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なんだろう、この「推理物のゲームで適当に犯人を指摘したら大当たり!勝手に自供し始めました」的なモヤモヤ感は。
「私は嘘つきだからね」
自嘲気味にバロストは笑う。
うーん……ある意味、めっちゃ正直者だよな……。
「それで、何が嘘だったと言うんじゃ?」
自ら嘘をついていたと告白するバロストに、ラービが鋭い視線を向けながら問いかけた。
一見、無防備な自然体に見えて、その実はいつでも飛びかかれる体勢な所にラービの警戒心の高さが伺える。
「……先程は私の責任云々と言っていたがね、実を言えばそんな物は大して感じちゃいない所かな」
いや、そこは感じろよ!仮にも寄生虫の製作者だろ!
「そんな事よりも、私は純粋に知りたい!私の創った物がどれだけの性能を見せ、どれだけの進化を示すのかをね!だから、国の方針は置いておいて君達とヤーズイル殿が戦う所をこの目で見たいんだ!」
キラキラと瞳を輝かせて熱く語るバロストの言葉は、さっきの胡散臭いオーバーアクションよりも遥かに本音を言っているように見える。
「素晴らしいです先生。その傲慢さと探求心は我ら魔術師の鑑です」
バロストを称えるコルノヴァの拍手にも先程より力が入っていた。マジか、こいつら……。
確かに英雄の中には、自分の欲望を最優先させる連中がいるというのは聞いていた。
だが、国を滅ぼしかねない物を流出させた挙げ句に尻拭いどころか見物したいって……。
君らさ、忠誠心って言葉を知っているかと問い詰めたい気持ちになってくる。
「馬鹿な……こいつら正気か……」
ティーウォンドが信じられない物を見るような目でバロスト達を見ながら呟く。
こいつだって女絡みになるとろくでもない。
しかし、まだ国の為、英雄という立場を理解し勤めようとしている分、まだマシと言えるだろう。
だが、バロストにしろヤーズイルにしろ、『六杖』の連中は完全に我欲優先で国の事など歯牙にもかけていない様子。
以前に戦った『七槍』の連中も大概だったが、こいつらと同じ英雄というカテゴライズで括られたらブチ切れそうだな……。
「さて、私の本当の目的は話した。これで私達も同行させてもらっていいかな?」
正直、冗談じゃない!……とは思う。だが、こいつがあの寄生虫を創った以上は、その弱点等も知っているんじゃなかろうか?
大量に増えている厄介なあの寄生虫の弱点が解れば、掃討作戦もはかどるだろう。
とはいえ、やっぱりこんな危険人物を近くに置いておきたくはないし……。
「断る!魔人を引き連れているような輩と同行できる訳がないだろう!」
バロストの申し出をあっさり断るティーウォンド。
うん、まぁそうなるよな。
「不本意ながら、私もティーウォンドと同意見です。魔人の事は抜きにしても、『六杖』の一人と戦いに向かうのに他の『六杖』を同行させるなど危険過ぎます」
珍しくレイまで頑なに反対する。ひょっとしたら他の神器に対するライバル心からかも知れないが。
だが、バロストはチラリと俺達に目を向けた。
「カズナリ君……君達が元の世界に帰る手段は見つかったのかな?」
うっ!痛い所をっ!
チラリとハルメルトの方を見るが、申し訳なさそうに首を横に振る。
「その様子じゃあ見つかっていないようだねぇ……私の方は帰還魔法の開発に着手して六割方は構築が出来ているよ」
そんなに!
これには召喚士として育ってきたハルメルトも驚いたようだ。
本職の召喚士じゃないのにそこまで魔法の開発ができるとは、さすがは魔法国家ブラガロートの英雄と言ったところか……。
「あー、後は召喚魔法が使える人物のアドバイスがあればすぐ出来るかもしれないのになー。あー、でも一緒に行くのは嫌なんだよなー」
おい、おっさん!いい歳した大人の態度じゃないだろ、それ!
