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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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翌朝の目覚めは爽快だった。

ようやく陽が登り出した、まだ早朝と言ってもいい時間帯なのだが、頭がすっきりと冴えて「寝たい分だけ寝た」と肉体が満足しているような気がする。

これも『神器』の真の主になった為なのだろうか……。

肉体の充実感と共に妙に気分が高揚している。

オラ、ワクワクすっぞ!って感じが内側から溢れてくるみたいだ。

上体を起こし、ふと気がつけば隣に寝ていたラービの姿が見当たらない。一瞬、お花を摘みに行ったのかな?と思ったが、あいつは排泄を必要としない体だったと思い直す。

まぁ、この近辺なら俺達の脅威になるような魔獣はいないだろうから心配はないと思うが。

目がすっかり覚めていて、二度寝する気にもならなかった俺は、テント代わりのスライムから出て新鮮な外の空気を思いきり吸い込んで深呼吸をする。


はぁ……空気がうまい。

この世界に来てから落ち着いて深呼吸する度に、そんな事を思う。

元の世界にいた頃も、田舎の方に住んでいた俺の回りには結構な緑があった。だが、こちらの世界は緑の量が段違いだ。

緑しか無いともいえるが……。


「おう、一成!もう起きておったのか」

適当にラジオ体操もどきをして体をほぐしていると、森の中から獣と魚をぶら下げたラービが姿を現した。

朝から狩猟とか、頼もしいなコイツ。

「ああ、おはよう」

返事を返し、ラービが捕まえてきた獲物に目をやれば、お馴染みの『一角猪』と『鬼鹿』、魚は『乱れ姫マス』が人数分だった。一角猪や鬼鹿は好戦的な魔獣なので正面から倒す力量があれば捕まえるのは容易だが、乱れ姫マスなんかはランダムな軌道で逃げる為にひどく捕まえづらいタイプの獲物だ。

よく人数分捕まえたなと聞くと、

「なに、『四腕熊』が狩っていた獲物を横取りしただけよ」

ラービは得意気にそう答えた。

鬼かお前は……。

獲物を横取りされた四腕熊には同情するが、俺達が代わりに美味しくいただくから勘弁してほしい。


すでに血抜きを済ませ、内臓も抜いてある為、後は解体して食べやすいサイズに切り分けるだけの獲物。俺はその解体を手伝い、ラービと共にテキパキと朝食の準備をする。

そうしてしばらくすると、レイとハルメルトも起き出してきた。

それじゃあ朝飯にするとしますか。


朝から大量の肉に大ぶりの魚が一匹。そこにサラダ代わりの野草も添えてバランスがいい。

朝食にしては重い、ワイルドかつ大雑把な量の肉を俺達はモリモリ胃に納めていく。

あれだな、やはり魔獣の肉はめっちゃ美味いな。

一応、この世界にも畜産の概念はあって、野生の魔獣を家畜化して安定した肉や乳製品を流通させるシステムは出来上がっているらしい。

元の世界では、そういった家畜の肉の方が品種改良により野生の獣よりも美味しいなんて話を聞いた事がある。その証拠に、好みはあれど、猪肉よりも豚肉の方が美味いと言う意見は多いだろう。

だが、こちらの世界ではそういった家畜よりも野生の魔獣の方が段違いに美味いので、たまに肉屋なんかで売りに出されれば飛ぶように売れるそうだ。魔獣を簡単に狩れる俺達にとってはでかいシノギの臭いがする……。


そんな生臭い話はさておき、あっという間に一角猪と鬼鹿と乱れ姫マスを腹に納めた俺達は、その場でゴロリと横になる。

肉も魚も単純焼いただけだったが、ラービが作った調味料での味付けが絶妙でいくらでも食えた。

だが、蟲脳になってから肉体強化のためもあって大量の食物を消費できるようになった俺とか、食べたものがどこに行ってるのか解らないラービやレイならともかく、ハルメルトがその小さな体に大量の肉を納めたのは驚きと言うよりちょっとしたホラーだと思う……。


少し食休みをしてから後片付けをすませ、いよいよ俺達はハルメルトの村を目指して神獣の森に突入する。

NINJYAよろしく、地を駆け、木々を渡り、川を飛び越える!

そうやって駆け抜ける事、数時間後……。

俺達は、未だに破壊の跡が痛々しい、ハルメルト達召喚士が住んでいた村に到着した。

だが……。


「おかしいな……」

違和感を感じて俺は呟いた。確かこの村には、イスコットさんが神獣である『女帝母蜂』の死骸から武具の素材を取り出す解体作業に来ている筈だ。しかし、彼の姿は見えないし、女帝母蜂の死骸も見当たらない。

これだけなら、単に解体作業を手早く終わらせたイスコットさんと入れ違いになっただけかもしれないが、あの山のような巨体をたった数日でバラせる物なんだろうか?

なにより、神獣の死骸があった場所から巨大ななにかを引きずったような跡が森の方へと続いている。


まぁ、この痕跡から推測するに、何者かが女帝母蜂の死骸を奪い取り、イスコットさんはそれを取り返すべく追っていった……そんな所か?

彼は自分達が狩った獲物に、ヒグマ以上に執着を見せる事があった。もしも本当に神獣の死骸を横取りされたのなら、地の果てまでも追いかけて行くだろう。

しかし、イスコットさんにはアンチェロンの国境警備兵が数人付いていた筈だ。その彼らはどこにいるのだろう?

皆が皆、イスコットさんにくっ付いていった訳でもあるまいし、ここは一応、禁忌の魔法を使う者達が住んでいた村と言う重要な場所であるのだから巡回くらいはしていると思うのだが……。


とりあえず、なにか状況が解る手懸かりは無いか探してみようかと行動を開始しようとしたその時、ふいに森の中で動く人影が見えた!

その人影は、姿を隠そうともせずにゆっくりとこちらに向かって歩いて来るため、奇襲をかけたりする気は無いようだが、油断は禁物である。

警戒しながら謎の人物が森から姿を現すのを待ち構えている俺達の元に、ふと鼻を突くような異臭が風に乗って届く!

オエッとえずきたくなるその臭いは、明らかに何かが腐ったような腐敗臭。

そんな不快な臭いを纏わりつかせ、ようやくその姿を白日の元に晒した人影を見た瞬間、その異臭の原因が解った!


こぼれ落ちそうな白濁した眼球、崩れ落ちたあちこちの体の肉、ボロボロに汚れた衣服……もう間違いない!

ゾンビだ、コレ!

小さな呻き声を漏らしてヨタヨタと歩いてくるその姿は、元の世界でよく観ていたホラー映画のゾンビその物だ。

ウィルスか、突然変異か、地獄が溢れ返ったか?

理由はともあれ俺達を獲物と見なしたのか、そのそのゾンビは俺達に向かって進んでくる。

そんな動く死体が俺達に顔を上げて見せた時、俺の後ろでハルメルトが息を飲んだ。

「トマスさん……」

青ざめながら、ハルメルトはそのゾンビの生前の名を口にする。

もしやとは思ったが、壊滅した村の近くに突然ゾンビが現れたなんて状況から考えるに、この村の住民がゾンビと化した可能性が高いと想定していたが、やはりそうだったか。


しかし、異変はこれだけでは収まらなかった。

村に入った俺達を取り囲むように、次々と元村人だった動く死体が姿を現す。

生者を憎むような呻き声の合唱が響き、俺達もその仲間に加えようと、死者の包囲網は少しづつ俺達へと迫ってきた。

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