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第三小隊、北へ

お久しぶりです……(汗。週一更新なんていってた時期も私にはありましたね……。ひとまずぼちぼちやっていこうと思います。


「点呼完了しました」


「了解です。これより、移動を開始します。グルゥ・スーを発見した際はすぐに知らせたうえ、決して刺激せぬよう注意してください」


 トナ達第三魔導戦車小隊は午後7時過ぎ、乗っていた戦車を放棄して移動を開始した。このあたりは延々森が続く地域だ。下手をすれば迷いかねないため、全員に緊張が走る。


 グルゥ・スー占領下での夜間行軍は訓練したこともある。しかしまさか実際に行うことになろうとは夢にも思わなかったのだ。


 車内に装備されている強力な懐中電灯で先を照らすが、それでも夜の闇を払いのけるほどの明るさはない。


「……ワレンシュタイン小隊長、七時の方向にグルゥ・スーⅠ型を発見。数2」


「了解、迂回します」


 時折はいる部下からの報告以外、特に会話が交わされることもなかった。


 小一時間ほど歩き、一行は小高い丘の上にたどり着く。


「ここは、教会か?」


 先行していたエリスが目の前にある建物を見上げた。


「聖グランジスト教会。ダブラー村の外れにある教会だね。進路は大丈夫みたい」


 トナは地図と教会を見比べる。教会は目指すべき進路上に位置していた。


「ちょっと休憩しようか」


 協会はグルゥ・スーの襲撃を受けなかったようで、どこかが破壊されたような跡はない。ドアは施錠されていたが、エリスとリリィは手にしていた小銃を器用に使ってこじ開けた。


「戦時緊急避難処置ってことで、ね?」


「ああ、ついでに何か補給していこう。避難処置だ、避難処置」


 二人は悪びれもせずにそうのたまう。


「……全部終わったらお礼言いに行こうね?」


 トナもそれ以上咎めなかった。


 何が休眠中のグルゥ・スーを刺激するのか、今でもよくわかっていない。確実なのは奴らに対する攻撃だが、音や光に反応するという見解もあり、決定的な定説がないのが現状だ。


