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ストーカーを見つけ出せ

 ストーカーがいると分かっていても、来栖さんは割と普通に過ごしている。

 スーパービッチギャル子さんと呼ばれているせいか、おかげか、誰と一緒にいようとも、大きな騒ぎやバカに蔑まれたりすることがなかった。


 いや、違うな。


 来栖さんが表向きには良く撮れてるじゃん。なんて笑って茶化しているから、大事になっていないだけだ。

 だって、スーパービッチギャル子さんマジビッチとか、こんなオジサンに売ってるなら高校生も相手にしてほしいよ、とか心ないコメントがついているんだぞ?

 来栖さんよく耐えてるよなぁ。


「どうしたもんかなぁ」


 たまらずそう呟いてしまった。

 犯人を見つけようと思っても、いつどこで狙われるか分からない――いや、時間帯は午後ばかりで、朝とか休日はないな。


「高瀬君悩み事?」


 ん? あ、飯野さんか。


「うん、ちょっとね」

「私でも力になれることなら力になるよ?」


 言っても良いのかな? 飯野さんなら良いアイデアくれそうだし。

 でも、ストーカー騒ぎに巻き込んで、危ない目にあわせる訳にはいかないか。


「大したことじゃないから大丈夫だよ」

「そう? それなら良いけど。それじゃ、私から一個聞いても良いかな?」

「うん?」

「高瀬君、ストーカーの犯人探さない?」

「何でそれを知ってるの!? 飯野さんエスパー!?」

「ふふ、初歩的な推理だよ。高瀬君の盗撮写真がアップされて、高瀬君がスマホで写真見ながらため息ついてたら、答えはそれくらいだよね?」

「な、なるほど」


 一応筋は通っている。

 でも、それで何でストーカーを見つけようになるんだろう?


「ありがたいけど、ストーカー探すなんて危ないこと飯野さんは巻き込めないよ。素直に警察に出すのが一番かなって」

「警察はダメだよ。だって、警察に届けるとしたら、来栖さんも捕まるよ?」

「何で来栖さんが捕まるの?」

「だって、来栖さん未成年だよ? 未成年とその……大人が……するのは犯罪だから」

「あ、ああ、そ、そうだね」


 飯野さんが真っ赤な顔で恥ずかしそうにもじもじしていて、その言葉の意味がわかった。

 そうだった。それは犯罪になるんだった。

 そう言えば、よくテレビで有名人がそれで逮捕されたって聞くしね。

 写っている相手は親戚だろうけど、変に誤解されてしまって警察沙汰になったら大変か。


「だから、私達でコッソリ見つけないと、来栖さんにも迷惑かけちゃうよ?」

「と言っても、どうやってストーカーを見つけるの?」

「ストーカーは来栖さんを追ってるんでょ? なら、私たちもデート中の来栖さんの後をつけて、ストーカーを探すの」

「でも、それって難しくない? 人混みの中からストーカーだけを見つけるなんて」


 背中にストーカーです。って紙でも貼ってれば別だけど、そんなことはないだろうし。


「ううん、犯人はこの学校の中にいるよ。だから、うちの学校の制服を着ている人を探すだけで良いかな?」

「何でそんなことが分かるの?」

「初歩的な推理だよ。高瀬君。ヒントは投稿時間と誰が見てるか、かな?」

「ん? あぁ! そうか。投稿時間は全部午後、撮った写真を見てコメントしている人達はうちの学校の人達、となると、ストーカーの犯人はうちの生徒に写真を見せたい人、わざわざ他校の生徒や大人がこんなことする訳ないからか」


 そして、放課後からストーカーをしているのなら制服を着ているはず。ああ、ある意味全身に私がストーカーの容疑者ですって紙を貼っているようなものだ!


「うん、その通り。後は辛いと思うけど高瀬君がそれとなく来栖さんからデートの予定を聞いてね。来栖さんが警戒しているのがストーカーにばれたら上手く行かないから」

「そういうものかな?」

「うん、来栖さんには今まで通り自然に振る舞ってもらった方がストーカーも動くよ。予定が分かったら私を誘ってね」

「うん、分かった。ありがとう飯野さん」


 よし、これでストーカーを特定できる!

