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なんなんだ、コイツら!
どこに埋まっていたんだって勢いで、わき出ててくる『骸骨兵』の数はゆうに百体を超える!
さらに『岩砕城壁』の方からも激しい悲鳴や怒号が聞こえてきた!
そちらに目を向ければ、まるで家屋に巣を作った大量の白蟻が浸食し始めたかのように、城壁に群がる骸骨兵が時には足場となり、朽ちぬ尖兵となって砦を攻めていた。
この場に湧いた骸骨兵と、城壁に群がる骸骨兵。
合わせた数は五百を超える。この急激な事態の変化は、魔法による物なのだろうか?
だが、この一軍を指揮する七槍の二人はすでに倒している。そういった場合は撤退がセオリーなんじゃないのか?
しかし、現れた骸骨兵は殿を務めるような素振りは見せず、むしろ果敢に戦闘を継続している。
七槍の指揮系統とは別の部隊?ディドゥス以外の国の介入?
とにかく、急展開すぎて状況が読めない!
だったら、まずは自らの身を守らねば……。
なんて考えていたら、数体の骸骨兵が俺の方に向かって剣を振り回しながら近付いてきた!
ヤバイ!『限定解除』の反動と、足元から沸き上がり俺の下半身に絡み付いている骸骨兵のせいで、反撃どころか逃げる事も出来ない!
カラカラと笑うようにアゴを鳴らして迫りくる骸骨兵。
止めて、酷い事をするんでしょう!エロ同人みたいに!!
骸骨兵の魔手が俺の体に触れそうになった瞬間!
ズシンと腹に響くような『震脚』を響かせて、ラービの放った『鉄山靠』が骸骨兵を数体、粉々に粉砕しながら吹き飛ばした!
さらに間髪いれずに拳を振るい、周辺にいた骸骨兵の頭蓋骨を砕く!
「無事か、一成!」
「お、おう……」
正直、助かった。今の俺は、電車の中で激しい便意に襲われている人並みに身動きが取れない。
ラービはそんな俺の下半身にまとわりつく骸骨兵を蹴り砕き破壊する。
くっ、なんて頼もしいんだ……。
「すぐに回復薬を……」
「危ない!」
薬を取り出そうと、腰のポーチに意識が向いたら瞬間、その隙をつくようにラービの顔面に目掛けて骸骨兵の剣が突き出された!
激痛が走るにも構わず、俺はなんとかラービを突き飛ばすことでその攻撃を回避させる。
「っ……………!!」
だが、やはり無理をした衝撃は大きく、全身を稲妻が貫いたような痛みが走り回る!ブルブルと震えながら涙を堪えるのが精一杯だ。
「こやつら……再生するというのか!」
いま、ラービに襲いかかってきた骸骨兵は、さきほど彼女によって破壊された内の一体だ。
さらに、鉄山靠で砕かれた連中も、徐々に再生を始めている。これでは流石のラービもジリ貧だ。
「ラービ、俺に回復薬を……っ!」
「そうしたいのはやまやまなのだがの……」
動けない俺に向かって放たれた矢を叩き落とし、ラービは俺を守護るように立ち回る!
いつの間にか骸骨兵は、「近接」、「中距離」、「遠方」に分かれて武器を持ち、それぞれが連携しながら攻撃をしてきていた。
「ラービ、コイツら程度の武器ならこの鎧には通じない!だから、コイツらを操っている奴を見つけるんだ!」
連携を取り始めた骸骨兵達は、明らかに何者かが指揮をしている。そして、その指揮をしている奴が、この大量の骸骨兵を生み出した張本人である可能性は非常に高い。
だったら俺を守護るよりも、そいつを倒した方が事態は好転する筈だ!
「残念だが、そういうわけにもいかぬようだ……」
だが俺の言葉を否定しながら、ラービは矢を叩き落とし、槍を避け、剣を受け止める!
「気づいておるか?コヤツら、ヌシの鎧に覆われていない場所ばかりを狙って攻撃してきておるぞ」
言われてみれば、コイツら……俺の顔面とか間接部分ばかり攻撃してきていた気がする!
ぐぬぬ……なんて奴らだ。ラービが守護ってくれていなかったら、今ごろ俺は顔面をズタズタにされていたかもしれない。
ゾワリと背中を寒気が走り、同時に己の不甲斐なさに怒りを覚える。まさか、俺が足手まといになるなんて……。
悔しいが、今の俺にできる事は少ない。だったら、できる事をするまでだ。
この場でもっとも有効的な行動……それは敵部隊の指揮者を見つける事。
俺は回りを取り囲む骸骨兵の相手を完全にラービに任せ、俺達に向けられる視線を探る事に全神経を集中する!
必ずある筈だ……無機質な骸骨兵の物とは違う、敵意などを持った人間の特有の視線が!
これほどの連携を取る骸骨兵を指揮するためには、この場で戦況を確認しながら命令を下す必要がある。
ならば……きっと……。
…………………………いる!
何か、湿り気を帯びたような視線を確かに感じた!
「ラービ!あの右手にある木の上!そこから視線を感じる!」
俺が視線を感じた場所を指摘すると、心得たとばかりにラービは足元の石ころを拾い、そちらに向けて思いきり投げつけた!
バキバキと枝が砕ける音と共に、投げつけられた石が粉々に……いや、もっと細かい、砂レベルにまで砕かれて風に流れていった。
「やれやれ……見つかってしまいましたか……」
樹上に立つ人物。そいつはなんとも細い印象を持つ男だった。身を隠すような大きいマントに半身を隠し、発見されているにも関わらず余裕を感じさせる態度を崩してはいない。
男はふわりと枝から舞い降り、音もなく大地に降り立った。
そんな男の着地の瞬間を狙い済まし、ラービが放った石ころが隙だらけの男に迫る!
だが!
男は事も無げに武器を持つ右手を振るい、迫る石ころを再び砂レベルにまで砕いていた。
そんな男の技量も大した物だが、何より俺達の目を引いたのは、奴の手に握られていた一振りの得物。
一言で言えば武骨!しかし、何故だか気品すら感じさせるそれは、一見すれば『杖』にも見えた。
しかし、鋭く尖った先端は杖と言うより巨大な串?
いや、串と言うより……『槍』?
まさか……。
嫌な予感に襲われる。そして男は、その予感が正しかったという現実を突き付けてきた。
「私の名はトド・イジュカイラ。『七槍』の一人、『灰色の槍』のトドとも呼ばれております」
深々と頭を下げて一礼をする。
「以後、お見知りおきを」
上体を起こした『七槍』の一人を名乗るその男は、酷薄な笑みを浮かべながら手にした槍の穂先を俺達に向かって突きつけてきた。