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インセクト・ブレイン  作者: 善信
8/188

08

勝った!こんな巨大な熊の魔獣に俺は勝ったんだ!

いや、もちろん狩るつもりではいたから勝つのは想定していたんたが、もっとこう……罠を仕掛けたり、不意打ちしたり、弱らせてからチクチク削るつもりだったから、こんな真正面からやりあって勝てるとは正直、思ってなかった。


それにしてもスゴいなこの蟲脳のうりょく

反復練習が直ぐに体に反映されるようになったり、身体能力の上昇率がやたら上がったり、奥の手の『限定解除』だったり。

一介の高校生が、漫画知識で身に付けたうろ覚え八極拳でヒグマやグリズリー以上の怪物を仕留められるんだから、かなりのチート能力と言えるんじゃなかろうか?この調子で鍛えていったら、金髪で髪が逆立つ某戦闘民族みたいになってしまうかもしれん。

フフフ……俺、ワクワクしてきたぞ!

あー、これで魔法が使えたら完璧だったのになぁ。

元の世界に魔法が無かったせいで、「魔法を使う」という感覚や、使用する「魔力」の概念が理解できなかったために、いわゆる攻撃魔法だとか回復魔法だとかの便利な力を、俺は使えない。

だが、それを差し引いてもやっぱり反則気味だよな。俺なんかにこんなヤバい力を授けるなんて……サンキュー神様!


まぁ、最初は蟲とか嫌悪感で死にそうになったが、「住めば都」というか、「朱に交われば赤くなる」というか……人間、その場の環境には慣れるもんだよなぁ。それにこの能力を持ったまま元の世界に戻れたら、スポーツ関係やらで大活躍できるんじゃない?一躍、ヒーローじゃない?

うーん、俄然、ヤル気が湧いてきた!


そんな皮算用をしていると、不意に頭の中で鍵がかかるような音を聞いた気がした。そして次の瞬間!

「ぐぁぁぁっ、ごぉぉぉぉぉっ……っっ!!」

突然、全身に激しい痛みが走る!あらゆる筋肉が千切れるような痛みに、骨という骨が軋むような痛み!

筋が、腱が、とにかく爪先から脳天まで、満遍なく痛い!


すいません!調子に乗ってました!


誰にとは言わず、ひたすら謝罪してしまうような痛みに曝されながら立ち尽くす。端から見たら、滑稽なくらいプルプルと小刻みに震えてる変な人に見えた事だろう。

そんな激痛の中、俺はイスコットさん達から限定解除のリスクとして、スゴい筋肉痛になると聞いていた事を思い出していた。

……うん、筋肉痛という響きで軽く見てました。つうか、死ぬわ、こんなの……。


そんな激痛と戦っていた俺の鼻に、蠱惑的な甘い香りが届く。

俺はハッとして、香りが流れてくる洞窟の方にギシギシと痛む首を曲げて視線を向けた。

そうだ、あんな四腕熊みたいな化け物と真正面から殺りあう事になったんだ。この香りの正体を確かめなければ!

俺は油の切れたブリキの人形のように、痛む体に鞭打ってフラフラと洞窟の内部に歩を進めた……。


「な、なんだこれ……」

さほど深くもないその洞窟は、すぐ行き止まりになっていて、奥には広い空間があった。

だが、俺の目を引いたのは、その空間の壁!目映くきらめく黄金の壁がそこには広がっていた。

現実離れした光景にしばし茫然としていたが、俺はふとあることに気付く。

「これ、金……じゃなくて、蜂蜜か?」

キラキラと輝く壁からは、所々トロリとした粘液状の蜜が流れ出している。そして、俺と四腕熊を魅了したあの甘い香りが漂って来ていた。うう、たまらん!

だが、よく見れば蜜壁のあちこちにアリっぽいような、ハチっぽいような虫がうろちょろしている。

警戒はしたものの、いざ香りの元を目の前にすると、もう我慢ができず壁……いや壁を覆っている蜂蜜らしき物に手を伸ばす。

蜜まであと数センチ……そこでアリハチもどきが一匹、近付いてきた。思わず伸ばした手を止めるが、アリハチもどきは俺の事など気にも止めずに去っていく。

あれ?俺に興味なし?まぁ、それならそれで……。これ幸いと、蜜の塊の一部をむしり取る。

一見すると金の塊か、金色の枯木の欠片っぽいそれは以外にも軽く、柔らかい。たが、手にしているそれからは、質量が有るんじゃないかと錯覚するほど濃密な香りが溢れたしている。

もやは我慢がならず、俺は勢いよく蜜の塊に食らいついた。


…………………………………ハッ!

一瞬、意識が飛んだ。気がつけば、口にしたハズの蜜は口内に残っていない。なんだ、これ……。

少し混乱するも、口や鼻に残る余韻は素晴らしい。

今度はしっかり味わうために、もう一度、蜜を口に含んだ……。

「………………………………甘いっ!」

甘い!美味い!甘い!美味い!

我ながら残念なボキャブラリーだが、この二つの単語が駆け巡り、俺は三たび蜜にかぶりつく!

サクッとクッキーのように軽く砕ける歯触りは心地よく、噛むたびに甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。さらに、ある程度細かく砕けると、それは唾液に溶けて口から零れるほどのジュースに変わった。

口内に溢れるそれは、複雑かつ芳醇な甘さで舌を刺激し、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み込めば、体の内側から染み入るように全身に溶け込んでいく。

花の蜜の甘味、果物の甘味、砂糖の甘味。洋菓子の様な、和菓子の様な、とにかく俺の知るありとあらゆる甘味が混然を層を成し、それでいてサラリとした爽やかさで香りだけを残して消えていく。

舌を、喉を、鼻を、内臓を、そして全身を歓喜させるこの蜜塊を俺は夢中で貪り、ひたすら口内に収めていった。


……………気がついた時、俺はぼんやりと床に座り込んでいた。涙が流れる程の多幸感に包まれ、立ち上がる気力も今は沸かない。

飽食の現代日本にいた頃だって、こんな美味い物は食べたことはない。いや、今まで食べたことがある甘味は何だったのだろう。まさに次元の違う美味さだった。

はぁー……。幸せなため息が零れる。

これは是非、イスコットさんやマーシリーケさんにお土産として持ち帰らなければ!

俺は獲物を狩るために装備していたナイフで蜜の塊を切り取ると、同じく獲物の一部を持ち帰る時に使う大きな風呂敷に包み込む。

ん?そういえば、作業中に気づいたことだが、全身から痛みが消えている。それどころか疲労や怪我まで回復しているじゃないか。

これも蜜の効果なんだろうか。スゴいな蜜!

洞窟から出た俺は、課題だった四腕熊の体を引きずり、風呂敷に包んだ蜜を持って拠点への帰路に地いた。またすぐに蜜を取りに来ようと誓いながら。


一成が激闘を終えてこの場を去ってからしばらくして……ブゥンブゥンと羽音を響かせて、五十センチはあろうかという何十匹もの蜂の様な蟲が洞窟付近に集まっていた。花粉団子を複数ある足にまとわり付かせるそいつらは、何者かが洞窟に侵入したことを察して、情報を伝達すべくガチガチと口を鳴らした。

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