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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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翌日の出発は、結局昼に近い時間になってしまった。

なんて事はない、俺が寝坊した為である。

……本当に申し訳ない。

何でも、ラービ達が起こしに来たらしいのだが、揺すっても叩いても誘惑してもガンとして起きなかったそうだ。

まるで一服盛られたかのようだった……との事だが、俺に一服盛ってイタズラするような輩はいないだろう。いないと思う……。


とにかく、めちゃめちゃ謝って事を収め、気を取り直してブラガロートに向かって出発する。

道筋は神獣の死骸が通った跡。

真っ直ぐ延びているその跡を辿っていけば、目指す『蟲の杖』の居場所にたどり着けるハズだ。

しかし、本当に隠蔽する気もないんだな……。


「それじゃあ、行くとするか」

ティーウォンドが用意してあった馬に跨がり、声をかけてくる。

初めて乗った馬車を牽いていたやつや、王家のデルガムイ号のような六本足の馬型の魔獣ではなく、普通の四本足の馬だ。馬……だよな。

大まかには元の世界の馬に似てはいるんだが、小ぶりの角とか尻尾に棘があったりとか、俺の知ってる馬より攻撃性に溢れているけど。


しかし、今さら馬に乗っていくのかと思わないでもない。

いやね、そりゃ自分らで走った方がたぶん速いよ。それにイスコットさんは心配だし、急ぐと言えば急ぐんだけど……まさかラービinハルメルトな状態をティーウォンドの前でやるわけにはいかない。

奴がラービを狙ってるとかはさておき、「スライムの魔物だったんかい、ワレ」なんて思われて敵ごと攻撃対象にでもされたら堪らないからな。


そんな訳で、俺とレイ、ラービとハルメルトが二人ずつで馬に乗り、俺達は『轟氷都市』を後にした。


さて、ブラガロートに侵入するにしても、馬鹿正直に相手側の関所を通るわけにもいかない。

当たり前だが、国の上層部が黙認しても現場が仕事を放棄する訳ではないからな。

よって俺達は一旦、道筋から外れてブラガロートとディドゥスの国境代わりになっているアシカテナガ山脈の方へと向かうとの事だった。

まぁ、道案内ができるのはティーウォンドだけなのでそれに従うしかあるまい。


「アシカテナガ山脈に向かうと言っても、正確にはその手前まです。今日は手前の樹海の入り口でキャンプして、明日の夕方にはブラガロートに入れるでしょう」

にこやかにラービに語りかけるティーウォンドに、ラービと同乗しているハルメルトが問いかける。

「アシカテナガ山脈の付近には、魔人が巣くっていると聞いたことかあるんですけど、大丈夫でしょうか……」

よく知っているなと感心しながら、ティーウォンドは自信ありげに腰に下げた剣の鞘をポンポンと叩いて見せた。

「魔人は基本的に夜行性だから大丈夫だろう。それに魔人の群れが襲って来ようとも、私の神器『轟氷剣』の贄にしてやるから大船に乗ったつもりでいたまえ」

その言葉に、同じ神器であるレイが顔をしかめる。


「私を差し置いて神器自慢など……思い上がっていますね……」

ライバル心を剥き出しにしてポツリとレイが呟く。

俺はそんな彼女の頭を撫でながら、「そうだな、お前の方が凄いと思うぞ」と声をかける。

その一言でパッと顔を綻ばせたレイは上機嫌でうんうんと頷いていた。

「はい!では、御主人様には早々に槍術を身に付けていただいて……」

うん、それはいずれね。今は徒手空拳で十分だから。

そう告げた後、不満そうに見つめるレイから俺は目をそらす事しかできなかった……。


それからしばらくは特に何もなく順調に進み、くだんのアシカテナガ山脈の麓に広がる、樹海の入り口に無事たどり着いた。

しかしまぁ、ここに来るまでの間、ティーウォンドの野郎が矢鱈と気を配ってきた。

主にラービを中心に、疑問質問、受け答えを完璧にこなし、俺達へのフォローも忘れない一流のホストも真っ青な、まさに気配りの鬼である。

いや、大方ラービを物にするための工作じみたやり取りなんだろうけどね。

国の誇りであり守護神でもある五剣の英雄に、こうも色々と世話を焼かれたり気にかけてもらえれば、そりゃこの世界の女性ならコロリといっちゃうだろうし、男の方も身を引いてしまうだろう。