 そうこの時は思っていた。

 


 飯野さんの提案した囮捜査をすることになった放課後、俺は飯野さんと一緒に栗栖さんの後をつけていた。

 駅前では栗栖さんと泰斗さんが待ち合わせをしていて、仲良さそうに街を歩いている。


「ほら、高瀬君、私達もカップルの振りしないと」

「それ本当に必要?」

「必要だよ。だって、そのまま後ろについて行ったらただの不審者二人組だよ?」

「わ、わかったよ」


 飯野さんに急かされて、俺は飯野さんと手を結んだ。

 いくら演技だと分かっていても、かわいい女の子と手を組むのは恥ずかしい。


「意外と高瀬君の手って大きいね」

「そうかな? あんまり気にしたこと無かったけど」

「うん、男の子らしくて良いと思うよ」


 かく言う飯野さんの手は女の子らしいしなやかさと、柔らかさがある。強く握れば折れてしまうんじゃないかと錯覚しちゃうほど、女の子の手って男とは違うんだな。


「それにしても、来栖さんにあんな彼氏がいても別れないなんて高瀬君もすごいね」

「情けない理由だけどね」

「どんな理由?」

「初めて出来た彼女だから、たとえ男除けでも捨てられたくないかなって」

「高瀬君がもし捨てられたら、私が拾ってあげよっか?」

「冗談だよね?」

「割と本気かも」

「あっ、二人が行っちゃう。行こう。飯野さん」


 危ない危ない。そこで真剣な目をされたら、どう返せば良いのか分からなくなる。

 無理矢理話題を切り上げて俺達も来栖さんの曲がった道に入る。

 すると、そこにはとある建物に入る2人がいた。


「あの建物って……」


 思わず俺も言葉に詰まった。


「そ、そういうホテルだよね?」


 さすがの飯野さんも動揺しているみたいだ。


「やっぱり来栖さんって……そういうことするんだね。高瀬君も……したの?」

「してないよ……」

「高瀬君……大丈夫? 今日は帰る?」

「……そうするよ」

「途中まで送ろうか?」


 俺はその申し出にこくんと頷いた。

 ホテルのあった通りから駅前まで送ってもらい、飯野さんから手を離した。


「ありがとう。ここまでで良いよ。ここからバスに乗って帰るから」

「本当に大丈夫?」

「うん、ありがとう飯野さん。また明日学校で」


 こうして、俺は飯野さんと別れ、家に帰った――振りをした。そう、話はこれで終わらない。


 俺と飯野さんが手をつないだ写真がクラスのラインに流出したからだ。

 しかも、コメントの口調からすると、噂好きの女子がアップしてやがった。その上、俺を浮気野郎だの、ゲスの極みだの、あることないこと書いているし、男達が俺を見つけて殺せコールをかけている。


 やべぇ、超怖いんですけど!?


 その殺意に気づいた俺は鞄の中に入れておいた私服に着替え、帽子と伊達眼鏡をつけて駅前に戻った。

 そして、来栖さんにもストーカーに気をつけてとメールを送る。

 ストーカー事件の犯人はまだ近くにいるはずだから、と理由も添えて。

 けれど、俺の心配も無駄に終わり、来栖さんと泰斗さんがホテルから出る写真がアップされた。二人が外に出た後すぐにだ。週刊誌もビックリな写し方だよ。

 その写真がアップされてすぐ、俺はホテルのある通りについた。

 けど、制服を着た人は一人もいない。

 さっき、俺と飯野さんの写真をあげた奴はもういなくなったらしい。

 でも――来栖さんの写真をあげた犯人はちゃんと残っていた。


「出来ればここにいてほしくなかったな――飯野さん」


 ホテルの近くに私服に着替えて変装した飯野さんがいた。


「高瀬……君? ……どうしてここに?」


 彼女のスマホの画面には写真をアップした画面が表示されていた。


「飯野さんの言葉を借りれば、初歩的な推理だよ」

 

 俺はそう言って、軽くため息をついた。

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