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インセクト・ブレイン  作者: 善信
6/188

06

俺はその日、単独で拠点から離れた森の中を走っていた。

マーシリーケさんからの最終試験、「指定された獣or魔獣を狩ってくる」をクリアするために、獲物を探しているのだ。


「それじゃあ、この中から選んでもらうよー。好きなスタート地点を選んでね」

最終試験のお題を告げた後、マーシリーケさんが差し出したのは、ゴール地点を隠してあり、いくつかの縦線と横線が書いてある一枚の紙。

アミダくじって他の世界にもあるんだ……なんて、ちょっと驚きつつ、ここは慎重にスタート地点を選ぶ。

この人の事だ、どうせ危険で獰猛な獲物しかチョイスしてないだろうが、少しでもマシなターゲットに当たりたい。困った時の神頼み、頼むぜ神様!

スタート地点を選び、鼻歌混じりで線の上をなぞっていくマーシリーケさんの指を見つめる。

やがて隠されたゴール地点の一つにたどり着いた。

「さぁ、選ばれた獲物は……おお、『四腕熊(よつうでくま)』!いいの引いたねー」

陽気なマーシリーケさんの声に、俺は盛大に噴き出した。


四腕熊はこの辺では最強の魔獣だ。性格は獰猛でずる賢く、数メートルはある巨体と、文字通り四本ある前足で獲物を狩る恐ろしく強い熊である。

以前、訓練中に遭遇し、危うく殺される所だったのは俺のトラウマの一つとして心に傷を残していた。

三国志で例えれば呂布レベルのヤバイ奴。それを一人で狩って来いとおっしゃるマーシリーケさんが一番恐ろしい魔獣に見える。

ここは助けを求めるべく、後ろでやり取りを聞いていたイスコットさんの方に振り返るも、

「四腕熊を狩りに行くのか、今作ってる防具の素材にちょうどいいから助かるよ」

助け船は影も形も見えなかった。

いや、そりゃあ、あんたらは普通に狩った事があるかも知れんけど、あんなヤバイ奴を試験の獲物に選ぶか普通?そうでした、この人達は普通じゃないんでした。

「あ、とりあえず……はい、武器はこれね」

そう言ってマーシリーケさんは一本の大振りなナイフを手渡してきた。

……ナイフ一本で四腕熊を狩れっての?バカじゃないの?

「期限は三日。失敗したら、作戦決行日まで私がみっっ……ちり鍛えてあげるから、頑張ってね」

問答無用と言った感じの血も凍るようなサディスティックな笑みを浮かべて、マーシリーケさんは俺を送り出してくれた。


そんな訳で冒頭に戻る。

熊狩りもヤバイが、マーシリーケさんの本気の訓練はさらにヤバイ。

そう、これは生き延びる為の試練なんだ!作戦時に荷物運び要員として必要な試練!

……最早、ヤケクソになった俺は獲物を求めて泣きながら加速した。


それから丸一日経った頃。

……いた。木陰から様子を窺う俺の視線の先に一匹の巨大な四腕熊がノシノシと歩いていた。

うーん、かなりデカイ……。本来ならスルーして別のもっと小さめの個体を探したい所だが、拠点まで戻る時間を計算するとコイツを狩るしかない……。

最初の不意打ちが肝心だ。慎重に慎重を重ねて、確実に決めねば……。

俺はしばらく四腕熊の隙を突くべく尾行していたが、何か様子がおかしい事に気がついた。

なんと言うか……警戒心が薄いというか、注意力散漫というか。

ズンズン進んでいく奴は、普段なら餌にしているであろう獣が近くに潜んでいても目もくれない。まるで、目的地以外は眼中にないといった感じで、ひたすら進む奴に違和感を感じ、俺も興味が湧いた。

とりあえず、その目的地を確かめる為に距離を保って着いていく。


「……ん?」

つい、声が漏れ、慌てて口を塞ぐ。とりあえず気づかれてはいないようでなにより。

ホッとして、思わず声が漏れた原因をもう一度、確認する。

……甘い。妙に甘い香りが、四腕熊の向かう方向から漂ってきている。嗅いでいるだけで涎が溢れてくような、刺激的な甘い香りに注意力が削がれそうになるのを押さえつつ、尾行を続ける。


やがて木々が途切れ、少し開けた場所に出た。その先には洞窟らしき洞穴があり、四腕熊の目的地はそこだと知れる。何故なら、さっきから脳が痺れる様な甘い芳香がその洞窟から流れて来ているから。

ヤバイ!気配を消すのを忘れそうになるほどの甘さだ!この世界に来てから甘味に飢えてた事もあり、この暴力的な香りに溢れる涎が止まらない。

本能と理性がせめぎ合い、気配が漏れるのを隠し……きれない。

焦ったものの、俺の心配は杞憂だった。四腕熊の方もこの香りに夢中のようで、俺の事など気づきもしない。


ああ、なに考えてるんだ俺は。

不意打ちを決めようとしていたハズなのに、俺は木陰から飛び出し、四腕熊と洞窟の間に陣取っていた。

そこで初めて俺に気付いたらしい四腕熊は、牙を剥いて唸り声を上げる。洞窟から漂ってきている香りの元が奴の目的なのだろうが、それを邪魔しようとしている俺に対して怒りで完全な臨戦体勢だ。

だが、本能が、肉体が、そして脳代わりになっている蟲が、洞窟内の何かを求めいる。他の奴に渡すなと叫んでいる。

邪魔されて怒りの頂点に達しているであろう四腕熊であろうがなんだろうが、洞窟の中の何かは渡さない。


俺の獲物を奪おうするなら、ぶち殺す!


目的がすり変わっているいることにも気付かず、俺と四腕熊は殺意の籠った雄叫びを上げて激突した!

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