 そのため教会のカーテンをすべて締め切ったうえで、玄関に見張りを立たせ、何とか休息をとれる体制を取った。


「いろいろ見つかったぞ。クラッカーにジャム、缶詰に紅茶にワイン」


 奥でいろいろと物色していたエリス達が食材や道具類を抱えて戻ってきた。


「ここで一杯晩酌といかないかい、ドメネク曹長?」


「あほかリリィ! こんなとこで酔っぱらうわけにはいかないでしょ!」


「最後の晩餐と行きたかったんだけどね」


「縁起でもないこと言わないで!」


 軽口をたたくリリィの頭をアリアナが叩く。


「んでも、毛布や給湯器があるんはありがてぇなぁ」


 ロロットは毛布にくるまって白い息を吐いた。


 暖かい地方とはいえ、冬の夜はそれなりに冷える。この寒さも、隊員たちの体力をじわじわと削っていた。


 そこへ来ての暖かい飲み物と食事だ。これ以上英気を養えるものは、ここにはないだろう。


 みな床に座り込み、小声ではあるがお喋りをしたり、仮眠を取ったりする。そんな中、トナは一人、分から外れて地図を睨んでいた。


「トナ、お茶だよ」


 アリアナが湯気の出る金属製カップをトナの前に差し出した。中身はアツアツの紅茶だ。しかしトナは首を横に振る。


「ありがとう、アリアナ。私は最後でいいよ」


「何言ってんの。小隊長様が倒れられたかこっちが迷惑なんだから」


 トナは押し付けられたカップを仕方なく受け取った。アリアナはそのままトナの隣に座り込む。


「……ありがとうね、トナ」


「何が?」


「こんなことになっても、私たちを率いてくれて」


「……それが私の仕事だもん」


 トナの階級は少尉。第三小隊では元々副小隊長を務めていた。小隊長車が全滅した以上、トナがその指揮をとるのは当たり前のことだ。


 しかし文字で書かれた規則を実行するのが難しい時だってある。今回、トナ達は一度にあまりにも多くの仲間を失った。


 小隊長車の乗員とて見知らぬ中ではない。同じ釜の飯を食った戦友だった。


「アリアナ。ロロットとか、若い子たちを見てきてあげて。今まで忙しかったし、興奮状態にあったから本人も気づいていないだろうけど、結構ストレス抱えてるはずだから」


「りょーかい。あなたは?」


「こんなことで参るほどやわじゃないよ」


「どうだか」


 トナとアリアナはくすりと笑った。


 少しの休憩の後、トナは小隊のメンバーを集めた。


 円を描いて座ったメンバーの中心に地図を広げる。


「今いる村から西に行く街道がある。それにそっていくと、ここで南北に行く街道にぶつかるんだ」


 そういいながら、トナはペンで道をなぞった。穀倉地帯のど真ん中にある小さな町で、二つの街道が合流している。


「山越えはしない。時間的にも道をたどる余裕はあるし、体力的にも厳しいだろうから」


「ねえ、トナ」


 アリアナが地図をにらむ。


「そのルートだと、ネストまでかなり近づいちゃうわよ。ちょうど交差点のところで」


「五キロってとこか……」


 エリスも顔をしかめた。街道の合流地点は、ネストとそれぐらいの距離しか離れていないのだ。


「……これは賭けだけど」


 そう前置きをして、トナは口を開く。


「グルゥ・スーは、占領域を広げるために、前へ前へ出ていく性質がある。だから、個体数が最も多いのは最前線で、後方、それも最奥に当たるネスト近辺にはそんなに集まっていないんじゃないかな、って」


「なるほど……」


 ここでずっと黙っていたロロットもうなずいた。


「山越えができない以上、この道を行くしかないんじゃ……」


「お前にしちゃ珍しく積極的だな」


「そりゃあ、早ぐここから出たいですし……」


 エリスに指摘され、おどおどと下を向くロロット。その様子を苦笑いしながら見つめていたトナは、改めて全員の顔を見回した。


「これでいい?」


「了解です、小隊長」


「やってやりましょう!」


「わかりました!」


 みな思い思いの返事で賛同を示した。そして準備を整え、一行は教会を後にした。


 先ほどまで出ていた月は雲の合間に隠れるようになっていた。


「いやな天気だな……」


「出撃前に聞いた天気予報じゃずっと晴だったんだけどね。……気象班の予報は当たらないから」


 トナはため息をつく。


 街道に出てからは懐中電灯の明かりはこまめに消すようにした。電池の消費を抑えるためだ。


 すでに森を抜ける際に明かりをつけっぱなしにし続けたため、明かりは最初より弱くなっている。


「もっといいやつにしてほしいわね、一晩使えなくて何が非常用ライトよ」


 ぶつぶつと文句を言うのはアリアナだ。それを聞いたリリィはまあまあと語り掛ける。


「私とクロンホルン伍長は夜目が利く方だから道案内は任せてほしいな?」


「せ、責任重大だべ。頑張りまず!」


 二人を先頭にして道を進む。日付が変わって少しした頃に、ようやく街道の合流地点にたどり着いた。ちょうど雲が晴れ、突き当たりが周囲を照らし出す。そして、周りの風景がはっきりと見えた。


