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日曜の朝、微睡みの中で時計を眺める。いつもならとっくに起きてる時間だが、今日は寝坊でも二度寝でもやりたい放題だ。
「お兄ちゃん、何時まで寝てるのー!」
妹の和花奈の声が聞こえるけど、無視だ。今の俺とベッドの仲を裂くことは誰にもできはしない。
ドタドタと階段を駆け上がってくる音が響き、俺の部屋のドアが激しく開かれる!
「もう!早く起きて朝ごはん食べちゃってよ!後片付けができないでしょ!」
共働きの両親の負担を少しでも減らすべく、休日の朝食の準備と片付けは和花奈が受け持っている。なんとも良くできた妹だと世間に宣伝してやりたくなるが、俺の惰眠を妨げるあたり愚妹とも言える。
「もう、起きてよお兄ちゃん!」
掛け布団を剥ぎ取るという実力行使に出た和花奈に対し、俺は掛け布団の端をつかんで、丸くなって奪われんとする。
「もう、早く起きなさいって言ってるでしょうが……!こら、お兄ちゃん……一成!早く起~き~ろ~!」
ぐいぐいと掛け布団を引っ張りながら、兄を呼び捨てにするとは……。
あまり強い言葉を使うなよ……弱く見えるぞ……。
「……ずなり、一成!」
名前を呼ばれて、意識が覚醒していく。
うっすらと瞼を開けると、見知らぬ景色が飛び込んできた。
んん……?どこだ、ここは……?
見たことがない部屋の中、まだぼんやりとした頭を振って上体を起こすと、俺を覗き込んでいるラービの姿があった。
あれ……夢か……。
ひさしぶりに元の世界の事を夢に見た俺は、懐かしさと寂しさに少しだけ気分が落ち込むのを感じていた。
「大丈夫か、一成?」
心配そうにラービが俺の顔を覗き込んでくる。
大丈夫かって……うん、だいじょぶだぁ!と、有名なコメディアンの冠番組タイトルみたいな返事をしようとしたが、ラービの顔つきがマジなので、自重する。
聞けば、ここは大街道近郊の都市『ギハラ』の街。その中の宿屋の一室らしい。
ラービとの脳内組手で疲れきった俺は、今の今まで寝ていたそうで、様子を見に来たラービが眠りながら泣いている俺を見つけたのだそうだ。
……うわ、さっきの夢といい、俺めっちゃホームシックじゃん。
いや、確かに帰還はしたいが、ここまで里心がついていたとは我ながら予想外だった。しかも泣くほど重症な所をラービに見られるとは……。
情けないシーンを見られて、気恥ずかしさで、みるみる顔が熱くなってくる。
「まぁ、夢にうなされていただけなら良いがの」
安心したと共に、湿ったような笑みを浮かべたのを見てしまい、冷たい物が背筋を走る。それと同時にボソリと聞こえた(泣き寝顔についで超テレ顔もゲットじゃ)の小声は聞き間違いであってほしいものだが。
「さて、大丈夫そうなら皆で食事に行こうぞ」
気分を切り替えるようにラービが提案する。と、いうか元々は俺が起きていたら外食に行く事を告げるつもりでこの部屋に来たらしい。うん、街も見学したいし、それはいいアイデアだ。
同意した俺は、早速ベッドから降りると、ラービと一緒に皆が待つ一階にある酒場を兼ねた広場に向かう。
「おっ、来た来た!」
階段を降りてくる俺達に気づいたマーシリーケさんに手を振る。
「起きたみたいで何より。具合の悪い所は無いかしら?」
マーシリーさんからの質問に異常なしと答え、早速出発すべく皆を促した。
「僕は人混みが苦手だから、部屋で荷物番でもしてるよ。なにか美味しそうな物があったら買ってきてくれ」
そう言って宿に残るイスコットさんを残し、俺達は夜の街にくりだす。
この時はまだ気づいていなかった。
俺達を囲むように監視し、移動している複数の影があったことを……