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内緒話

 旅館で恋人とお泊まり!

 なんて言ったら、そりゃ色々な妄想が膨らむ訳だ。混浴とか、部屋に戻ったらお布団が一つしか敷かれていないとか、朝起きたらおはようのちゅーとか!

 でも、現実は――。

 旅館の近くにあった喫茶店で泰斗さんと二人きりだ。


「来栖さんの様子は……」

「あぁ、僕ならこの通りとても元気だよ。日焼けだけが心配だけどね」


 この人はこっちが真面目な話をしているのにからかうのか!?


「……京さんの様子は」

「落ち着いたみたいだ。今はゆっくり休んでる」


 と言うわけでこんな泰斗さんが居れば、そんな甘い妄想なんかが起きるはずもない。

 それに何より来栖さんの調子が悪い以上、弱ったところにつけ込むのも何か嫌だ。

 

 後、わざわざ旅館の外に出た理由だけど、来栖さんが近くにいたら話せないこともあったからだ。


「さて、ここには京もいないことだし、僕にも聞かせてくれるかな? 何があったのかをさ」

「俺も良く分からないんです。中学校時代の知り合いに会って、財布をとったことは許したとか何とか言われたら、急に苦しそうにして。何があったんでしょうか?」

「なるほどね。そういうことか」


 泰斗さんがため息をついて頷く。

 来栖さんは中学卒業するとこっちに引っ越してきたっていうし、もしかして来栖さんの両親から事情を聞いて知っているとか?


「泰斗さんは何か知ってるんですか!?」

「あぁ、実はさっぱりわからない!」


「さっきの意味深な台詞はなんだったの!?」

「もちろん、高瀬君をからかうためさ」


「そんなことしてる場合じゃないでしょう!?」


 こんな時までからかうなんて性格が悪いぞ!?

 来栖さんがあんなことになったのに、何とも思わないのか!?


「そう、そんなことを言っている場合じゃないんだよ」

「だったら、マジメに話してくださいよ!?」


「だったら、もう少し落ち着くべきだよ」

「落ち着いてますよ!」


「そうかな? 今の高瀬君は動揺しているし、イライラしているように見えるからね。そのまま僕の話を聞いたら、何しでかすか分からなかったから、落ち着いてもらう必要があったのさ。知りたいって気持ちが前のめりに突っ走り過ぎだよ」

「うっ……」


「多分、もう薄々感づいているはずだしね。だって君はイライラしているんだから」


 そう言われて、俺は少し反省した。

 確かに来栖さんに直接聞きにくい分、俺はかなり強引に泰斗さんから聞き出そうとしていたかもしれない。


 それに、イライラの原因は明白だ。

 何となく来栖さんと香坂さんの間に何が起きたのかは、予想出来ていたんだ。

 テストの結果発表の時からずっと気になってたあの言葉の答えが、来栖さんの中学時代にあって、その原因が香坂さんの言っていた財布ってなると――。


「来栖さん……京さんは中学の頃、誰かの財布を盗んだ犯人にされて……いじめられたんですか?」

「どうやら落ち着いたみたいだね。大筋それであっている」


「大筋?」

「後は理由だね。京には内緒だと言われているけど、自分でそこまで気付いたのなら、僕が教えても大丈夫だろう。京に問い詰められたら、高瀬君が自分で推理したと誤魔化せる」


 泰斗さんはそういうと俺の眼を見て、一度肩をすくめて笑う。


「何せ君は京の彼氏でもあるしね。僕の話を聞いても、今までと同じように接してくれるだろうし」

「はい」


「でだ、散々もったいつけた訳だけど、京が犯人にされた理由はとっても単純だ。髪の色が金髪だったから。たったそれだけだよ」

「……は?」


 髪の毛の色が犯人の理由? 一体どういうことだ?


