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出勤
朝、出勤の仕度を終えた男は家を出て、最寄りの駅まで十分ほどの距離を歩き、駅に到着した。電車が来るまでの間、男は頭の中で、その日の仕事について考える。
九月、暑さはまだ続き、遠くでは蝉の鳴いている声が聞こえる。
やがて、やって来た電車に乗り、車内の適当に空いている席を見つけて座る。
それにしても、電車の振動やレールを走る音には、どうも眠りに誘う不思議な力があるらしく、うつらうつらと睡魔が襲ってくるが、寝過ごさないよう、ぼんやり中吊り広告や流れる車窓の景色を眺めては眠気を追い払う事に努めた。
いくつかの駅を通過し、二回電車を乗り継ぎ、一時間半かけて目的の駅で下車する。
駅を出てしばらく歩くと、前方に立派な門が見え、守衛に挨拶をした。
「どうもご苦労様です。行ってきます」
ようやく自宅の敷地を出た男は、会社まで二時間の道のりを出勤していった。