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久しぶりの再会

 本当に俺の家の前で来栖さんは足を止めた。

 少しでもフォルダーもとい、部屋を掃除する時間を確保しないと色々ヤバいって!


「うわー、ユウの家に来るなんて10年ぶりくらいだよね。家は違うけど懐かしいー」


 今俺が住んでいる家は二階建ての一軒家。昔は平屋建ての家だった。

 まぁ、住んでいる家が違うのは当然で、うちも両親の転勤が多くて借家を転々としているんだ。

 それでも懐かしいって感じてくれるのはきっとあの時のことをちゃんと覚えてくれているせいだと思う。


「それじゃぁ……どうぞ」

「はーい、お邪魔しまーす」


 玄関を開けて中に入る。

 すると、来栖さんの声に釣られたのか、妹のしずくがやってきた。

 年は6歳離れていて、元気いっぱいの小学4年生。今日も友達とプールに行くと言っていたのだけど、いつの間にか帰ってきていたようだ。

 えっと、どうやって紹介しようかなぁ。まだそう言う恋愛とかは早いだろうし。雫には友達と言っておくべきか。


「お母さん! お父さん! お兄ちゃんが女連れてきた!」

「その言い方はやめろ!?」


 何か言い方が危ないというか、父さん達に変な先入観与えそうだよ!


「なんだって!? 祐作が女の子を連れてきた!? うおっ!?」

「あなた大丈夫!?」


 お父さんが椅子から転ける音がしたんだけど!?

 動揺し過ぎだよ!?


「違うよ雫ちゃん。そんな風に言ったらお兄さんが困っちゃうよ」


 来栖さんナイスフォローだ。

 話がややこしくなる前に雫を止めてくれ。


「え? お姉ちゃんお兄ちゃんが連れてきたんじゃないの?」

「うん、だから、お兄ちゃんが彼女連れてきたって言わないと」

「分かった! お母さん! お父さん! お兄ちゃんが彼女連れてきた!」


 全然改善されてねえ!


「祐作に彼女だって!? いたっ!? 足の小指打った!?」

「お父さん大丈夫!?」


 今度は壁にぶつかったような音がしたぞ……。

 というか、息子が彼女連れてきただけで、何でこんな騒ぎになるんだ……。超恥ずかしいんだけど……。


「おじさん達も元気そうだね?」

「現在進行形でボロボロになってそうだけどね……あがってよ」

「はーい、お邪魔します」


 来栖さんをリビングに通すと、ドタバタしていた父さん達が姿を消していた。

 まあ、とりあえず、座ってもらって麦茶でも出そう。


「今お茶入れるからちょっと待ってて」


 そして、俺が冷蔵庫の中から麦茶を取り出すと、リビングの扉が勢いよく開かれた。


「祐作は座ってなさい! お母さんが紅茶を入れるから!」

「いやいや、ここは父さんのコーヒーだ!」


「んなことより、何で2人とも着替えてるのさ……」


 外行きの服で、しかも、髪の毛までセットしてるぞ。

 気合い入れすぎだろ!? 空回りも良いとこだよ!


「えっと、麦茶がいいです」

「「あ、はい」」


 ナイスだ来栖さん。

 おかげでうちの両親が落ち着いた。

 ちょっとでも格好付けようとしていたんだろうけど、来栖さん相手だと墓穴にしかならないって。

 そうして、両親を来栖さんの前に連れて行く。

 すると、二人とも来栖さんを見た瞬間、驚いて顔を見合わせていた。


「金髪!?」


 やっぱりうちの両親も来栖さんの見た目で随分驚いたみたいで、声に思いっきり出していた。

 まぁ、こんな地味な息子が金髪のかわいい女の子を連れてきたら驚いても無理は無いよなぁ。

 でも、こういうのを来栖さんは嫌っているから申し訳なくなる。


「懐かしい! 久しぶりー! ケイトちゃんよね? 髪伸びて女の子らしくなったわねー!」


 こうやって見た目で判断されてーー。


「おお、十年も見ないうちに随分と大人びて。うちの祐作とは大違いだ」


 勝手にレッテルを貼られてーー


 なんだって?

 あれ? 一瞬で気付いてる!?


「お久しぶりです。おじさん、おばさん」

「本当に久しぶりねー。お父さんたちも元気?」


「はい。おかげさまで」


 しかも、普通に打ち解けてるし!?


「ちょっと母さん! ケイトが女の子って知ってたの!?」

「そりゃ知ってるわよ。ケイトちゃんのご両親に何度も挨拶してるし」


「でも、昔と見た目全然違うし!?」

「何年か前まで年賀状で家族写真を送ってきてたわよ?」


「えええ!?」


 そう言えば年賀状とか全然見てなかった!

 え? というか、この状況やばくないか? 母さん達が一瞬でケイトだって分かったのに俺だけ気づくのに時間かかったってことは?


「気付かないのユウだけだったね?」


 うわー、すごいニマニマしてるし!

 これは後でからかわれそうだな……。


「ところで、祐作、彼女を連れてきたっていうのは?」


 母さんが周りをキョロキョロ見回しながら、そんなことを尋ねてくる。


「え、目の前にいるけど」

「え、ケイトちゃんのこと!?」


「う、うん」

「あららー、そうなんだ。おめでとう。確かに仲良かったものね。祐作はケイトちゃんのこと男の子だと思ってたみたいだけど」


「それはもういいよ!? 散々からかわれたよ!」


 隣で来栖さんが笑いをこらえてぷるぷる震えている。

 ちくしょう! 何で我が家でもからかわれるんだ!? 精神的にはこっちの方が有利なはずなのに!

