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水着

 その日の帰り道、テストで頑張ったご褒美にデートしてと言う来栖さんに付き合い、街中をぶらぶらと歩いて帰っていた。


「やっぱ、夏といえば海だと思うんだよ。ユウは海と山どっち行きたい?」


 正直どっちも苦手というか、本を読むとか、ゲームをしたいんだけど。


「どっちかって言うと海かなぁ」


 何となくで答えると、来栖さんは満足そうに何度も頷いた。


「だよねだよねー。それじゃあ、水着を選ばないとね」

「あぁ、そっか。水着が必要か。え?」


 ん? 水着? 来栖さんの水着姿?

 え? 水着着てくれるの? そりゃそうだよな。海だもんな。服のまま入らないのは当然!

 危ねえ!? 山って言わなくて本当に良かった!


「今家にある水着じゃきついだろうし」

「ふ、ふーん」


 何処がなんて聞かなくても分かる!

 そのはち切れんばかりの果実はまだまだ成長してるなんて、一体どこまで大きくなるんだ!?

 ど、どうしよう。何かすげぇドキドキしてきた。

 このままじゃからかわれるかも!?


「ってことで、ユウの水着買いに行こうよ? どうせ学校指定の水着しか持ってないでしょう?」

「分かった。って、俺のかよっ!?」

「ぷっ、あはは! だって、ずっと私の胸の所見てるんだもん。バレバレだよ?」

「あー、また今回もやられた……。でも、言われて見れば水着って持ってなかったな」


 ある意味ちょうど良かったのかも知れない。

 確かに学校指定の水着で来栖さんと並ぶのは、来栖さんに悪いだろうし。


「というか、委員長とも話したけど夏のイベントって色々な服がいるよねー」

「え? そうなの?」

「海には水着でしょ? お祭りには浴衣でしょ? 向日葵畑には麦わら帽子と白いワンピースでしょ?」

「最後のだけは何か違わない!?」

「あ、気付いた? でも、小さい時はそれで結構写真撮ったよ」


 最後のは置いておいて、確かにその時にしか着ない服が結構あるなぁ。

 やっぱり、俺も買った方が良いのかな。


「浴衣なんて買ったこと無いなぁ」

「なら、お祭りが近くなったら一緒に買いに行こうよ。格好良いの選んであげるから」

「うん、ありがとう」


 確かにこういうイベント系の服って自分で選ぶより、女の子に選んで貰った方が良いよなぁ。わざわざ買いに行こうなんて思ってもいなかったから、どんなのが似合うのか全然考えたこともないし。

 そんな訳で、駅前にあるショッピングモールの水着売り場にやってきた訳なんだけど、はて、何で俺の水着を選ぶのに、女物のコーナーのど真ん中に俺はいるんでしょうか?


 はて、いつのまに男の物の水着は胸元まで隠すようになったんだろう。

 これはビキニではなく、大胸筋矯正サポーターだろうか。それにしてはやけに柄にこだわりを感じる。

 そんな俺の戸惑いを気にも留めず、来栖さんは水着を選んでいる。


「あ、この水着かわいー」

「あ、あの、来栖さん……」

「何ー? あ、ユウ、この水着どう思う?」


 花の模様がついた白いビキニか。うわっ、来栖さんが着たところを想像すると鼻血でそう。


「……良いと思う」

「あはは、ユウには刺激が強そうだねー」

「んなこと言われても。って、そうじゃなくて、何で女物売り場にいるの!?」

「私も水着欲しくなったから?」

「それ、俺が一緒に見て回ってもいいの!?」

「良いに決まってるよ? 彼氏に見せたい水着を買うんだから、ユウが一緒にいるのは当然でしょ?」


 卑怯だ! そんなこと言われたら何も言えないって!

 そりゃ、見たいか見たくないか聞かれたら、見たいって思うしさ。


「よっと、それじゃあ、いくつか試着してみるから、ユウが良いって思ったのを教えてよ」

「……へ? あ、ちょっ」


 来栖さんに腕を組まれて試着室の前に連れて行かれると、ちょっと待っててねー。と言って彼女はカーテンで仕切られた試着室へと入った。


 ちょっと待って。マジで待って。

 試着室の前で立ってるってすげぇ恥ずかしいんだけど!?

 他のお客さんの視線がすげー気になる!? 何で!? 水着売り場が近いからか!?


「ねぇ、あの男の子、誰か待ってるのかな?」

「彼女の試着を待ってたりしてねー。緊張してるみたいでかわいい」

「青春だよねー。いいなぁ。私もあんな青春過ごしたかったなぁ」


 うわぁ、大学生のお姉さん達が俺のこと見て、何か言ってるし!?

 うぅ、早く出てきてくれ。

 そう願っていると、ついにシャーっと音がしてカーテンが開く。

 その中から――。


「じゃーん、どうかな?」


 赤い花の描かれた白いビキニ姿の来栖さんが出てきた。

 うわっ、肌白っ!? 胸元の谷間がすげえ!? というか、水着で持ち上げているせいか、いつもより大きく見える。

 胸から目を反らしても、くびれたすべすべのお腹とおへそ、そして、サイドをリボンで留めているボトムが飛び込んでくる! そこからさらに視線を下げれば、健康的な太ももが待っている!