奴の助手を除いた、この場の全員がバロストに呆れたような、「ダメだこのおっさん……」というような目を向ける。
しかし、当のバロストと褐色美女のコルノヴァはどこ吹く風と言う体で、チラチラこちらを見てきた。
ハァ……仕方がない。
「いいよ、一緒に連れていこう」
俺の一声にティーウォンドとレイが抗議しようとするが、二人を手で制して俺は言葉を続けた。
「ただし条件がある。お前の持っている『星の杖』の能力と効果範囲を教えてもらおう」
神器の能力解説と引き換えの条件を突き付けた俺に納得したのか、レイは静かに耳を傾ける。ティーウォンドはやや不満そうだったが。
「え、なんだ?今日は私の『星の杖』について語ってもいいのか?」
なにその反応。
予想した反応と違い、めっちゃ語りたそうなバロストに少し面食らってしまう。
あれか、コレクターがレアアイテムを自慢したがる心理なのか?
いや、待て……こいつは嘘つきだった。ここで適当な事を言って煙に巻こうとしているのかもしれない。
「ならばその真偽、ワレが判別しよう」
満を持して登場といった風に、ラービが自信満々で一歩前に踏み出した。
「ワレには他人の嘘を見抜く能力がある。嘘をついた瞬間にヌシに一撃を入れさせてもらうから心して話すがいい」
思わず「え?」といった表情が出そうになる前にラービの手が肩に触れ、頭の中に声が響く。
『顔に出すな、ハッタリがばれる』
ハッタリかよ!
もう、いい度胸してるなお前は!
『なぁに、奴とてワレがどんな能力を持っているかなど知らぬだろう。さらにプレッシャーを与えておけば下手な事を言おうとした瞬間に違和感が出るはずじゃ』
おお!やるなラービ!
まるで、数発のミサイルの中に一発の核弾頭を潜ませる某連邦軍独立部隊の艦隊司令並の機転の効かせ方だ!
ふふふ……さあて、どう出るバロスト?
「この『星の杖』はだね、文字通りこの星の……」
……まぁ、ペラペラと話す話す。なんとも嬉しそうに語るバロストの態度は、明らかにコレクションを自慢するマニアのそれだ。
そうして三十分ほど休みなく語り続けたバロストの説明から解った『星の杖』の能力は二つ。
一つは星の記憶なる物に干渉して、今自分がいる場所で過去に起こった出来事を知る事ができる。
そしてもう一つはこの星のあらゆる生命体に干渉して思考をコントロールできるという物。
ううん、思った以上にやばそうな能力だ。特に二番目のやつ。
だが、よくよく話を聞いていけばどちらの能力も莫大な魔力を必要とするらしく、あまり大それた事は出来ないらしい。
だが、魔人を引き連れていたのもその能力らしいから、使い方によっては脅威となるのは間違いないな。
「でもねぇ、コントロールと言っても本能を刺激する対象物が近くにいたりするとそちらに引き寄せられちゃうから、完璧には程遠いよね」
やれやれと持っている杖を眺めながら不満そうに呟く。
先程の自慢気な語り口といい、今の不満そうな態度といい、どうやら嘘はついていない様に見える。
ラービの方もそう判断したらしく、緊張を解いてみせた。
「解った……同行を許可しよう」
渋々とではあるが、ティーウォンドもバロスト達の同行に同意した。おそらく、このメンバーならばバロストが魔人をけしかけて来ても対処出来ると判断したためだろう。
うん、確かに俺達ならば魔人の百や二百なら蹴散らせるしな。
「いやぁ、ありがとう。ただ……ひとつやっておく事があるな」
そう言うと、バロストはまるで銃を形どる様に人差し指を立てて、その指先をティーウォンドに向ける。
「電閃」
にこやかな笑みのまま力ある言葉が紡がれ、指先から発現した雷の矢がティーウォンドに向かって解き放たれた!