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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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その日の昼。

予想された通り、ディドゥス側から進軍してくる一団が現れた。

「おお……こうしてみると、三千人って多いな」

城壁の上から眺めていた俺は、展開している敵の部隊が想像以上に多く見えて、思わず呟いた。

何となく戦いのイメージが万単位で戦う漫画の三国志とかだった為、三千という数字が少なく感じでいたのだが、現実はすごいな。


「……にしても、妙じゃな」

隣で敵部隊を眺めていたラービが呟く。

「だよな……。なんつーか、敵の構成が……」

「うむ、ディドゥスは騎兵部隊がメインと聞いていたが、それらしい部隊がおらんではないか……」

そう、話に聞いていた『騎兵国家』のディドゥスの筈なのに、目の前の敵陣には攻城兵器らしき物を引いている部隊と、各指揮官らしい数人しか馬に乗っている物がいない。


「どういう事だ……?」

「つまり、あれですな。今回は敵さん、この砦を落とすためだけに準備してきたということですよ」

ポツリと漏らした俺の疑問に答えたのは、俺達の方に歩いてきたラックであった。

ていうか、聞こえたのか?

数メートルくらい距離があった筈なのに、独り言みたいな声を聞き取るなんて、やはり彼もただ者ではないということか……。


「兵力の全てを砦攻めに向けるとは、かなりの博打じゃのう……」

ラックの言葉にラービが呆れたように言葉を漏らす。

確かに、全兵力でこの砦を攻められればそれは脅威かもしれない。しかし、平地で圧倒的有利な騎兵というかアドバンテージを無くしてしまったら、こちら側が打って出た場合に相手はかなり不利になるんじゃないのだろうか。

以前、何かの本で城を攻め落とすには、防衛する側の三倍以上の兵力が必要みたいな事を読んだ覚えがある。

つまり、極端な話だがこちらの兵力千五百の内、千を防衛に専念させれば、五百は敵に攻撃を仕掛けられるという事だ。

敵の構成が砦攻めに特化したものならば、その五百の戦力を防ぐ事も難しいだろう。


そんな戦局を想像しつつ、俺達は「ふむう……」とか呟きながら思案していると、

「いやいや、そんなに難しい話じゃないですよ」

パタパタと手を降りながら、ラックが苦笑した。

「つまりね、我々が攻めに転じても『七槍』がいるから返り討ちにできると考えてるんでしょうな」

ラックの言葉に、思わず俺達は敵陣に目を凝らす。今の所それらしき姿は見えないが、なるほど、迎撃の全てを英雄に任せて砦落としに専念する大雑把かつ大胆な作戦か。


「まぁ、確かに英雄が二人も居れば、仮にこちらの全兵力で攻めたとしても、防衛にお釣りがきますな」

ラックがある意味、敵の英雄の力を信頼しているような事を言う。それだけ、『英雄という者』を知っているという事か。

「ただ、今回はこちらにもお二人という切り札があります。ですから……」

ヒソヒソと声量を抑えて、ラックは俺達にとある作戦を持ち掛けてきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あっ……ああ……」

一人の立派な鎧に身を包んだ男が、馬上で大きくあくびを漏らす。彼の鎧もそうだが、騎乗する馬の魔獣も随分と立派で、一見して身分の高い騎兵であることが知れる。

だが何よりも目を引くのが、彼の持つ真っ赤な槍だった。

一見、無骨でありながらも、よく見れば芸術品のような細かい紋様が刻まれていて、持ち主と共に重厚な存在感を放っている。


「仮にも戦場だというのに、緊張感が無さすぎよ。少しは気を引き締めなさいな」

グッと伸びをしている赤い槍の騎兵に、同じく立派な白馬の魔獣に跨がった騎兵が声をかける。

声質からして女性であろう。優雅さと気品を備えた全身鎧に身を包むその姿は、まるで絵画の世界から抜け出て来たかのようだ。

だが、そんな幻想的な彼女の手に握られているのは、優美でありながらも、背筋が寒くなるような恐怖感を周囲にもたらす白い槍。


ディドゥスが誇る、七槍が英雄。

赤の槍、ワイナード・ボルケン。

白の槍、ナディ・バーナード。


二人の英雄は、勒を並べてこれより攻めいる敵の砦を眺めていた。

「……面倒くせぇな。敵が打って出てくりゃ、皆殺しに出きるのによ」

「そうね。それなら確かに楽なのでしょうけど、私の相手をできるのが『岩砕剣』しかいないのだから、今回も引きこもるのでしょうね」

「だったら、あのオーガの雌みてぇなクソ五剣だけでも出てくりゃいいのによ……あいつをぶっ殺しゃ敵の士気はがた落ちだろう」

「その辺は敵も考えてるでしょうね。まぁ、『岩砕剣』が出てくるのは、最後の最後だと思うわよ」

イライラするようなワイナードを、落ち着いた……と言うか、やる気の無さそうなナディが嗜める。

そんな二人に、馬に乗った部隊長の一人が駆け寄ってきた。


「敵、『岩砕城壁』への攻撃の準備が整いました!」

報告をし、次の指示を待つ部隊長に、ワイナードが命令を下す。

「よし、全軍進め!あのクソったれな砦を攻め落とせ!」

ワイナードに一礼して部隊長が走り去り、間もなくして、全軍一成攻撃を指示をするラッパの音が響き渡たる!

怒涛のような歓声と共に、先手となる兵士達が、攻城兵器を移動させる工兵達が一気に動き出した!


その様子を眺めていたワイナードとナディがふと、ある異変に気付く。

敵の砦から、二つの人影が出てきたのだ。しかもその人影は、真正面から迫る部隊に向かって突き進んでくる。

「なんだ、ありゃ……」

「さあ……」


当たり前だが、突撃する自軍に飲み込まれ、その人影は姿を消す。普通ならば物量に押されて、踏み砕かれるだけだ。

しかし、直感的にワイナードとナディは槍を構えた。

その瞬間、人混みを走り抜けてきた人影が、矢のごとく二人に襲いかかる!


馬上の二人に襲いかかってきた人影の蹴りを防ぎ、弾き飛ばす!

クルクルと廻りながら着地した二つの人影は、とある少年と少女。

「なんだぁ……てめぇらは……?」

英雄たるワイナード達に、素手で襲いかかってきた身のほど知らずのガキに対して、ドスの効いた声でワイナードが威圧する。


「ワレはラービ。よろしくな!」

「同じく双葉一成だ。あんたらの相手は俺達がさせてもらうぜ」

悪びれも無く名乗った少年と少女は、二人の英雄を前にニヤリと笑いながら構えをとった。

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