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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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翌日の朝、目が覚めた俺達は早々に朝飯を済ませて移動を開始した。

本来の予定では、今日の夜には神獣の森の入り口付近に到着して、そこでキャンプ。翌日に森に入り、その日の夜にハルメルトの村に到着するといった流れである。

しかし、俺とラービのわがままを聞いてもらい、その予定を二日程遅らせてもらう事にした。

理由は言わずと知れた、レイ率いる骸骨兵部隊との脳内組手の為である。


現時点での力量不足を知った以上、先の事を考えれば少しでもレベルアップしておくに越したことはない。

自分達に勝てなければ、並の英雄ならば兎も角、真の英雄クラスには勝てないとレイは断言したのだから、せめて彼女達に勝てるくらいにならねば!


そこで俺が注目したのが、円運動で受けや捌きから反撃に転じられる『太極拳』の『化勁』。

今までの俺達は攻撃にばかり指針が向いていて、おざなりだった防御に目を向ける。

ちなみにラービは自由自在に体重移動が可能な特性を活かして、『掴み』からの『投げ』を重視していくとの事。

この辺は性格の違いだな。


考えてみれば、なまじ威力がでかくて派手なばっかりに、攻撃のみに気を取られていたのは反省しなくちゃならない。

この世界に来たばかりの頃、マーシリーケさんから手解きを受けた時に「生き残りたければ、まず攻撃よりも防御に重点を置くよう」注意されていたというのに……。

まずは初心に返ろう。


とりあえず、今日は始めに予定していた神獣の森の入り口付近まで進み、そこでキャンプ。

そして伸ばしてもらった時間を使って俺とラービは特訓、ハルメルトはマーシリーケさんからのお使いである薬草などの採取を行い、レイはその護衛につく。


俺はひたすら回転する事で掴みにかかるラービの攻撃をかわし、反撃に移る俺の攻撃を掴もうとラービは先読みしようとする。

一見、間の抜けたじゃれ合いに見えるかもしれないが、やってる本人は大真面目だ!

あえて安全性と練習量に優れた脳内組手じゃなく、怪我や下手すりゃ死ぬ事を想定した生身でぶつかり合う事で、ギリギリの緊張感と集中力を生み出し、蟲脳と身体に一挙手一投足を短期間で確実に刻みつけていく!

昼夜を問わず、俺とラービは己の目指すスタイルを確立するために捌き!掴み!打ち!投げる!

笑みすら浮かべて争う俺達の姿を見て、ハルメルトは理解できないといった顔で、レイは「ほう、やりますね御主人様……」といった表情で眺めていた。


そして、伸ばしてもらった二日が経過し、その日の夜に俺達は再び脳内の精神世界で激突する。

俺とラービの正面に対峙する、レイを中心とした骸骨兵隊。

「この二日間、何かコツは掴めましたか?」

尋ねてくるレイに、俺はニヤリと笑って返す。

「ああ、もちろんだ。今度はこの前みたいにはいかないぜ」

「それは頼もしいです。ですが、「不拍千招会、就拍一招精」……でしたか?確か御主人様の世界の言葉でしたよね?」

レイが口にした言葉、それは中国拳法の格言みたいな物だったはず。要するに、「千の技を使うよりも、一つの技を極めよ」みたいな意味だったと思う。

つまり、付け焼き刃の技術よりも、今身に付けている技術を更に鍛えた方がいいんじゃないですか?と、レイは暗に言っている訳だ。

まぁ、それも一理ある。

しかし、俺達だって伊達や酔狂で特訓していた訳じゃない。

「言葉でどうこうよりも、実際に手合わせをしようではないか。その方が解りやすいじゃろう?」

ラービの一言に、そりゃそうだとこの場にいた者全てが頷いた。

さぁて、それじゃあ行きますか……。


…………結果から言おう。勝った。

いや、あっさりし過ぎかもしれないが、あの乱戦をどう説明したものか……。

とにかく、俺とラービはお互いの死角と隙を庇い合い、反撃のチャンスを逃さずにチクチクとダメージを与えていく事でダメージらしいダメージも負わずに勝利した。

格ゲーで例えるなら「出の速い小技で、ひたすら相手の技を潰しまくり」がメインの戦い方である。

ほんの二、三日前には手も足も出なかった俺達が、ここまで一方的な勝利を納めた事に、流石のレイや骸骨兵隊の連中も信じられないと言った表情で、地面に転がったまま俺達を見上げている。

どうでもいいけど、骸骨でも唖然とした表情って作れるんだな……。


「種明かしをしていただいてもよろしいですか、御主人様?」

ふむう、レイはそう言うが実のところ大した隠しダネが有るわけではない。

俺達がこの二日で行ってきた訓練には、防御の強化以外にも鍛える事柄がもう一つあった。それはラービとのコンビネーション。

集団戦に置いて、数が勝る相手にバラけて戦うのは愚策と痛感した俺達は、防御に秀でた技術を自身に叩き込みつつ、お互いが「どう動き」「何をしようとしているのか」を徹底的に理解する事を意識した。

その結果、俺がラービを動かしているのか、ラービが俺を動かしているのか解らなくなるほどのシンクロっぷりが実現したのである。そんな訳で、二対一体となった俺達は四方八方から迫る攻撃を捌き!掴み!打ち!投げた!


