結果発表
テストが終わるまで連日来栖さんと勉強し、ついにやってきたテストの返却日。
「あれ? 点数あがってる」
何と俺の点数が上がっていた。今まで平均点からちょっと上くらいだったのに、普通に上位三割くらいに食い込めそうな点数だ。
来栖さんの勉強を見ていて、俺にとっても良い復習になったのかな?
って、俺のことよりも大事なことがある。
肝心の来栖さんはどうなった?
と思ったら来栖さんがこっちにフラフラ左右に揺れながらやってきた。
見るからに危なくて、今にも机にぶつかりそうだ。
「ユウ……どうしよう……」
何でそんな驚いた顔してるのさ!? まさか、赤点取りまくって追試と補習確定とか!?
「赤点一つも無かった……」
「マジか!」
良かった。勉強したかいがあったよ。
「というか数学が平均点あった! 初めてあった!」
「マジか!? すごいね!」
「ちょっと自分でも信じらんなくて……ちょっと夢じゃないか確かめてもらって良いかな?」
「あ、ほっぺたつねって欲しいとか?」
ベタだけど、来栖さんのほっぺただったら触りたい。
「うん、ほっぺにちゅーして?」
「分かった。って、しないよ!?」
教室の中でそんなこと出来るほどの度胸ないよ!?
確かにこの前はほっぺたにキスしたけど、あれはあの場の空気と勢いがあったからで!
「ぷ、あはは。うん、その慌てっぷり。夢じゃないみたい」
「そのからかいっぷり、確かに夢じゃないみたいだね……」
うん、間違いなく来栖さんだ。
でも、あの数式を見ただけで目眩がするって言っていた来栖さんが、平均点を取るなんてなぁ。
「ユウのおかげだよ。ありがと」
「ううん、来栖さんが頑張ったからだよ」
俺はその頑張る姿を見ていたのもあって、来栖さんが良い点数をとったことを自分のことのように喜べた。
「そ、そうかな?」
「うん、俺がちゃんと頑張る姿見てたよ」
「っ! えっと、その、ふふふーん、もっと褒めて褒めてー。私超がんばったし」
「はいはい。よく頑張りました」
来栖さんの頭を撫でると、小声で嬉しそうにキャーと言う。
何かこっちまで嬉しくなるな。
それに、これで夏休みは来栖さんと一緒にいられるし、すごく楽しみになってきた。
そう、この時までは思えていたんだ。
「あれ? 来栖さんってテストそんな点数取れるんだ。そんな見た目だし、勉強出来ないと思ってたよ。ってか、中間赤点ばっかりだったよね?」
クラスの女の子が来栖さんの答案を見て、そんなことを言う。その瞬間、来栖さんの身体がビクッと震えたのが、俺の手に伝わってきた。
「今回は俺と一緒に勉強したからね」
「うわー、リア充自慢うぜー」
俺の言葉に女子は苦笑いしながら捨て台詞を吐いて離れていく。
さっきの来栖さん、ちょっと様子がおかしかったな。
大丈夫かな……。
「高瀬君、来栖さんテストどうだった?」
「あ、委員長」
今度は飯野さんがやってきた。
顔つきをみる限り今回の成績もバッチリぽいな。
「……委員長成績良さそうだから見せたくない」
来栖さんが拗ねてる。まぁ、勝ち目は絶対にないもんなぁ。
今回の俺のベスト記録でも勝てないだろうし。
「大丈夫よ。私より成績良い人いないから、みんな公平に私より下だから、誰もバカにはしないわ」
あ、逆立ちしても勝てないわ。飯野さんは学年一位取ったんだ。
「委員長、ぱないね……」
「さすが飯野さん……」
来栖さんと一緒になって驚いたよ。順位はもちろんだけど、その猫被りのしなさ具合にだけど。
「飯野さんには全然敵わないけど、俺は自己ベスト出せたよ」
「へー、高瀬君も頑張ったんだ。この調子で点数あげられると良いね。分かんないところがあったら何でも聞いてね? バッチリ教えちゃうから」
「うん、その時は頼りにさせて貰うよ」
ん? 誰かが裾を引っ張っている気がする。って、来栖さんが引っ張ってるのか。
な、何か拗ねていらっしゃるような……?
「それで、来栖さんは赤点回避出来たの?」
「な、なんで赤点だったって知ってるのさ!?」
「中間テストの時自分で赤点だって叫んでたじゃない? それに私来栖さんの弱み握ろうとストーカーしてたし、知ってて当然でしょ」
「悪びれずに言うあたりやっぱ、ぱないね委員長……」
飯野さんが来栖さんに負けないくらいの悪戯っぽい笑みを浮かべている。
来栖さんもそれで観念したのか、軽くため息を吐くと。
「全教科赤点回避出来たよ。数学と英語以外はギリギリだけどね」
「へー、すごい。今回は頑張ったんだ。前回は追試が決まってから勉強し始めたもんね」
特に驚くこともなく、飯野さんは来栖さんの苦労を労った。
さすが元ストーカー、良く知ってるよ。
でも、それに対して来栖さんは満面の笑みで言葉を返す。
「うん、そりゃ、もー、テスト期間中は毎日ユウに私の部屋で手取足取り教えて貰ったから」
「へぇ? 詳しく聞かせて貰おうかしら?」
あ、飯野さんが笑顔ながらも、こめかみをピクピク動している。
「恋人同士が親のいない家で二人きりなんだから、することなんて決まってるっしょ?」
「神経衰弱でもしたのかしら? 主に高瀬君の理性を衰弱させてそうだけど」
うわっ、二人とも怖っ!?
というか何か男子の目が攻撃色になって俺を睨み付けてくるんだけど!? 怖いっ!
「勉強してただけだからね!?」
たまらず二人に割り込んで、何とか場を納めようとしてみる。
すると、二人の視線が一斉に俺に向けられて――。
「保険体育のだよね」
「保健体育のかしら」
全く同じ事を同時に言ってきた。
「君達やっぱり実は仲良いよね!?」
俺のツッコミに今度は来栖さんと飯野さんが一度目を合わせ、俺にまた視線を向ける。
「「別に」」
「嘘つけ!?」
「「あはは」」
やっぱり仲良いよな!
喧嘩するほど仲が良いのは十分に分かった。
頼むから、俺をからかう時だけ仲良くなるのは止めてよ!?
意外なコンビプレイに慌てる俺だったけど、からかい終わってスッキリした来栖さんと飯野さんはもう普通に世間話に移っていた。
アクセサリーの話とか水着の話とか普通の女の子がするような話で、ついていけそうにないや。けど、楽しそうな二人を見るだけで、案外楽しかったりするから良いか。
そして、チャイムが二人の話に割って入り、終わりを告げる時だった。
何気なく聞いていた来栖さんの言葉がどうにも心に引っかかって仕方無かった。
「そういえば、委員長は私のくせに勉強頑張ったんだって言わなかったね」
「あー、そう言えばさっきそんなこと言われてたわね。気にしてるの?」
「別に」
「ま、私の意見を言わせて貰えばだけど、見た目で勉強の成績が変わるのなら、私の勉強時間は何なのって話だからね」
「ははは、確かに。眼鏡かけたら賢く見えるけど、点数はあがらないもんね」
「そーいうこと」
ただの世間話でしかないはずなのに、妙に心に残った。
きっと、来栖さんの表情がいつもより硬かったせいだと思う。




