海の日!
海の日に投稿出来れば良かったなぁ。ということで、水着回はもうしばらく続きます。
車の窓から外を見る。
夏の眩しい日差しは海を青く照らし、ラジオから海に良く似合う曲が流れている。
そして、隣からは――。
「海だよ海! テンション上がる!」
「く、来栖さん、狭いって……」
来栖さんがのしかかってきていた。
夏の海に行くこともあって、薄手の服だし、腕と足は出してるせいで、肌と肌が触れあって、来栖さんの高めの体温が直に伝わってくる。
やばい。すっごくドキドキする。どいてもらう振りして触りたいところ触りたくなる。
けど、ここで理性を無くす訳にはいかない。だって――。
「高瀬君の理性はどこまで保つかなー?」
「泰斗さんも煽ってないで止めて下さいよ!?」
「ははは、良いじゃないか。青春の思い出は嬉し恥ずかし、後で思い出して赤面するくらいがちょうど良いんだよ。あの時は若かったなってさ」
泰斗さんがこんな調子で止める気配が無いからだ。
どうやら泰斗さんも夏の海と日差しに頭をやられたらしい。
「そして、僕に死ぬまでからかわれる訳さ。僕の運転する車で高瀬君と京が若い衝動を抑えきれず始めちゃったと! 末代まで語り継いであげよう!」
「さすがにそこまでしたら止めるべきでは!?」
「構わないよ。二人揃ってからかえるネタになるからね!」
うん、ということで絶対に理性は飛ばせない。
というか、来栖さんも一緒にからかわれているはずなのに、何で平気なんだ?
「やだなー泰斗兄さん。彼女さんと海に行く予定で車借りて、宿の予約まで入れたのに、急に予定が合わなくなってどうしようって言ったのは誰だったっけ?」
「ハハハ、かわいそうな友人だよ! 友人の話なんだけど、高瀬君もそう思わないかな!?」
……泰斗さんがおかしい理由が良く分かった。
何というかあまり触れないであげよう。
「その友人の人……残念でしたね」
「本当にね! 本当に残念そうだったよ!」
叫びの空元気がとにかく痛々しい。
何というかこんな泰斗さんの前でいちゃつくのも気が引けるせいで、理性は飛ばせないんだよな。
けど、来栖さんの方はお構いなしにくっついていた。
○
そして、目的地の砂浜に辿り着き、水着に着替えた俺は泰斗さんと一緒に来栖さんを待っていると、来栖さんがこっちを見つけて歩いてきた――のは良いんだけど。
「ねぇ、君、俺達と一緒に遊ばない?」
「君テレビに出たことあるよね!? え? 出てない? うっそだー」
うわぁ、いきなりナンパにあってる!?
しかも、日に焼けた筋肉質で、金髪な、いかにもサーファーな人にナンパされてる!?
あれが海の魔物!? なんて言ってる場合じゃないか。
「行けっ! 高瀬君、君に決めた!」
「泰斗さん今日ホント大丈夫ですか!?」
まぁ、行きますけども!
ボールに入ったモンスターじゃないですけど!
「待ったよ来栖さん」
「ごめーん、待たせちゃったね。それじゃ、いこっかユウ」
よし、これでナンパも帰るはず。
「お、彼氏君がいたのか。いいじゃん、彼氏君も一緒に来いよ。楽しいぜ」
「そーだな。彼氏も一緒にフィーバーしようぜ!」
って、俺までナンパされた!?
ま、まさか、そっちの気のある人達だったの!?
「え、遠慮します! 他の友達も待たせてるので! 行こう来栖さん」
「ちょっ、待てって! 楽しくやろうぜお二人さん」
来栖さんの手を取って逃げるけど、何とナンパ男達が追いかけて来た。
何でこんなにしつこいんだよ!?
「彼氏君にも高校生じゃ出来ない大人の遊びを教えてやるから待てってば」
あぁ、そういうことか。子供だと思って舐められてるのか!
きっと、別に俺がいてもすぐ排除出来るって思ってるんだ。
最悪、目の前で来栖さんに手で触れて――あぁ、もう、嫌な想像しちゃったじゃないか!
