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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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72

やや番外編的な今回と次回になります。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【『岩砕城壁』攻防戦から三日後】

【ディドゥス王城・特務事項会議室にて】


ディドゥス国の王城に設けられた、緊急かつ重要な議案について話し合いを行うための特別な会議室。

あらゆる盗聴や覗き見を妨害する為に、物理的にも魔法的にも何重もセキュリティがかけられたこの会議室に、ディドゥスの防衛や侵攻を担う重鎮達が一人を除き一同に揃っていた。

重苦しい空気の中、上座に座る現ディドゥス国王グルスタ・クィン・ジャフルは厳しい表情でこの会議室に集まった面々を眺めていた。

グルスタから見て右手には、歳のころ四十代程の屈強な騎士が二人。


手前に座るは『国家護衛団長』ラダマンズ・アダツ。

その隣は『騎士団総隊長』ビルシュゲル・ルゲルマン。

この国の防衛と、敵国への攻撃を担当する総責任者である二人が、対面の者達を睨み付けるように凝視している。


そんな彼等の視線など全く気にした様子もなく、平常通りの態度で座るのは、ディドゥスが誇る『七槍』のメンバーの内の三人。

全身鎧に身を包んだ厳つい戦士、『緑の槍』のランガル・エルクラーブ。

気だるげな表情でぼんやりとした印象の女性、『黒の槍』カルゴン・ジョブーカ。

何やら興奮した様子で椅子に体を擦り付ける、王族にして英雄、『紫の槍』ロージャ・イング・ジャフル。

そして重要な会議にも係わらず、遅れている最後の英雄……。

非常事態によりこの会合が行われているというのに、あまりにもマイペースな英雄達の態度がラダマンズとビルシュゲルを苛立たせ、それらをまとめるグルスタ王の心労を増やしていた。


「……ゴルトニグ殿はまだ来んのか」

『七槍』が全員、揃うまで会議は始められない決まりになっている。時間を過ぎて待たされているビルシュゲルが、同じ『七槍』の面々に遅れている最後の一人について尋ねた。

「さー……なんせ、ゴルトニグさんはマイペースな人ッスから」

だらけた返事を返すカルゴンに、お前が言うなと言いたくなる所をぐっと堪えて、ビルシュゲルは溜め息をつきながら背もたれに体を預ける。


苛立つ総隊長達の気持ちはよくわかる。一触即発とまでは行かなくとも、ピリピリした空気が漂う中で、グルスタ王は英雄達を眺めた。


英雄達かれらの自由っぷりは今に始まった事ではない。

寡黙で物静かなランガルはまだしも、だらけるを通り越して眠そうですらあるカルゴンや、先ほどから奇行を行う歳の離れた妹のロージャに関しては、肉親として総隊長達に謝りたくなるほどだ。


早く会議を始めたいものだと困り果てていたその時、ノックの音が響き、次いでゴルトニグの到着を告げる報が届いた。

即座に入室するように告げると、ほんの少し間を置いて、会議室に一人の男が入ってくる。


その瞬間、部屋の中の明るさが確かに増した。


それは男が身に付けている金色に輝く鎧のせいばかりではなく、男が内側から発するような生命力に満ち溢れた存在感の為でもあっただろう。


「いやぁ、遅れて申し訳ない!」

室内にいる全員に声をかけるようにして部屋に入ってきたその男こそ、『七槍』最強の誉れも高く、彼等を纏めるリーダーの任を担う者。

『黄金の槍』の英雄、ゴルトニグ・ハーキンその人であった。


「お待ちしておりました、ゴルトニグ様!ささ、椅子を温めておきましたので、どうぞ此方へ!」

ゴルトニグが入室してくると同時に、今まで椅子に体を擦り付けていたロージャが席を空け、ゴルトニグの手を取って誘う。

「ありがとう、ロージャ。君は相変わらず優しいな」

王族であるロージャに対するお世辞なのか、ただの天然なのかは解らないが、ゴルトニグは平然とロージャに誘われた席に座る。

「ああ……優しいだなんて……ゴルトニグ様の為なら、私はいつでも……」

普段は長い前髪と、俯きかげんな姿勢の為に表情が解りづらいロージャだが、今だけは輝くような笑顔になっているだろうと声だけで予測できた。


「随分と遅かったな、何かあったのか?」

嫌味ではなく、ようやく会議を始められる安堵の気持ちが含まれた声でグルスタ王は問いかける。

「ええ、実はつい先ほど、アンチェロンに捕らえられた英雄達の安否についての一報が届きました」

その報告に、室内の空気がザワリと波立つ。

「今回の戦闘に参加した、ワイナード、ナディ、トドの三人はアンチェロン側に捕虜として捕まっております。また『神器』の内、『赤』と『白』の槍は滷獲され、『灰色の槍』は行方不明との事です」

ゴルトニグが告げた状況に、室内の空気がさらに重くなる。


「なんという事だ……」

グルスタ王が眉間に皺を寄せ、重々しく呟く。

たった一度の戦闘で、『七槍』の内の三人が敗北し、捕らえられた。これは実質、ディドゥスの戦力の三割が低下したと言っても過言ではない。

それに、自国の英雄が敗北したという情報は、軍の士気に関わる。これは早急に解決しなければならない案件であった。


「捕虜を開放させるための身代金に、疲弊した軍の立て直し……また莫大な費用がかかりますな」

溜め息混じりでラダマンズが呟く。

「それもあるが、何より気に入らぬのは我々に黙って『灰色の槍』、トド殿を動かしていたという事実だ!」

怒りを含んだ声で、ビルシュゲルがゴルトニグを睨みながらテーブルを叩く!

「本来なら騎士団と七槍は別働部隊だ。しかし今回の作戦に置いては七槍の指揮下に置かれ、秘密裏に動いていたトド殿の為の囮か目眩ましに使われた!我々は七槍の下部組織ではないぞ!」

いかに英雄達が強力な精鋭とは言え、騎士団が七槍の使いパシリの様に使われた事実は、彼等の誇りに傷をつけた。

その件に関して了解をしていたグルスタ王が口を開こうとしたが、その前にゴルトニグがテーブルに突っ伏す様にしてビルシュゲルとラダマンズに頭を下げる!


「この一件に関しては、全て作戦立案をした私の責任です。騎士団の誇りを傷付けた事に対しては、後ほど私の名を持って正式な謝罪文を公表しますので、どうか溜飲を下げていただきたい」

『七槍』のリーダーに、こうも堂々と頭を下げられ詫びを入れられてしまっては、さすがに騎士団や護衛団を預かる者とは言え、これ以上の追及はできはしない。


「そもそも、今回の過剰戦力とも言える七槍の投入には理由があるのだ……」

事情を知るグルスタ王が、ビルシュゲル達を宥めるように語りかける。

一体、どのような……?そう、問い掛けようとした二人を制して、ゴルトニグが口を開く。


「『神獣殺し』……それが今回の作戦を決行する切っ掛けです」

その不穏なキーワードに、室内にいる全員がゴルトニグの続く言葉に耳を傾けた。

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