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ギャル子さんに告白される

「好きです。私と付き合ってよ」


 夏の昼下がりに騒々しいセミの鳴き声が響く。

 全開になった教室の窓からは運動部のかけ声も聞こえる。夏の大会に向けてみんな気合いを入れているらしい。

 いつもならうるさいと思う雑音だけど、今はセミの鳴き声でも運動部のかけ声でも何でも良いからバクバク鳴る心臓の音を消してくれる音が欲しかった。


「ねぇ、返事まだぁ? これでも恥ずいんですけどー」


 そう返事を言わないといけない。

 好きです。付き合って下さい。という至極シンプルな告白を俺こと高瀬祐作は目の前の女の子にされたんだ。

 んで、その女の子がまた意外な子だった。


 その子はインドア派の俺とは縁遠い、ギャル子さんと呼ばれる来栖京クルスケイ


 見た目はちょっとくすんだ金色のセミロングの髪、耳には銀色のイヤリングをつけている。服装はちょっと着崩していて、スカートはやけに短い子だ。

 そんなギャル子さんが図々しく俺の机の上に座り、短いスカートから見える太ももを組んだ挑発的なポーズで、俺の事をじぃっと見つめてくる。


 その魅惑的な足から目を反らして見上げれば、胸に立派なふくらみが待っていて、どこに目をやれば良いのか分からなくなる。


「……ごめん」

「ありゃま、まさか高瀬に振られるとは思わなかったな。やっぱりこんな女の子は嫌い?」

「い、いや、そうじゃなくて! 来栖さんは彼氏とかいるよね? それで告白されるとか信じられなくて」


 というか彼氏がいるどころの騒ぎじゃない。

 彼氏は3人、キープが10人、パパと呼べる相手が20人いて、一晩一緒にする度に十万は貰っていると言われるスーパービッチギャル子さんなんて噂があるくらいだ。

 しかも、相手が全て超イケメンでお金持ちなんて話しもある。

 そんなギャル子さんもとい、スーパービッチギャル子さんと呼ばれる来栖京が俺に告白するなんて、何かがおかしい。

 どこかでスマホを使って動画を撮っている奴がいるに違いない。

 きっと俺をからかっているんだ。騙されないぞ。


「ん? 彼氏? 早応大学のテニス部の人と、東都大学の人と、バンドのギタリストの人のこと?」

「……多分、それ」


 高校生じゃ太刀打ち出来ない完璧な布陣だ。

 嘘みたいな話だけれど、それっぽい人と並んで歩いている写真を何枚か撮られているから、嘘じゃないらしい。

 しかも、三人ともすっげーイケメンっていうね。

 そのせいか、何人もの男がギャル子さんに告白をしたけど、バッサリお断りされた。

 ビッチギャルなら俺でも付き合えるだろう。っていう甘い考えを次々に切り捨て、粉砕したらしい。

 例えば、学年一のイケメンには、顔だけの子供に興味ないし。と切り捨てた。

 例えば、サッカー部のエースには、プロになってから出直してよ? 学校でエースでも外から見たら大したこと無いんだし。とプライドをズタボロに破壊した。

 例えば、お金を積んだ男には、童貞臭くて無理。きもー☆ だそうだ。


 うん、最後の人は泣いて良い。いや、土下座してヤらせてくれって告白が間違っていると言えばそれまでだけど……。

 そういう訳で、付き合うのがメチャクチャ難しいっていう意味でも、スーパービッチギャル子さんと呼ばれているらしい。


 だから、俺が告白されることなんて絶対にありえないと思っていた。


「そんな彼氏がいたら、俺を好きになる訳ないよなーって……」

「あぁ、私の気持ちが本気じゃないって思ったってことか。だったら、これでどう?」

「へっ!? うわっ!?」


 俺の頬を両手で掴んだギャル子さんは、そのままゆっくり顔を近づけてくる。

 うわっ、顔近い! 何かめっちゃ良い匂いする!

 俺、キスしちゃうのか!? ファ、ファーストキスをここで捧げちゃうのか!?


「あはは、こんなんで目を瞑っちゃうとか、高瀬は童貞どころか、キスも童貞だよね?」

「へ!?」


 耳元でギャル子さんの笑い声が聞こえる。

 あれ? さっきキスするぐらいの距離だったのに、耳の方にいったのか?


「ち・な・み・に、私も処女だよ?」

「ええ!?」


 思わず目を瞑っていたせいで、ギャル子さんが俺から離れていたことに気がつかなかった。

 そして、気付いた頃には、ギャル子さんは俺の顔を見てニマニマと意地悪な笑みを浮かべていた。


「あはは、驚き過ぎ。ピュアピュアボーイだねぇ」

「――っ!?」


 声にならない声が出た。

 あ、やばい。超恥ずかしい。

 息が止まりそうなくらい恥ずかしい。何なの? 俺を羞恥で殺したいの? ドッキリならもうオーバーキルも良い所だよ。さっさとドッキリ大成功の看板もって出てこいよ。


「悪いかよ……童貞で悪いかよ……。童貞すら守れないやつに何が守れるんだよ……」


 泣きたい……。


「あはは、悪くなんてないし。むしろ、聞けてよかったし」

「そりゃあ、バカにしてる方は楽しいだろうな……」

「バカになんてしてないし。これで高瀬と付き合えたら高瀬の初めては全部私の物になるんでしょ? それって嬉しくない? 高瀬の色々な童貞を私が一人占めできるんでしょ?」


 くそう、童貞童貞言わないでくれるかなぁ!? 何かぐさぐさくるんだけど!?

 でも、あれ? これ冗談じゃなくて本気で言ってるのか?

 ドッキリだったらさっきので終わっているはずだよな?

 え? 本当に俺告白されたのか?


「俺と本当に付き合いたいの?」

「さっきからそう言ってるじゃん。好きです。私と付き合ってって」


 あ、マジだった。

 あれ? えっと、こういう時なんて返せば良いんだ?

 俺に惚れたら火傷するぜ? いや、これは違う。俺のキャラじゃない。

 童貞卒業させてください。いやいやいや! これはもっと違う!

 もっとこう気の利いた台詞を――。


「よろしくお願いします?」


 全然気が利いた台詞が出なかった。うぅ、へたれだの童貞臭いだの笑われないかな……。


「はい、こちらこそよろしく。彼氏君」


 そう言って腕に飛びついてきたギャル子さんもとい、来栖京と付き合うことになりました。

 あ、俺も好きです。って言えなかった。


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