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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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もはや半分くらい戦意を喪失しているのかもしれない。

呼び出した骸骨兵は反撃の手段にされ、切り札の魔人骸骨兵スケルトン・オーガはあっさりと、倒された。

赤や白の槍のような地形効果や温度変化を武器にする能力と違って、一軍隊を召喚する能力では俺達に対して相性が悪かった事もある。

いや……死なず、疲弊せず、しばらくすれば再生する軍隊など、普通ならばとんでもない脅威なのだが。


「ヌシの敗因は『数は暴力』などと、それに頼りきった事よ。だからこうしてヌシ自身が戦わねばならぬ時に何も出来なくなる」

だからと言って手加減などはせんがな……と、宣言したラービは、トドに近付こうとした足を止める。

トドがゆっくりと立ち上がり、槍を構えたからだ!

「……いやぁ、全くもって耳が痛い。今後はしっかりと鍛練を積みましょう」

言いながら槍を逆手に持ち直し、振りかぶりながら全身をねじる!

明らかに投擲の構え!この場に来て、トドは賭けに出て来たようだ。

こうも狙いをあからさまにされれば、逆にこちらのとる選択肢が限られてしまう。


「私とて英雄と呼ばれた者の端くれ、その全身全霊を込めた一撃は、あなた方がいかな鎧で身を包んでいても、当たれば必ず貫きます!」 

ギリギリと引き絞る音が聞こえて来そうなくらい、その身を引き絞るトド。そこに込められた力はかなりの物で、確かに飛来した槍は神器の強固さと相まって神獣の鎧を貫くかもしれない。

「博打は苦手なんですがね……」

当たればトドの勝ち。外れたならば俺達の勝ち。

確かにそれは大博打……。


「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」


その細い体から張り裂けんばかりの雄叫びを上げ、運命の賽の代わりに『灰色の槍』を全力で投げ放った!


槍だというのに矢のごとき速さで放たれた『灰色の槍』。それは寸分違わず、標的に向かって風を切り飛来する!

そう、に向かって!


なにぃぃ!?

まさか、ここに至って俺を狙ってくるか!?

完全に不意を突かれ、頼みのラービも間に合いそうもない!なんとか俺はガードをするために腕を上げようとしたが、その動きは我ながら嫌になるほど鈍かった。


ヤバイ!このままでは、確実に死ぬ!

うおお、動けよ俺の腕!

動け!動け!動け!動け!動け!動け!動け!動けえぇぇっ!

内心で叫び、痛む体に鞭打って腕を上げる為に全力を込める!

その甲斐あって、僅かに右腕を振り上げる事ができたのだが、同時に激しい衝撃と金属音が響き渡った!

手甲の一部がえぐれ、腕がふっ飛んだと錯覚するほどのダメージは受けたものの、なんとか『灰色の槍』を弾く事に成功!

そんな俺の足元に、その『灰色の槍』が突き刺さった。これは……チャンス!


倒れ込むようにして槍を下敷きにし、そのまま押さえ込んで『灰色の槍』を確保する。

よっしゃ、これでアイツは反撃の術を失い、詰んだも同然のはず!

「こっちは押さえた!やっちまえ、ラー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっちまえ、ラー」

そこまで叫んだ一成の声が突然、途絶えた。

「どうした、一成!」

一成に向かって投げつけられた『灰色の槍』を彼が押さえ、反撃を促されたラービだったが、その突然の変化に慌てて声をかける!


「ぁ……ぅ……ぁぁ……」

小さく呻き、焦点の合わない瞳で虚空を見つめながら、ピクピクと震える一成の姿はどう見ても正常ではない。

この異常事態に戸惑うラービ。そんな彼女と対峙するトドの表情には笑みが浮かんでいた。

その余裕の表情に気付いたラービは、一気に詰めよってトドの襟首に掴みかかる!


「うまくいきましたか……『真の切り札』はとっておく物ですね……」

「キサマ、一成に何をしたっ!」

「クククッ……私の仲間、我が主に使える下僕となってもらう事にしただけですよ」

「なん……じゃと……」

「初めから狙いはあの少年……。貴女ではなかったという事です」

トドの言っている事の意味が解らず、ラービは気持ち悪い物を見るような目でトドの顔を覗き混む。


「……そもそも、私は『七槍』を名乗るには少々、実力不足でした。しかし、そんな私がその地位に着く事が出来たのは、『灰色の槍』が私を選んでくださったからなのです」

恍惚とした表情でトドは語りだす。

「槍に……選ばれた?」

「そう!それは相性が良いものに力を貸すといったレベルの『選ぶ』ではなく、明確に!この私を名指しして!『灰色の槍』は、あの方を振るう使い手として私を見いだし、力を与えてくださったのです!」

熱狂的な語りに情熱を込め、まるで殉教者のように『灰色の槍』を讃える。

まるで『灰色の槍』が自我を持っているかのような語り口に、まさか……と呟きかけて、ラービは言葉を飲み込む。

自分だって、元をただせばこの世界の生き物であり、自我を持つ者ではなかったのだ。

自我や意思を持つはずの無い「神獣神器もの」が意思を持ってもおかしくはない。


僅かに動揺するラービ。そんな彼女を無視して、トドはさらに言葉を続ける。

「今、あの少年は『灰色の槍』の洗礼を受けています。数分もすれば私同様・・・『神器』の素晴らしさを知り、その力を振るう事を喜びとする様になるでしょう!」

新たな七槍の誕生だと、高らかにトドは謳う!


「ふざ……けるな!」

その言葉に、絞り出すように呟くラービの声にはは、明らかな怒りが含まれていた。

強者を取り込み、新たな使い手として渡り歩く神器。そのタチの悪さに辟易する。

そして、トドと同じ様にということは……それはすなわち、あの一成が殺しを楽しみ、哀れな犠牲者を使役する事を誇る外道に成り下がるという事だ!


絶対にそんな事はさせない!させるものかっ!


「次の『灰色の槍』たる英雄が生まれた時、私は自らを捧げて真に神器に使える使徒となるのだ!」

自身が骸骨兵として『灰色の槍』に仕える事を夢見てケラケラとトドが笑う。そんな狂信者を殴り付けて放り投げると、ラービは一成の元に急ぎ駆け寄る。

両手でその頭を抱え込み、今だ焦点の合っていない一成の瞳を見つめると、決意を込めて宣言した!


「『神器キサマ』なんぞに一成はやらん!返して貰うぞ!」

気合い一閃!

頭突きのような勢いで額をぶつけ合わせ、いつもの脳内組手の要領でラービの精神は一成の内部に飛び込んで行った!

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