「いらないです。ライフセーバーの人に言いつけますよ?」
「ちっ、そーかい。残念」
あ、諦めてくれた。
危なかった。というか、ちょっと怖かった。
「うん、ちょっと見守っていたけど、無事やり過ごしたみたいだね。高瀬君」
「泰斗さんも見てるなら早く助けて下さいよ……」
「警察に突き出すのなら決定的証拠が欲しくてねぇ。指一つでも触れていたら、あいつらを豚箱の中にぶちこむつもりだったのさ」
そういって泰斗さんはスマホをクルクル回していた。
笑っているけど、目が笑っていない。
ガチでぶっ潰してやるって目をしてる。
「ただ、高瀬君はよくやったと思うよ。ライフセーバーに助けを求めるのも正しい判断だったと思うし。自分の立場と力を良く分かってると思うよ」
「そ、そうですかね? 何か逃げて言いつけるだけなんて、格好悪いですけど……」
「十分だ。出来ないことを背伸びしてやるのは良いけど、出来ることをちゃんとやるっていうのも格好良いさ。京の反応見ればそれは分かるし」
え? どういうこと?
急に来栖さんの反応って言われても、と思って来栖さんの顔を見ると、ちょっと照れくさそうに頬をかいていた。
うそっ!? 来栖さんが照れてる!?
「助けてくれてありがとう。やっぱりユウって見かけによらず頼りになるよね」
「微妙に褒められてるのか、けなされてるのか分からないんだけど……」
「褒めてる褒めてる。超褒めてるから」
そのニマニマ顔、褒めてる顔じゃないって。
最初の照れた顔は何だったのさ……。
「ほらほら、気を落とさないでユウ。パラソル張ったり色々あるでしょ? もっと頼りになるところ見せてほしいなー」
そう言って来栖さんが、泰斗さんの抱えていた荷物を俺に押しつけて来る。
ついでに俺にだけ見えるようにウインクしてきた。あぁ、なるほど、泰斗さんは車の運転で疲れているだろうし、確かに俺がやるべきか。
来栖さんにこうまで言われたし、がんばろう。
ということで、来栖さんに言われた通りにパラソルを張り、椅子を並べる。
思ったより大変だったな……。
「ユウ、お疲れさま」
「あはは、泰斗さんには車を出して貰ったし、これぐらいのことして当然だよ。って、あれ? 泰斗さんは?」
「一足先に海に突っ走ってったよ。泣くほど嬉しかったみたい」
来栖さんが顔を反らして、見え見えの嘘をついた。
「それ多分悲しんで自棄になってるだけだよ……彼女さんとの旅行楽しみにしてたんだね……」
「……気付いてあげない振りしてあげてね?」
まぁ、うん、それが多分連れてきて貰った礼儀だと思うし、余計なことは絶対に言わないようにしよう。
今は来栖さんと初めて来た海を目一杯満喫することだけを考えよう。
「それじゃあ、俺達も行こうよ」
「うん、って言いたい所だけど、その前にしないといけないことがあるでしょ?」
そう言って来栖さんが歩き出そうとする俺を捕まえる。
海に入る前にしないといけないことと言えば?
「あぁ、準備運動か」
プールと一緒で水に入る前は準備運動が必要だったな。
「そう、海に入る前には準備が必要なの」
「え?」
来栖さんは俺の答えに満足したように微笑むと、俺の胸を押して椅子に座らせてきた。
椅子に座ってする準備運動ってなに!?
「日焼け止め塗らないと? ユウ、色白なんだからちゃんと塗っとかないと後でヒリヒリするよ?」
「あ、そっか。なるほど」
「って、ことでパラソルとか立ててくれたご褒美に、私がユウに日焼け止め塗ってあげる」
「ありがとう。気を遣ってくれて。――なんて言わないからね!?」
「残念。もう逃げられないからね」
ぽすんと俺の上に来栖さんが馬乗りになる。
確かにこれじゃあ逃げられないけど、色々な意味でやばいって!?
水着越しでも来栖さんのお尻の柔らかさが伝わるし、張りのある足がもろに俺の腰に当たる。
しかも、見上げる形になる胸は南半球が少し見えていて、超えっちい。
こんな状態で触られたら、絶対やばい!?
「それっ」
「ひっ!?」
「あはは、変な声が出た。本当にユウって触られるのに弱いよね。それそれー」
お腹に来栖さんの指が触れて、白いクリームがハートの形へとのばされる。
触れられるだけでくすぐったいのに、そんなに手を動かされたら――。
「くっ、ふふっ、あはは、くすぐったい! あははは! 来栖さん止めてっ!? 自分で塗るから!」
「だーめ。我慢して? じゃないと、これ以上刺激的なことする時になったら、ユウ最後までもたないよ?」
これ以上刺激的なことって何!? 今のこれでも理性が吹っ飛びそうなんだけど!? 俺の貧弱な発想ではこれ以上なんて童貞卒業くらいしか思いつかないんだけど!?
「ユウだって気持ちよくなりたいでしょ?」
「な、何の話!?」
え、何その照れ顔!? 何で顔赤らめてるの!?
やっぱり、あれですか!? 触れ合って卒業と喪失的なことですか!?
