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付き合ったら、こうなるよね

 翌朝、俺と来栖京が付き合っていることは全校に知れ渡った。

 ツイッターとかラインとか超怖いんですけど!

 ……俺と来栖京の写真がめっちゃタイムラインに流れてるんだよ。


「まさか手を繋いだだけでこんな大事になるなんて……」

「良く撮れてるよね。最近のスマホってすごいわー。ガラケーなんかとは大違いだねぇ」


 来栖京が俺の身体に密着するようにして、ケラケラ笑いながら俺のスマホをのぞき込んでくる。

 その廊下を歩きながらそうされると歩く度に、こう胸が当たるのを意識させられるんですけど。

 みんなこっちをチラチラ見てくるんですけど!


「おんやー? 顔が赤いぞ彼氏君」

「来栖さんのせいでしょ……。その当たってるから」

「でも、まんざらでもないっしょ? 来栖ちゃんが離れちゃって良いのかな? さっきからおっぱいが触れてるところチラチラ見てるくせに?」

「~~っ!?」


 言い返せねえ……。

 すごくニマニマした顔でこっちを見つめてくる。多分これ肯定しても否定してもからかわれる奴だ。

 くそう、これが経験の差ってやつかよ。おっぱいが当たっているだけでドキドキしちゃうなんて、ピュアピュアボーイだね。って笑われる奴だよ。


「自分の携帯で見てよ……」

「私、ガラケーだし。今時ちょー珍しいでしょ? 絶滅危惧種通り越して化石系? だから、ツイッターとかラインを見るには彼氏君の携帯が必要なんだよねー」


 そう言って来栖京が鞄から携帯を取り出す。確かに今時珍しい折りたたみ式のガラケーだった。

 確かにガラケーじゃ見られないから、俺のを見るしか無いんだろう。

 でも、なんでこんな携帯を使うんだろう? お金が無い訳でもないだろうし。


「こういう古くさいのを持っていると、オジサン達が喜ぶんだよ。これぐらいシンプルな方が良いんだよ。スマホは難しくていかんって」

「あー……」


 妙に納得した。けれど、すごいもやっともした。

あぁー、聞くんじゃなかった。


「あれ? あれあれ? 妬いてくれてるの?」

「……別に妬いてない」

「そっかー。ざあんねん。妬いてくれたら嬉しいのになー?」


 いや、そのニマニマした顔は全然残念がってないように見えるけどな!

 それにしても、周りの視線がすごい刺さる。

 うん、声には出ていないけど、なんでお前がそこにいるんだ? って問いかけてきているような気がする。

 俺だって聞きたい。何で俺が来栖京の彼氏になったんだ? ってさ。

 少なくともみんなが噂するスーパービッチギャル子さんの好みには一ミリだってかすっていない。

 そんなことを悩みながらクラスに入ると、俺と来栖京はいきなり女子達に囲まれた。


「ねーねー、来栖、高瀬、あんた達付き合ってるの?」


 何ともストレートな質問が来たなぁ!?


「うん、付き合ってるよ」


 来栖さんもストレートに返したなぁ!? 俺を挟んで剛速球のキャッチボールしないで!?

 何なの!? この中で恥ずかしがっているのは俺だけなの!?

 って、うわあ!? 女子のみんなの視線がこっちに!?

 怖っ!? 生まれたての子馬より緊張で足がプルプルしてるんですけどぉ!?


「高瀬、あんた来栖と付き合ってるの?」

「え、あ、えっと、はい」


 うん、何かもう何も言えなかった。

 けど、女子達も特に何かを言う訳でもなく、ふーんで終わった。

 あれ? それだけ?