 だ、ダメだ。どこを見て良いのか分からない!? か、顔か!? 顔なら大丈夫なのか!? あ、ダメだ。顔を見ても恥ずかしい。


「あれ? 微妙だった?」

「そ、そんなことない。よく似合ってると思うよ」

「にしては、何か変な焦り方してるけど。周りをキョロキョロ見てるし」

「その……やっぱり男一人で女性の水着売り場に立つのはちょっと恥ずかしくて……」


 さっきお姉さん達にからかわれたばかりだし。

 来栖さんの水着を見るために来たって思われてそうで、余計に恥ずかしく感じるんだよな。


「出来れば、他の売り場で待っていたいんだけど……」

「あぁ、なるほど。それじゃあ仕方無いかぁ。荷物を渡して貰って良い? 外に置きっぱなしじゃ危ないし」


 良かった。これで恥ずかしい思いをしなくて済むか。

 その間に俺も適当に水着を選んで、合流すれば良いよな。

 そう思いながら鞄を手渡そうとすると、鞄じゃなくて腕を掴まれた。


「え? わっ!?」


 声を上げた頃にはシャッとカーテンが閉められ、俺は来栖さんと一緒の試着室に連れ込まれていた。

 え!? 何で!? 何がどうなったの!? どういう意味なの!?


「く、来栖さん?」

「これで周りの目は恥ずかしくないよね?」

「~~っ!?」


 何でこの状況で来栖さんはそんなに楽しそうにニマニマできるの!? 恥ずかしくないの!? どんな鋼のメンタルしてるのさ!?

 こんなの外で待っているより恥ずかしいに決まってるだろ!?

 水着姿の来栖さんと試着室で二人きり、しかも、薄い布一枚しか身につけていない来栖さん――って、試着室!?


「あ、あのさ……もしかして、このまま着替えるの?」

「うん、恥ずかしいから向こう向いててね?」

「~~っ!?」


 声にならない声を必死にかみ殺す。

 何せ、今俺は女の子の入った試着室にいる男だ。

 いくら彼氏と彼女の関係で、彼女から引っ張り込んだとは言え、周りから見たら俺は変態扱いだろう。


 この状況で声を出して人に気付かれたら終わるっ!?

 や、やばい。この前の来栖さんの部屋の前より状況がやばい!?


 あの時はまだ扉越しだったし、せいぜい下着姿くらいだったろうけど、今回は布きれ一枚すらも俺と来栖さんを隔てていない。

 しかも、今回は水着に着替えている訳だし、間違い無く何も身につけていない来栖さんが後ろで着替えている訳で!

 来栖さんから零れる息づかいと、布の擦れる音、動く度に軋む床の音が俺に振り向けと全力で叫んでいる気がする。


「振り向いて良いよ?」

「う、うん」


 うわっ!? 今度はまたさっきより派手な水着になってる!?

 赤い――というか、布面積がさっきの水着より小さくなってるような? 

 うん、やっぱ少ないよ!? 何か紐の部分増えてるよ!?

 これマイクロビキニって奴だよな!?


「どうかな?」

「っ!? えと、あの……うぅ……」


 マジでどこを見てもヤバイ奴です……。超似合ってるけど、誰にも見せられない奴です!


「超えっちぃよねこの水着。買う人いるのかな?」

「……ど、どうなんだろうね」

「これを海で着てる人がいたらビックリしそうだよね。女の私でもガン見しそー」


 や、やばい。上手く息が出来ないくらい緊張してる。

 深呼吸したくても、来栖さんが近くにいるせいで、うまく出来る自信が無い。

 でも、あぁ、もう一つ言いたいことがあった。


「それを買って着るのは……止めて欲しいな……。みんなからジロジロ見られそうだし……」

「へぇ、ユウは私がみんなに見られるのが嫌なんだ?」


 来栖さんは俺の眼を見て、ニマニマと笑う。

 多分、からかっているんだろうけど、俺としては本気でそう思っているので、負けずに頷いた。


「……うん」


 だって、ちょっと想像しただけでげんなりするんだよ。

 多分、道行く人が全員振り向くと思う。ノリが軽い人はきっと声をかけてくるだろう。

 来栖さんは彼氏がもてると彼女としては嬉しいとか言っていたけど、彼女が男にもてるのは俺としては怖い。


「ま、私もさすがにこれを着るのは恥ずかしいし。買わないから安心してね?」

「そっか。良かったよ」

「うん、この水着を見せるのはユウにだけだからね? 他の人には絶対見せないんだから。この幸せ者っ」

「あ、あり、ありがとう?」


 彼氏に見せたい水着を買うんだから、と言っていたけど、これを着たのはどういう意味なの!?

 そ、そういう姿を見て欲しいとか、来栖さんのことでドキドキして欲しいとか、……そう思うのは俺の思い上がりかな!?

