 え? 指? あれ? 人差し指でキスを止められた!?

 何か間違えたか!?


「ユウ……」

「えっと……」


「ニンニク臭い」

「なっ!?」


 キスを拒否られたのがそんな理由!? いや、確かにムードぶちこわしな臭いだけどさ!? 何でこうなった!?


「ぷっ、あははは」


 俺が驚くと来栖さんがお腹を抱えて笑い出した。

 からかわれた? いつから? あっ、くそっ!? そういうことか!? やられた!?


「ラーメンの時に言ってた後悔するってこれのこと!?」

「うん、正解。あはは、すごい顔だったよ。写真撮りたかったなぁ」


「やられたぁ……」


 俺は崩れるようにしてベンチに座り込んだ。

 立ってられないほどの脱力感だよ。

 来栖さんは一体いつからこうなることを狙ってたんだろう。

 あのラーメン屋に入った瞬間思いついたのなら、完全に油断してたよ。

 もうあの時は普通にラーメンを食べることしか考えてなかったからなぁ。臭いなんて全く考えてなかった。


「ね? 後悔した?」

「ははは……。まぁ、ちょっとした。でも、少し安心もしたよ」


「え? 安心したの?」

「うん、だって、京がいつも通り俺をからかえるのなら、あのキスも、普段は来ないラーメンを選んだのも京が無理した訳じゃないって分かったから」

 思わず呆れちゃうくらい、いつも通りからかわれたんだから。


「……ホント、そういうから危ないんだよなぁ」

「え?」


「なんでもなーい。ユウを好きになってよかったなって話」

「……ありがと。それじゃあ、キスは出来ないけど、手は繋いでも良いよね?」


 キスやそれ以上はダメでも、せめて恋人らしいことをしたい。

 これも拒否されたら泣く自信があるけど、手なら大丈夫だよな?

 そう思って手を出すと来栖さんはニヤリと笑って俺の手をスルーすると、そのまま俺の横に腰を下ろした。


 って、本当にスルーされた!? 何で!?


「腕は組まなくても良いの? 何でもしていいんだよ?」


 あぁ、もう、ホント良い性格してるよ!


「……腕も組んで欲しいな」

「うん、それじゃあ、いこっか」


 横に座った来栖さんと腕を絡み、手を離すものかという気持ちで、手も指一つ一つを絡め合って繋ぐ。

 ほぼ密着して歩きにくいのに、ずっとこのままでいたいと思える不思議な感じ。

 絡まった腕に意識が行くのはきっと来栖さんがわざと胸を当てているからだ。

 公園を歩く俺達はきっと他のカップルに混じっても浮いていない。

浮いていないように見えるくらい、きっと俺は来栖さんと一緒で浮かれている。


「あはは、ユウ、ドキドキしてるね?」

「……好きな子に手を繋がれてるからね」


 自分でも何を言ったのか良く分からず、多分思ったことが素直に出た。

 けれど、俺の言葉に来栖さんは長い間何も返事をしなかった。

 そして、かわりに音を発したのが来栖さんの携帯だった。


 どうやら今日はまだハッピーエンドで終わるには早いらしい。



 私はユウの真っ赤な照れ顔を見上げて、頬が緩みそうになるのを必死にこらえた。

 好きだって言って貰えるのが嬉しすぎて、ユウをからかっても嬉しさと照れくささを誤魔化せそうに無い。

 というか、考えてみれば実家に戻ってきてからずっといっぱいいっぱいで、気を抜いたらユウを押し倒すんじゃないかってくらいにドキドキしている。

 さっきの好きだって言葉一つでこんな風になっちゃうんだから。


 でも、多分、ユウは気付いていないよね?


 それと、実は今日もユウに助けて貰って、自分が抑えられそうに無かったことも気付いていないはず。


 ちなみに、ラーメンを選んだのだって、ずっと行ってみたかったっていうのもあるけど、本当はもっと別な理由だ。

 ニンニクを入れたのだって、そうした方が美味しいって聞いたけど、それもおまけの理由でしかない。


 そうやって断る理由を自分に作らないと、私は本当にユウに何されても良いって思っていたしね。

 もし、断る理由がなかったら多分、誘われた私がユウを押し倒しちゃうだろうしさ……。えっちな子だってユウに思われるのは嫌だしなぁ……。


 ちなみに、私はちゃんと口元を隠してブレスケアをかんでいた。

 ユウがそれに気付いてユウも欲しいって言ったら、危なかったなぁ。いや、実はちょっと気付いて欲しいって期待してたけどさ。今日は私もフワフワしてるし、気付かないでくれて良かったよ、うん。


 ということで、今はこのユウの照れた顔で我慢我慢。

 って、ジッと見てたら何か私が照れてきたなぁ。また何かからかって誤魔化さないと、顔に出ちゃうや。

 って、あれ? お母さんから電話?


「ケイトと中学が一緒だったって子が来てるわよ? 何かあった?」

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