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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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翌日。

俺、ラービ、レイ、ハルメルトの四人は簡単な身支度を済ませて屋敷の入り口に集まった。

一応、目的を確認すれば、神獣の解体作業をしているであろうイスコットさんと合流する事と、マーシリーケさんから渡されたメモの材料を集めてくる事。あとはハルメルトの村で、全滅した村人たちの供養と召喚魔法に関する資料探し。


採取クエストも兼ねている割には俺達の荷物は軽装ではあるが、集めた素材はハルメルトが召喚するスライムの一種、長期保存を得意とする「フリーズ・スライム」に収納するので問題はない。

冷蔵庫のように体内に貯めた品物を一定の温度で保存するといった特徴のあるスライムらしいのだが、一体どんな生態なんだと首をかしげたくなる。消化しないで保存って、仮にも生命体としてはどうなんだろう?

好奇心からハルメルトに尋ねてみると、フリーズ・スライムは体内に取り入れた物を自身に有害な物が無いかじっくりと調べ、安全が確認できたら一気に消化するのだそうだ。で、体内の物が腐敗しないように一定の低温で保存しておくとの事。

消化される前に取り出さなければならないが、十日間くらいはひたすら分析するだけの繊細な奴らしいので、それまでに戻って材料を取り出せばいいだろう。


「アンタら、馬とか使わないの?」

見送りをしてくれるマーシリーケさんが、ストレッチをする俺達に質問してくる。

「ええ、走っていった方が早いし、訓練にもなりますんで」

今回はあまり急ぎでもないし、今後の事を考えて蟲脳のサポート以外でも基礎体力を上げて奥のは良いことだろう。尤も、俺達が走った場合は馬よりも早く目的地に着くだろうが。

ただ、ハルメルトは普通の女の子なので、以前と同じようにラービの体内に入ってもらうことにする。

「では、ハルメルト。遠慮なく来るがいい」

「は、はい。お邪魔します……」

ハルメルトがそっと手を伸ばしてラービの腹部に触れる。するとそのまま、ズブズブとハルメルトの体が飲み込まれていった。

端から見ているとラービの体積が変わっていないのが不思議ではある。やがて、ハルメルトの体が全て飲み込まれた後、彼女の顔だけが浮かび上がるようにラービの腹に現れた。

「…………はふぅ」

気持ち良さそうなため息を漏らして表情を綻ばせるハルメルト。彼女の談では、ラービの体内はとても心地いいらしい。

そんなハルメルトを見て、「次ぎ私です、次は私です」とラービに訴えかけるレイの姿が微笑ましく感じる。

ただ、慈しむようにハルメルトの顔の下辺りを撫でながら、

「一成との間に子が出来たらこんな感じかの……」

と小さく呟くラービさんの愛の重さと、ガチな目付きに少し寒気を感じたのは秘密だ……。


さて、そろそろ行くとするか。

以前、ハルメルト達の村でダリツ達と遭遇してこの王都にたどり着くまで大街道を馬車で進み数日くらいはかかっていたが、円を描くような大街道沿いではなく、円の真ん中を一直線に俺達が全力で走れば明後日位にはハルメルトの村に着くだろう。

まぁ、街道の内側には軍事施設の類いがあるそうだが、王族に顔が利く俺達なら大丈夫だと思う。場合によっては追い付かれる前に逃げ切ればいい。

「それじゃあ、行ってきます」

「はーい、いってらっしゃい」

マーシリーケさんに見送られ、俺達は風を切って走り出した。


人混みをすり抜け、建物を乗り越えて俺達は駆け抜ける!

気分は以前、動画サイトで観たパルクールのようだ。あらゆる障害物を乗り越えて疾走する俺達は、見る人が見ればかなり怪しい連中だったことだろう。

幸い街中でも、街道の真ん中の軍事施設でも俺達は見咎められる事はなかった。もっとも、某アメリカン蜘蛛男の如く、屋根や壁を足場にして移動する俺達を見つけて捕まえろというのが無茶かも知れないが。


順調に街を抜けた俺達は夕方には街道から離れ、神獣の森との中間にある平原でキャンプする事にする。

この地点は、前にバロスト率いる魔人の集団に襲われたポイントにそこそこ近いが、本来は安全地帯と言ってもいい場所らしい。

ちょっとくらい魔獣が出没した方が肉が確保できて夕食に彩りが出るのだが、さすがにそう話はうまく進まない。仕方なくラービがマーシリーケさんから教わって作った、戦場携帯食をかじって夕食とし、ハルメルトが召喚した防御に優れるプロテクト・スライムを大きく広げた物をテント代わりにして雨風をしのぐ事にする。

便利だよな、スライムって。


「さて、今夜もやるか一成?」

「ああ、いっちょ頼む」

まだ日も沈みきらない時間帯ではあるが、ラービは俺の対面に座り顔を近づけてくる。

ある程度の距離までラービの顔が迫った辺りで、俺達の意識は精神世界内へと沈んでいく。


いつもの殺風景で広大な空間、俺とラービが実戦さながらの訓練をする脳内空間。しかし、いつもなら俺達二人しかいない空間に、今日はもう一人の姿があった。

「ほほう、ここで御主人様とラービ姉様が訓練している場所ですか」

さも当然といった感じで現れたレイ。その姿に驚いていると、

「私と御主人様は魂で繋がっていますから、この世界にお邪魔させていただく事が可能でした。二人っきりの空間に乱入した形ですが、どうかご容赦ください」

にこりと微笑んでこの空間に現れた訳を説明した彼女は、自分も訓練に付き合わせて欲しいと申し出てきた。

いや、そりゃ構わないが……レイ自身は戦えるのだろうか?

俺やラービのペースについてこられる位だから身体能力はかなり高い事は解る。しかし、彼女は『神器』という武器そのものであって、武器を振るう技術なんかは持っているのだろうか?

そんな俺の疑問に気づいたのだろう。レイは手のひらから生やすように『灰色の槍』のレプリカを産み出すと、それを握って軽々と振り回して見せた!

その風を斬るその槍さばきは見事な物で、思わず俺達も見とれてしまう。

「ご安心ください、私はこの通り十分戦えます。尤も御主人様が私自身を振るっていただければ最高なのですが……」

熱のこもった視線を俺に向けてくるレイ。そんな彼女の様子を見て、静かに俺の隣にスッとラービが移動してくる。

……まるで、縄張りを主張する猫みたいだ。

そんなラービを何故か頼もしそうに眺めているレイに、俺はどういう風に戦うか提案をしてみる。まぁ、順当なら一対一で戦い、負けた方が交代して勝った奴と競うというのが順当だとは思うのだが……。


「僭越ながら、此度は私がお二人を鍛えて差し上げたいと思います。どうぞかかってきて下さいませ」

そう言うと、レイは自然体で槍を構えて見せる。

オイオイ、レイさんよ……随分と大きく出たな。俺にしろラービにしろ、『七槍』の英雄と正面きって戦うくらいの実力はあるんだぜ?

悪いが、レイがいかに武器の扱いに長けていても、それをねじ伏せるだけの力は持っていると自負している。

「百聞は一見にしかず。まずは手合わせをお願いします」

ふむ、確かに。

レイの言うことも尤もなので、先ずは戦ってみよう。ラービとじゃんけんで順番を決め、グーで勝利を得た俺はレイと対峙する。

フッ……その鼻っ柱へし折ってやるぜ!


そして数分後……。

成す術もなく、俺とラービは打ち伏せられ、地面に転がっていた。

鼻っ柱をへし折られたのは俺の方だったよ……。

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