そんなティーウォンドに対して、元の世界でラブコメ漫画もよく読んでいた俺が取った行動と言えば……ぶっちゃけ、何もしていない。

精々、ラービの作ってくれた携帯昼食なんかに対する感想や誉め言葉が増えたくらいである。

考えてみれば、一流ホストとクソ童貞では女性の扱いにおいて勝てる要素などあるはずがない。そこで競っても墓穴を掘るだけなのは明白なので、好感度を上げる事よりも下げない事を目的とした対応を取ったというわけだ。

某地上最強の生物が言っていた「競うな!持ち味を生かせ!」というやつである。


そんな高度な(?)心理戦を繰り広げながら俺達は進み、陽が傾きかけた頃に今日の目標としていたアシカテナガ山脈の麓、樹海の入り口に到着した。


「さて、陽が落ちる前に準備をしてしまおう」

俺達は全員で夜になる前に火をおこすべく薪代わりの枝を拾いに樹海に入る。

効率の悪さは承知の上だが、魔人の棲息する樹海なんで可能性は低くても少数で動くべきではないという判断からだ。

ついでに食材になるものを探していたその時、それは姿を現した!

暗くなった森の闇から光る眼光が俺達を見据える。

獣じみた唸り声を立てて木陰から出てきたのは十体程の魔人の群れだった!

「こんな時間帯だというのに魔人と遭遇するとはな……なかなかに運がない」

言葉とは裏腹に楽しげなティーウォンドがゆっくりと剣を抜く。それと同時に俺達も臨戦体勢に入った。


以前、戦った事のある、ひょろっとしていて俺と同程度の身長を持つ『ゴブリン』と、こちらはファンタジー作品と似たような風貌の『オーガ』。

さらに初めて見る爬虫類っぽい外見の『スネイク』にオーガ並の体躯に毛むくじゃらの『イエティ』。

多種多様な魔人の群れは、一定の距離を保ちながら俺達の様子を油断なく睨み付けていた。


だけどさぁ……もうちょっと統一性があってもいいんじゃないかな……。

明らかにスネイクとイエティでは生存地域が違うんじゃないのか?

その辺はティーウォンドやハルメルトも疑問に思ったらしく、釈然としない顔をしていた。とはいえ、やることは変わらない。

人間に対してとことん敵対的な魔人と遭遇したのだから、あとは命のやり取りがあるだけだ。


静かだった樹海の中に、俺達の雄叫びと魔人達の怒号が響き渡った!


……決着はすぐに着いた。

先程まで猛々しく襲いかかってきた魔人達は、ある者は打撃により爆散し、ある者は両断されて息絶えていた。

殺しあう定めの人と魔人とはいえ、戦い終わった後なら拝むくらいはいいだろう。

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。

しかし、感心したのはティーウォンドとレイの技量の高さだ。

木々の多いこの地形で、引っ掛かることなく剣や槍を縦横無尽に振るい、的確に魔人達を倒していたのだから、見事と言う他ない。


「しかし……腑に落ちないな」

ポツリと呟いて、ティーウォンドは魔人の骸に近づく。

「この『スネイク』は主に湿地帯を縄張りとする魔人だし、『イエティ』はアシカテナガ山脈の上部に住み着く魔人だ……この二種が群れをなすとは考えにくい」

やはり棲息地域が離れている魔人が一団になっているのは珍しいのか。


「その疑問には私が答えよう」


突然、魔人達が現れた森のさらに奥から、俺達に向けて声がかけられた!

身構える俺達の前に、危害を加える気はないという意思を示すためか、両手を上げながら二人の人物が歩みでてくる。


一人は三十代半ば程の穏和そうな笑みを浮かべた男。

もう一人は、感情を見せない真面目そうな褐色の肌を持つ眼鏡の女性。

二人とも隠密行動をする為なのか暗い色のフード付きマントを羽織っており、ひょっとしたらどこかの国のエージェントかもしれない。


「……魔人の行動に納得のいく説明ができるというのか?あんた一体、何者だ?」

怪しすぎる二人に俺は疑いの眼差しを向けながら問いかける。

ていうか、タイミング良すぎるだろ。

このタイミングで声をかけてくるなんて、魔人を追っていたか……魔人を操っていたかだ。


「確か……カズナリ君にラービさんだったかな?こうして直接顔を会わせるのは初めてだね」

ゾクリと背筋を悪寒が走る。

「私の名はバロスト・ガテキン。『星の杖』を持つ、『六杖』と呼ばれる英雄の一人だ」

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