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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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ここがこれから俺達の拠点となる建物か……。

目の前の大きく、広そうな二階建ての建物を見上げながら心の中で呟く。


ナルビーク王子との交渉の末、俺達には王都の貴族階級が住む一区画に、でかい一軒家が用意された。

他にも、帰還方法の調査協力を取り付け、しばらく暮らしていくための資金調達のメドも立った。

これで、現時点での不安要素は一応、払拭されたといって良いと思う。


一階の正面玄関から入るとすぐに広いロビーになっていて、奥には食堂やら浴場やらの共同スペース。ロビーの階段から二階に上がれば十室ほどの個室があって、それぞれの部屋に寝具やちょっとした家具が用意されていた。

「ふむ……ここは、家と言うより他国からの客を泊めるための施設みたいね」

建物内部を見回して、マーシリーケさんが言う。確かに、人が住んでいる気配と言うか、生活臭が感じられない。

家……よりはペンションか合宿場と呼ぶ方が雰囲気的に合っていた。

まあ、急に家を用意出来るわけないしな。あまり使われていない施設をあてがう方が合理的だろう。


だが、そんな事より個人的に一番重要だったのは、ついに一人部屋な個室を得ることができたってことだ!

二階に向かい、それぞれが適当な空き部屋を自室としてチョイスする。部屋に陣取ると、グッと伸びをして久しぶりの孤独を噛み締める。

今までは、簡易テントやら馬車の中やら、共同で身を寄せあって夜露をしのいできた。

しかしこれからは堂々と、気兼ねなく手足を伸ばして寝る事ができるし……その、なんだ、性欲処理もできる。


いや、これはマジで重要な事ですよ、ハイ。

こちとら健全な男子高校生、日に日に溜まっていく若い衝動はどっかで解消できなきゃ、いつかどこかで暴走していたかもしれない。

ただでさえ、魅力的なマーシリーケさんや、ペタペタくっついてくるラービなんかが近くにいたからね……。よく我慢したよ、俺。

だが、個人的スペースができたのなら遠慮は無用!

ふと、俺の脳裏に浮かぶのは、かつてネットの片隅で見かけた、とあるハードボイルドSF漫画のライバルキャラが叫んでいた、風評被害じみたコラージュ台詞。


「知るかバカ そんなことより オナニーだ!」


……明日は七槍と戦う五剣の援護に向かわなきゃならないけど、今の俺にはこの言葉が重くのし掛かっていた。


コンコン!

不意に扉をノックする音が響き、思わずビクリと飛び上がりそうになる!

「一成、ちょっとよいか?」

扉の向こうからは、ラービの声が聞こえた。

「お、おう。どうしたんだ?」

少し動揺している事を悟られぬよう、極めて平静な声で答えると、扉を開けてラービが室内に入ってきた。

ラービはそのまま、「ほうほう」と頷きながらぐるりと部屋の中を見回す。

「ベッドにソファとテーブル、クローゼットに身だしなみを整える姿見か……やはり、内装はあまり変わらんな」

他の部屋も除いてきたのか、ラービの個室も変わりないのか、そんな感想を彼女は漏らす。

……と言うか、用件は何なんだ?

「おお、そうじゃった!ワレとヌシをイスコットが呼んでおる。下のロビーに来てほしいそうじゃ」

イスコットさんが?

はて……まぁ、とにかく行ってみよう。


ラービを伴って一階のロビーに向かうと、歓談用のソファに座り、その前のテーブルにアタッシュケースのような鞄を二つ置いたイスコットさんが、俺達を迎えてくれた。

「やぁ、二人とも……」

何となく疲れたような、重い雰囲気で声をかけてくる。

「明日は君達は戦闘区域に向かうわけだがささやかながら、これは僕からのプレゼントだ」

そう言って、俺達に鞄を渡す。促されて開けてみると、そこには真新しい防具や戦闘服が入っていた。


「イスコットさん、これって……」

「うん。前にカズナリに貸した装備を参考にして、改良を加えた君専用の装備だ」

そう、前に召喚士の村に向かった時に身に付けていたNINJYAスタイルの装備をさらに動きやすくし、攻撃に使う体の部位を無理なく補強した軽量全身鎧とも言うべき装備が、バラしてその鞄に収納されていた。

一部を手に取ってみると、異様に軽いくせに思いきり力を込めてみても損傷する気配はない。

んん?一体、何で出来てるんだろう、コレ?

不思議そうな俺を見て、イスコットがしてやったりといった感じでニヤリと笑う。


「君達に渡した装備は、あの女帝母蜂マザーの外骨格や外皮なんかを加工して作った物だから、防御力に関してはおそらくこの世界でも最高峰の物だと思う」

マジですか?

あの神獣を加工して防具作るなんて、やはりイスコットさんは只者じゃない。

「あとは、これを持っていくといい」

イスコットさんは俺とラービに、もう一つずつケースを渡してくれた。

そちらには、三本のダガーが入っている。そして、そのうち二本には色の違う宝石のような物が埋め込まれていた。

「赤い宝石のダガーは火を、青い宝石のダガーは水を発生させる。で、何も埋め込まれていたいない一本は切れ味を追求した一品に仕上がっている」

おお……魔法のダガー……。以前、炎が出る魔剣を見てから、いっぺん使って見たかったから、正直うれしい。

それに火と水があれば、万が一、サバイバル生活になったときも、助かる事請け合いである。


「僕にはこれくらいの事しかしてやれないが……必ず生きて帰ってくるんだぞ!」

「……はいっ!」

戦場に向かう俺達の為に色々と用意してくれたイスコットさんに力強く返事をして頭を下げる。それを見た彼は大きなあくびを一つ。

「すまない、ちょっと鎧の仕上げに徹夜していたから……」

そう言うと、バツが悪そうにあくびを噛み殺す。

俺達の為に……改めてありがとうございます!ゆっくり寝てください!

イスコットさんに休んで貰うために、お礼を告げて早々に解散する。

鞄を抱えたまま、あてがわれた自室に戻り鞄を床に置いて明日の出発に思いを馳せる。


……あれだな、溜まった下の欲求をバーニングするのは、帰ってきてからにしよう……。

イスコットさんからもらった装備を前に、必ず無事に帰ってこよう、そしてバーニングしよう!

俺は再び心に誓うのであった。

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