そして、いまに至る。

「ブラボー!この短時間にここまで鍛え、技術の拙さをコンビネーションで補うお二人の絆と集中力には、感嘆の言葉しかありません!」

転がったまま拍手するレイ。いや、まずは立ち上がろうや。

「いやいや、誠に大したものですよ主殿。かつて英雄と呼ばれた我々がこうもあしらわれるとは」

いや、それほどでも……って、今の声は誰が?

唐突な声と、カチャカチャと堅い物を叩き合わせる音のする方向に目を向ければ、そこには手を叩く骸骨の姿。

「あれ……?今話しかけてきたのは……?」

「私ですよ、私。ニュアリでございます」

たぶんドヤ顔?をしながら、ニュアリと名乗った骸骨兵は自らをクイクイと指差してみせる。

って、お前喋れるの?話せないから筆談とかしてたと思ったのに。

「正確には声を発しているわけではありませんがね。主殿が我々を屈服させた事により、真に『灰色の槍』の支配者となった為に我々との意志疎通ができるようになったんでしょう」

なるほど、レイだけでなく、その魂の盟友達からもどうやら認められたようだ。


「せっかくですので、ここで我々を紹介させていただきます!なお、先の展開とはあまり関係ないので、読み飛ばしていただいても結構!」

突然、ビシリとあらぬ方向を指差して言い放つニュアリ。

え?誰に言ってんの?


槍使い、青龍偃月刀のニュアリ!

槍使い、ハルバートのラリー!

槍使い、十文字槍のマチルダ!

剣士、バスターソードのフリル!

剣士、ショートソード二刀流のマイメリー!

剣士、ロングソードと盾のジーユ!

弓兵、短弓のライジュ!

弓兵、長弓のオストー!

斧使い、バトルアクスのセント!

魔法使い、マジックロッドのトーバー!


『我ら十名!骸骨戦隊・スケルトンジャー!』

横並びでポーズを決める骸骨兵達の背後で、破裂音と共に色とりどりの爆発が巻き起こる!

よく見れば、彼らが身に付けている鎧も微妙に色分けされていて芸が細かい。

おかしいな……こういった演出を、元の世界の日曜朝に観ていた覚えがあるが、なんでこの異世界で……?

決めポーズのままの骸骨兵達を、なんとなく居たたまれない気持ちで眺めていた俺に、レイが近付いてきて頭を下げる。

「申し訳ありません、御主人様。以前、御主人様の記憶と知識をラーニングしてから彼らはこんな調子で……」

娯楽の少ないこの世界では俺の持っていたオタ知識が新鮮だったのか、元からその気質があったのかは解らないけど……ああ、うん。俺のせいだわ。

「くっ!負けてはおれん……」

体内に収納した鎧を変身ポーズと共に一瞬で装着する特技を持つラービがスケルトンジャーに対抗意識を燃やす。

いやいや、張り合わんでいいから!


「えー……こんな我々ではありますが、今後ともヨロシクお願いします」

ポーズを止めてレイ一同、骸骨兵達が方膝をついて服従の礼を取る。おお……なんかこう、熱くなるものがあるな!

「ああ、これからもヨロシク頼む!」

気の利いた言葉が出てこなかったのはちょっと情けないが、彼等の忠義に答えられるよう決意を固めて、俺は強く頷いた。


…………意識が現実世界に戻って来て、俺はゆっくり目を開く。

夜の闇はまだ深く、月の位置は高い。時刻的にはまだ夜中だろう。隣に横たわるラービとレイは、目覚める気配がない所から意識を覚醒させずにそのまま眠りについたのかも知れない。

俺達を包む半透明なスライムの体越しに夜空を見上げる。明日にはハルメルトの村に到着して、イスコットさんとも再開できるだろう。

久しぶりの再開と、抉られた手甲の修理が頼めるかもしれないというので軽く興奮しつつ、心と体を休める為にも目を閉じる。

そうしてそのまま、心地よい眠りの沼の中に引きずり込まれていった。

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