「ここから北に向かえばいいんだけど……」


「こりゃ、ひどいな」


 エリスは思わずうなった。


 地図上ではちょっとした集落があったはずだが、無事に立っているのは一つもない。ほとんどが、土地の基礎がかろうじて残っている程度にまで破壊されていた。


「ひとまず、ここでいったん休憩にしよう。30分後に再出発で」


 トナの声で、一行は荷物を下ろしてその場に腰を下ろした。


「見事に何にも、ん?」


 更地にされてしまった街を見回していたロロットが、あるものに気付いた。


「リリィさん、あれっでぇ」


「ネスト破壊部隊の残骸、だね」


 町はずれの荒れ地には、破壊された戦車や装甲車がそのまま放置されていた。よく嗅げば、今だ石油が燃えた後の焦げ臭さが残っている。


 規模を見るに、破壊部隊の三分の一程度だろう。それでも十分に壊滅と言っていい被害だ。


「なんでまたこんなことに……」


 アリアナは絶句していた。部隊は各師団の保有する機甲部隊でも特に精鋭といわれる者たちで編成される。ここまでの大損害を被った事例は、戦後聞いたことがなかった。


「焦ったんだろうねぇ」


 トナはぼそりとつぶやく。アリアナはその言葉を聞き逃さなかった。


「焦ったってどういうことよ」


「最初に予想外の被害がでた。それが師団司令部の判断による作戦ミスだったから、司令部はその取り返しに躍起になった。その証拠にほら、ここに放棄された車両の中には、自走対空砲がないでしょ?」


「……ああ、本当ね」


「Ⅲ型が出たって言う情報があったにもかかわらず、十分な自走対空砲の数をそろえないまま出撃させちゃったんだろうね」


「じゃあなに? この人たちはわたしらが必死に届けた情報を生かされないまま、お偉いさん方の保身のために死んじゃったってことなの?」


「平たく言えば」


 トナの言葉には、一切の感情がこもっていなかった。反対にアリアナの声には怒りが混じる。


 連邦軍が正式配備している自走対空砲は、今だ数が少なく装備していない部隊も多い。トナ達が所属している第19師団も、対空砲は数門が先行配備されているのみであり、それらはすべて司令部付近の護衛に当たっていた。


「それにしても、慌てて逃げかえったんだろうね。ほら、100トン爆弾も置きっぱなしだし」

 

 トナは拭き車両たちのちょうど中心に鎮座していた巨大な爆弾を指さした。


「マジ? あんなところに」


 アリアナも驚きの声を上げる。


 100トン爆弾はネストのルーツコア破壊のために軍が開発した超大型爆弾である。内部には軍用高性能爆薬が目一杯詰められており、その巨大さから専用の輸送用台車と牽引車があるほどだ。


 実際に100トンあるわけではなく、実際はその半分ほどだが国民向けのアピールのために100トンとされている。そしてその威力は地上最強との呼び声が高い。


 第19師団にも1つだけ配備されていたため、あれはその虎の子の一つだ。


「なんでぇ、あんな高価なもん置いたままにしとんですかねぇ?」


 ロロットが首を傾げる。


「台車と牽引車がやられてる。身動きできなくなって、仕方なく放棄したんだろう。あんなでかいもの人力でどうにかできるもんじゃないしな」


 エリスはため息交じりに答えた。あの爆弾は、準備不足のまま作戦を開始した結果、状況がどんどん悪化していった象徴のようなものだ。

 

「さて、上官方の顔ぶれはどれだけ変わるのかな? 少し楽しみだね」


「趣味悪いわよ、リリィ」


 アリアナは軽口をたたくリリィを咎める。そして、


「……どうかしたの? トナ」


 トナの異変に気付いた。


「うん……」


 トナは上の空で返事をしながら、まっすぐ爆弾に視線を注いでいる。そしてぼそりと言う。


「次に破壊作戦が決行されるのって、いつぐらいかな?」


「さあ、他部隊の到着を待って、新しい爆弾を持ってきて……二日三日かかるんじゃ」


 アリアナはここで言葉を切った。そして目を見開いてトナに迫る。


「あんたまさか!」


「……あれ、私たちでどうにかできないかな?」


 トナの目は、爆弾のさらに奥。闇夜にそびえるネストを見つめていた。

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