その予行演習ですか!? なら、確かにくすぐったいなんて言ってる場合じゃないかも!
「分かった。我慢する……」
「うん、今夜いっぱい揉んであげるね?」
「こ、今夜!? あの、その、お、お手柔らかに……は、初めてだから」
「そっかー。私も上手く出来るか分からないけど、頑張るね?」
「う、うん」
「泰斗兄さんで練習しようと思ったんだけど、お前のは激しすぎるって怒られてからやらせて貰えないんだよね」
激しすぎる!? 一体ナニをどうしたっていうんだ!?
って、あれ? 泰斗さんに……?
「泰斗さんに何したの?」
「マッサージだよ? ユウはあんまり運動してなさそうだし、ちゃんとほぐさないと明日筋肉痛になりそうだなーって思って」
「あ、あはは、お気遣いありがとう」
「それでぇ? ユウはマッサージ以外何を想像したのかなぁ? ナニかなー?」
っ!? 出たよ来栖さんのニマニマ顔!?
絶対分かって言った! 絶対こうなるって分かって言ったよ!
意味深な事ばっかり言っていたけど、確かにマッサージは気持ち良いだろうね! ちくしょう!
来栖さんに盛大にからかわれたせいか、もう抗う気持ちも失せた俺は、されるがまま来栖さんに日焼けクリームを塗られた。
「あはは、もう拗ねないでよー」
「拗ねてない。自分が情けないだけだよ」
「へたれだって気にしてるの?」
「うぐ……そうだよ」
「あはは、ごめんごめん。それじゃ、はいこれ。へたれなユウだから安心して任せられるよ」
「ん? これ来栖さんの日焼け止めでしょ?」
突然、ポンと日焼け止めクリームを渡された。
俺はもう塗ったし、来栖さんが用意したものならもう既に塗っているはずだ。
何せ来栖さんは俺以上に肌が白いし、男の俺が見たって日焼けの心配をするぐらいだ。本人はもっと心配しているだろう。
「俺の鞄にしまっとけば良いの?」
「何言ってるのさ? 今度はユウが私に塗る番だよ?」
「そうか。俺の番――え?」
塗るの? 俺が? 来栖さんに?
「なるほど。塗る日焼け止めクリームを俺が来栖さんだね」
「いや、意味わかんないし!?」
「だから、塗る俺が来栖さんに日焼け止めクリーム」
「ぷっ、あはは。全くもうpure boyなんだから。どんなけ緊張してんのさー。それに背中だけだよ? 前はさすがに自分でやるって」
来栖さんはそういうと椅子に寝そべり、背中を指でちょんちょんと指さした。
え? 良いの? 触っちゃって良いの!?
だって、今来栖さんビキニなんだよ!? 思いっきり肌に触れちゃうけど良いの!?
「優しくしてね?」
「は、はい」
手に白いクリームをたっぷりのせて、来栖さんの背中に手を乗せる。
や、やばい、塗らないといけないのに、来栖さんの背中を揉みたい。
「ユウの手あったかーい」
手だけじゃなくて全身が熱いよ!? 夏の太陽のせいじゃなくて、来栖さんのせいで体温急上昇だよ! 手から伝わる来栖さんの体温で、俺の頭と胸あたりが火傷しそうなんだけど!?
だ、ダメだ。ここで理性に負けたら、他のお客さんにやばい目で来栖さんが見られてしまう。
俺のせいで来栖さんに恥をかかせる訳にはいかない。
もう、十分恥ずかしい思いはさせられているけども! 無心だ! 無心になるんだ!
うわぁ、スベスベ、女の子の肌ってこうなってるんだ……。って、全然無心になれないよ!?
「お、終わった……」
でも、何とか保った……。
あぁ、後少しでも時間がかかったらやばかった。マジで夏の獣になっていたかもしれない。
「ありがとう。それじゃあ、いこっか!」
「って、来栖さん当たってる当たってるから!」
腕に抱きつかれると、ビキニだからダイレクトに触れてる場所もある訳で!
来栖さんが走る度に、揺れる訳で! その感触が伝わってくるから!
「知ってる。当ててるんだもん。さぁ! 遊ぶよ!」
「来栖さんなんか今日おかしくない!?」
「夏で海だからね!」
あぁ、うん、だったら仕方無いね!
そんな眩しい笑顔を見せられたら、お手上げだ。
嬉し恥ずかしな思い出でいくらでもからかわれてやるさ!
「あぁ、もう! とことん付き合うよ! 海に飛び込むよ来栖さん!」
「うん!」
こうして、俺と来栖さんは海に二人して飛び込んだ。