 父さんと母さんは完全に昔を懐かしむモードになってるし、来栖さんもさすがに今はからかわないだろうけど。


「にしても、懐かしいな。来栖さんの奥さんには色々と笑わせて貰ったよ」

「ありましたねー。あれは焦りましたよ」


 何だろう? ケイトとの思い出は覚えているけど、来栖さんの両親のことはあんまりハッキリ覚えていない。


「うちのお母さんがどうしたんですか?」

「あぁ、あれは初めて会ってご挨拶をした時だったんだが」


 来栖さんの問いかけ父さんが苦笑いしながら答える。


「来栖さん、あぁ、ケイトさんのお父さんと話をしていて、お互いに転勤族なんだって話になってな。君のお母さんが嬉しそうに僕と君のお父さんの手を取ったんだ。そして、握手させて上下に激しく揺さぶってきたんだよ」

「はは、うちのお母さんはちょっと強引なところありますから」


「いや、そこは良いんだけどさ。握手させられて、二人とも同じ穴の兄弟デース! 今から仲好しシマショウ! って言うからさ」

「「ぶっ!?」」


 来栖さんのお母さん何言ってるの!?

 さすがの来栖さんでも恥ずかしいのか顔真っ赤にして顔背けてるよ!?


「お兄ちゃん、穴兄弟って何?」

「さ、さぁ、仲の良い兄弟のことじゃないかなぁ!?」


 妹よ! 彼女と親がいる前でそんなこと聞かないで!?


「あの時は母さんも、君のお父さんも大慌てしてね。なんやかんやで、結局のところ同じ穴の狢って言いたかったんだって」

「す、すみません。母は今でもたまに変な日本語の言い間違えをして――というか、同じ穴の狢の使い方も変ですよね……」


「そうなんだよ。別に一緒になって悪いことなんてしてなかったのにね。結局、同じ転勤族の仲間だって言いたかったらしくて、君にお父さんと一緒にてんやわんやしたものさ」


 父さんは懐かしそうに笑いながら、当時の思い出話を口にする。

 どうやら親子二代にわたって、来栖さん一家にドギマギさせられてきたらしい。

 というのも、父さんだけじゃ無くて、母さんも被害者だったらしいのだ。


「母さんもビックリさせられたことあるわよー。突然、ユウ君に売春の品デース。いつも娘がお世話になってマース。と言ってお菓子の入った紙袋を渡してきてね」

「お母さん何言ってるの!?」


 おー……、あの来栖さんがめっちゃ動揺してる。すごく珍しい。かわいい。


「いやー、買収の言い間違えだったらしいわ」

「お母さん言い間違えが致命的過ぎるし!?」


「ケイトを明るくしてくれた祐作にこれからもケイトと遊んでくれるようにってくれたのよ。普通にお礼って言ってくれれば良いのに、物を与えて遊んで貰うって日本語は買収ジャナインデスカ? よくドラマでやってマース。って言われて唖然としたわー」

「すいません、ホント、うちのお母さんがすいません。悪気は無いんです! 天然なんです!」


 来栖さんが真っ赤に照れながら頭を下げるなんて、よっぽどのお母さんだったんだな。

 うーん、俺はあんまり記憶にないんだよなぁ。すげー綺麗な人だったってくらいしか覚えていない。

 そんな愉快な人だったのか。

 会いたいような、会いたくないような。


 うん、どっちかって言うと会いたくないなぁ。何か来栖さんと一緒にとんでもない勢いでからかわれて、気疲れしそうというか……。


「まぁ、今となっては良い思い出だ。また久しぶりに会いたいねぇ」

「あの、それで、おじさんとおばさんにお願いがあるんですけど」


「ん? なんだい?」

「ユウを家の両親に会わせても良いですか? その一週間くらい、いえ、二泊三日くらいで良いので……」


 へ? 今来栖さん何て言った?


「うん、良いよ。こんな息子で良ければ連れて行ってくれ」


 父さん今なんて言った!?


「それじゃあ、お土産持たせないとね。何が良いかしら」


 母さんまで!?


「おぉーお兄ちゃんすごい。娘さんを僕にくださいを言ってくるの? お兄ちゃん結婚するの? 出来ちゃった結婚なの?」


 雫はどこでそんな言葉覚えた!?


「違うよ雫ちゃん。お兄ちゃんと私は恋愛しちゃった結婚だよ」

「おー、しちゃった結婚! おめでとうお兄ちゃん!」


 普通のはずなのに、言い方がいかがわしいのは何でかなぁ!?


「ちょっ、えっ!? ていうか京、今の話、俺全く聞いてないんだけど!?」

「当然だよ? だって、今初めて言ったんだもん」


「でも、そんな急に」


 言われても困ると言おうとしたら、来栖さんが机の下で俺の手を握ってきた。

 後で説明する。

 そう言われているような気がして、俺は仕方無く頷く。


「まぁ……止める人もいないし、俺は行っても良いよ」

「ありがとユウ。おじさん達もありがとうございます」


 こうして、俺の両親と来栖さんの再会は無事に終わり、後はゆっくりしていってくれとなって、俺の部屋で過ごすことになった。

 そして、さっきの仕草で感じ取った通り、来栖さんは何故実家に誘ったかの理由を口にした。


「ケジメつけようと思って」


 そのケジメが一体何のケジメなのか。

 俺は何となく知っているような気がした。


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