 でも、今はそんなことどうでも良いか。見せてくれるって言ってくれるなら、もうちょっとだけこの来栖さんを見ていたい。


「って、さすがに私も恥ずかしくなってきたし……。ごめん、後ろ向いてくれる?」

「ご、ご、ごめん」


 言われて慌てて俺も振り向く。

 うぅ、マイクロビキニを着た来栖さんの姿が頭から離れない。

 これ、水着選んで貰って試着とか絶対出来ない奴だ。

 もし、水着を着ている最中に思い出したら……前屈みで誤魔化せる自信がない。


「ユウ、お待たせ。会計しにいこ」

「あ、うん」


 着替え終わった来栖さんに押されて試着室から外に出る。

 あぁ、まさか水着買うだけでこんなことになるなんて思わなかったよ……。

 俺の水着買う時に、まさか試着室には入らないよなぁ……?


「よし、それじゃ、次はユウの水着だね」

「……お手柔らかにお願いします」


 若干怯えながら頼んだけど、それは杞憂だった。

 というか、男物の水着って試着する意味あんまりなかったよ!

 結局のところ、俺というより来栖さんの水着選びに来たって感じになった訳だけど、ここに来てようやく気付いたことがある。


 そのことを俺は来栖さんを家に送る途中で尋ねた。


「海ってどうやって行くの? 俺、こっちに引っ越してきてから海って行ったことが無くて分からないんだけど」

「あぁ、泰斗兄さんが車だしてくれるよ。だから、夏休みの最初の日に家に来てね。今日買った水着を持ってくること」


 うん、この流れなら聞ける。いや、流れなんて関係無く聞いてしまおう。


「あ、あのさ。水着と言えば……もし、あそこで俺が振り返ったらどうするつもりだったの?」


 あんな狭い空間で隠れる場所は無いし、突然振り返られたら隠すのだって難しい。

 でも、そんなのおかまいなしに着替えられるのなら、何かしてもおかしくないと思ったんだ。


「あそこ? あー、それはね。ちょっと鞄と荷物持ってて?」

「あ、うん」


 いきなり荷物を押しつけられて、両手が塞がる。

 一体、何を――んっ!?

 来栖さんが突然手を自分の服の中に突っ込んで、何かもぞもぞしだしたけど、一体何をしてるんだ!?


「あ、取れた。これ貼ってたから、別に見られても大丈夫だったよ?」


 来栖さんの指先にくっついていたのは、ハート型のシールみたいなものだった。


「ニップレスって言って、胸に貼る絆創膏みたいなものだよ」

「あ、ってことは振り向いても、それを貼ってるから大丈夫だったってことか」

「そうそう。乳首じゃなくてハートのシールが見えただけー。それはそれでえっちぃから恥ずかしいかもね」


 良かった……。

 男としてはとても残念極まり無い落ちだから、振り向かなくて良かった。

 振り向いたら、とんでもないからかいが待ってただろうなぁ。

 あはは、おっぱいが見られると思った? 残念! シールでした!

 なんてことになったら、一ヶ月くらい弄られそうだ。

 でも……それはそれで見て見たかったっていうのは言えないな……。


「だから、我慢してくれたユウにご褒美」

「ご褒美?」

「ぺたっと」

「え? っ!? ~~っ!?」


 頬にハートのシールを貼られた!? 変な声も出た!

 貼られたシールには不思議な温もりとほのかな湿り気が残っている。

 というか、これ来栖さんのおっぱいに貼ってたシール!?

 そ、それが頬に!? おっぱいが頬に!?


「ぷっ、あはは。すごーい、顔真っ赤」

「く、く、来栖さん!? だって、これ!?」

「あはは、ほら、コレ見てコレ」


 そう言って来栖さんは手をヒラヒラさせている。

 その中には、ハート型のシール、いわゆるニップレスがあった。


「予備もあるよ」

「な……なんだよもぉ……」


 めっちゃくちゃ焦ったよ。というか、また盛大にからかわれたし!

 予備を貼られたのか。服の中に入れていたから温められていたって訳だな。

 まぁ、それはそれで……ありだな。うん、十分に嬉し恥ずかしだ。

 気が抜けた俺に、来栖さんはくすくす笑いながら鞄を受け取り、ついでに俺の頬に貼ったシールを剥がす。


「何かすっげー疲れた……来栖さんがからかうせいだよ?」

「あはは、それじゃあ、お詫びに良いこと教えてあげるよ」

「良いこと?」

「誰も予備を貼ったとは言ってないからね?」

「……え?」


 あぁ、うん、確かに来栖さんは予備があるよ。としか言っていない。予備を貼ったとは一言も言っていない。

 ということは……え? 俺の頬に貼ったのはどっちだ!?


「ね? 良いことだったでしょ?」

「え……え!? どっちなの!?」

「あはは、なーいしょ」

「えええ!?」


 結局どっちか分からず終いだったけど、多分、きっと、それは――使用済みだったんだろう。回収されたのは……多分来栖さんでも恥ずかしかったから。

 だったら良いのになぁ。

 からかいなのか、本気なのか、どっちにせよ振り回されたことに変わりは無くて、そのことを笑って済ませられる自分にも、帰ってから笑った。


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