「高瀬君、中学の時に髪を金髪にして、イヤリングをつけているような子がいたら、不良だと思わないかい?」

「確かにそう思われるかもしれないですけど、それと来栖さんのイジメの原因に何の関係があるんですか?」


「関係大ありさ。だってそれだけの理由なんだから」

「え……? ってことは、誰かの財布が盗まれたって事件が起きて、犯人捜しをしたら来栖さんの見た目が不良っぽいからって理由だけで犯人にされたってことですか!?」


「そういうことさ。もちろん、京はやってないって言ったらしいけど、教師すら信じなかったそうだ」

「証拠なんて何もないのにですか!?」


「証拠は盗まれた子の席の近くに金髪の髪が落ちていただそうだよ。歩けば落ちるし、風と掃除でいくらでも飛ぶ髪の毛が証拠なんて信憑性がなさ過ぎて笑っちゃうよな。だから、実質、髪の色からくる印象だけさ」

「そんな……メチャクチャな」


「そうだね。メチャクチャだよ。おかげで、中学時代は盗人扱いでいじられたそうだ。京が言うにはいじられたってことだけど、僕としてはそれはいじられじゃなくて、いじめだと思っているよ」


 来栖さんはあの金色の髪の持つ印象だけで、犯人にされたのは本当だったらしい。

 あまりにも理不尽で論理の欠片もない判決だ。

 けど、そのことを言われて、俺はようやくあの時、来栖さんが震えた理由が分かった。


 そんな見た目だし、勉強出来ないと思ってたよ。


 そう言われた時の震えはこのイジメを思い出したからなんだ。

 そんな見た目だし、犯人だろうという決め付けがあったんだと思う。


「派手な見た目をしているから、変な誤解が多い子なんだよね。僕と映っている写真のせいでスーパービッチギャル子さんなんてあだ名をつけられるし。男避けとしては、まぁ、今となって良かったのか悪かったのかは分からないけど、この件は高瀬君のおかげで丸く収まったみたいだから置いておこう」


 泰斗さんはそういうと苦笑いして、頬をかいた。

 でも、だったら、どうして来栖さんはそのあだ名を受け入れたんだろう。

 あれは従兄弟のお兄さんだって言い訳は出来たはずなのに。

 でも、まだ聞ける雰囲気じゃないな……。


「京が誤解される話に戻すけど、僕を含めてうちの両親や、京の両親も、髪を黒く染めたらどうだって言ったんだ。日本人の叔父さんだけじゃなくて、アメリカ人のおばさんが言うぐらいだからよっぽどだった。でも、京は絶対に首を縦に振らなかった」

「そういえば、金髪が地毛って言ってたっけ。ハーフだから金髪なんですね。それに何かこだわりがあったとか?」


「ははは、とぼけるのが下手だなぁ。そんなの君のせいに決まってるじゃないか」

「え? 俺のせい?」


「日本人とアメリカ人のハーフだからってアイデンティティでもなく、金髪の方がオシャレだからなんて見た目の問題でもなく、好きな男の子に綺麗って言って貰った髪だから、再会した時に気付いて貰えるように黒に染めたくない。って言ったんだよ」


 確かに初めて会ったときから綺麗な髪だなとは思っていたけど、そんなこと言ってたんだ。そんなに思って貰えるなんてすごい幸せ者だな。

 って、あれ? でも、それじゃあ、何で俺が来栖さんと付き合っているんだ?

 俺と来栖さんは昔会ったことがあるのか?


「まぁ、それでも僕は、イジメに遭いやすい髪の色だからと心配していたんだけどね。ただ、高瀬君を見て、確かに君がいるなら心配ないなってなった訳さ」

「そ、そんな俺なんて本当に普通で……」


「うん、だから良かったんだ。それに、君は普通以上にからかいがいがあったんだよ。あんなに楽しそうな京は君がいなかったら見られなかったと思う。ありがとう高瀬君」

「俺の方こそ……ありがとうございます」


 からかいにも意味があったと言われるのは、何だかとても複雑だけどさ。

 本当に来栖さんの役に立ててたと知れたのは嬉しい。


「それを見て、京ももう大丈夫だと安心していたんだけど、やっぱり中学の人達と会うとフラッシュバックするみたいだね。その点に関しては高瀬君に何の非もない。ただ、運が悪かっただけだ。あまり気負うなよ?」

「……そうですか」


「ほらほら、言ったそばからそんなに落ち込んでると、京の代わりにからかうぞ?」

「本当に二人は良く似てますよね!?」


 俺のツッコミに泰斗さんは大笑いして、散々その後は来栖さんのことでからかわれた。

 本当に大事にして、本物の妹みたいに接しているんだってすごく伝わってくる。

 本当に良い人なんだなって思いつつ、勘弁して欲しかった。

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