 それだけで良いのなら、別に良いんだけど……なんだったんだろう? 一瞬視線が怖かったんだけど。


「えー、あっちの大学生の彼氏はどうなったのさー?」

「でっかい会社のおじ様は?」


 あ、これもう完全に俺どうでも良い状況になってる。

 何か聞き耳立てるだけ辛くなりそうだから、さっさと自分の席に逃げよう。

 窓際の席から遠くの景色を眺めて、この訳のわからない状況から現実逃避するんだ。


「はぁ……どうしてこうなったんだろう」

「本当に何がどうしてこうなったんだろうな? 被告人、高瀬祐作」

「本当に……どうしてこうなったんだろうな……」


 ボキボキと拳を鳴らした男達が俺を囲んでいる。ついでにいえば、こいつら全員来栖さんにこっぴどく振られた人達だ。

 いつのまにか被告人にされているけど、この雰囲気絶対に有罪判決というか死刑宣告が下るだろう。

 あぁ、外の空気おいしい。これが俺の見る最後の景色かぁ。

 鳥も気持ちよさそうに飛んでる。この窓から投げ捨てられたら俺も飛べるかなぁ……。


「ヤッたのか?」

「ぶっ!? やってねえよ!?」

「なら、おっぱい揉めたか!?」

「ぶふっ!?」


 男子諸君もストレートだなぁ!


「相手はあのビッチのギャル子さんだもんな。彼氏になったら三秒で即合体だろ?」


 球筋がデッドボールだよ! 頭ぶっ飛んでるよ!


「いや、さすがにそれはないよ……」

「え、マジかよ」

「マジだよ。手繋がれたくらい」


 いや、うん、おっぱいは触れていたけど、俺からやった訳じゃないし。

 あ、そもそも手も俺からじゃない。俺何もしてねぇ!?


「ありえんだろ!? あのスーパービッチギャル子さんだぞ? 今女子達と結構えげつない下ネタ話すギャル子さんだぞ?」


 うん、断片的に聞こえている。

 大きければ良いってもんじゃないとか、聞きたくないよ! 身長だよな!? 身長のことだよな!? キスの位置に困るって言ってるしさあ!

 キスしたことないけどさああああ!


「高瀬、お前、へたれだとは思ってたけど、まさかギャル子さん相手に手も出せないなんて本当にへたれだな」


 そうですよ! 握る手すら出せなかったへたれだよ!?


「うっせーよ。ってか、来栖さん相手にってのは関係ないだろ?」

「あるね。だって、もう色々な人とやりまくってるんだろ? 簡単に色々なことやれる相手なのに手を出さないんだから、へたれとしか言いようがないだろ?」

「それは……」


 うん、確かにその通りなのかもしれない。

 けれど、それは言っていることが本当だったらのことだ。

 俺は来栖さんのことをまだ噂でしか知らないから。


「俺はへたれだけど、来栖さんは意外とガードが堅い……かもしれないから」

「そう言うあたりがへたれなんだよなー。にしてもなんでお前なんだろうな? お前がいけるなら俺にもチャンスが――っと、チャイムか。また後で聞かせろよ」


 ふぅ、チャイムに助けられた。

 来栖さんの方はどうなったんだろう?

 そう思って来栖さんの席に目を向けると、来栖さんと目が合って手を振ってくれた。

 反射的に手をあげてしまうと、来栖さんは親指をグッと立ててウインクしてきた。

 意外と可愛いところがあるというか、こういうことを割と誰に対してもやるから、来栖さんは人気だったりする。


 誰に対してもいきなり距離を縮めて、パーソナルスペースに入り込んで、自分のペースでかき乱していく。そんな人って印象だ。

 色々危ない噂はあるけれど、悪い人じゃないとは思う。

 そもそも……あの言葉は本当だったんだろうか?

 耳元でくすぐるように囁いた、来栖さんも処女だっていうのは……。

 あ、ダメだ。変なことを考えながら来栖さんを見ていたら恥ずかしくなった。

 邪な気持ちを抱いたまま来栖さんを見つめることが出来ず、俺は目線を前に戻した。


 本当に俺はまだ来栖さんのことを何も知らない。

 何で俺が選ばれたんだろう?

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